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.国際  投稿日:2018/3/29

2049年には中国がアメリカを圧する ハリス太平洋統合軍司令官証言 その1


森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・米太平洋統合軍ハリス司令官が上院軍事委員会公聴会で証言。

中国の脅威についての証言が最大の比重を占めた

・習近平国家主席は2049年迄に中国軍の「世界級」地位確保を達成すると誓った。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39195でお読みください。】

 

アメリカのトランプ政権は東アジアの安全保障の状況をどうみているのか。日本にとっても最重要の課題だといえよう。同政権下の米軍を代表する形で太平洋統合軍のハリー・ハリス司令官(海軍大将)が3月15日、連邦議会上院の軍事委員会の公聴会で詳細な証言をした。同太平洋統合軍が管轄するインド太平洋地域にはアメリカとその同盟諸国にとって、どのような挑戦や脅威があるのか、という報告だった。

なおハリス司令官はすでにトランプ大統領によって次期のオーストラリア駐在大使に任命された。まだ議会の承認を得ていないが、今回の議会証言は最後になるかもしれないとされている。

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▲写真 オーストラリア駐在大使に任命されたハリー・ハリス司令官 出典 Twitter : US Embassy Canberra

この証言ではハリス司令官はいまのアメリカにとっての挑戦相手として中国、ロシア、北朝鮮、イラン、過激派テロ組織の5対象をあげ、そのうちの4対象がインド太平洋地域内で活動している、と強調した。同司令官はその各組織について詳述したが、最大の脅威としてあげたのが中国だった。中国の脅威の内容についての証言が全体の報告では最大の比重を占めた

そのハリス司令官の証言のうち、中国についての報告内容を紹介しよう。日本の安全保障にとっても最大の重みを持つ相手国の動向である。

 

【全体図】

第二次大戦後の長い間、アメリカ主導の、一定規範に基づく国際的な秩序はインド太平洋地域を平和に保ち、地域全体の経済繁栄を生み出してきた。この地域的な安定から最大の利益を受けてきたのは中国だといえる。国際的な法律と規則の尊重、そしてその順守はアジア太平洋に近代でも最も長い平和と繁栄の時代を作り出してきたといえる。だがその状況が変わってきた。

中国は南シナ海でとくに挑発的で不安定となる行動をとるようになった。2018年のいまもその行動は止まっていない。中国の歴史的にも前例のない経済発展は目をみはるような攻勢的な軍事増強を可能にして、まもなく軍事のあらゆる分野でアメリカと正面から対決する状況となった。中国のそうした軍事面での拡張は、ミサイル・システムの顕著な増強、第5世代戦闘機能力、中国海軍の規模と能力の増大などを含んでいる。

中国海軍の拡大の主要な構想の一つは中国軍としては初めての海外基地、ジブチである。超音速のミサイルなどを含む軍事技術の新しい波への中国軍の大規模な資金投入もアメリカ側の懸念の対象となっている。その軍事技術にはさらに宇宙やサイバーの高度な軍事能力や人工頭脳(AI)の新開発も含まれる。

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▲出典 Google Map

この種の中国軍の戦力増強に対してアメリカ側もいま以上の努力をしなければ、太平洋統合軍は未来の戦場において中国人民解放軍ときちんと競合する闘争ができなくなる。

中国のいまの軍事近代化はインド太平洋地域の各国にとって将来の安全保障上のパートナーとしてアメリカのかわりに中国を選ぶことを強いるという、中国側が宣言する戦略の核心なのだ。

 

【主要なチャレンジ】

中国人民解放軍の近代的ハイテク戦闘部隊への急速な進化は非常に印象的であり、懸念の対象でもある。中国軍の能力は全世界のいかなる国の軍隊よりも急速に発展している。その基盤は強固な国家資源と国策での優先順位である。

2017年10月の共産党第19回全国代表大会では党総書記の習近平氏は軍事力発展が国家優先策であり続けることを公約した。習氏は2035年までに軍事近代化を完結させ、2049年までには中国軍の「世界級」の地位確保を達成することを誓ったのだ。米太平洋統合軍としては、中国軍のこの現在の増強の軌道が続く限り、この種の目標を公式な達成時期よりも早くに実現すると予測している。

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▲写真 中国共産党第19回全国代表大会 出典 中華人民共和国人民中央政府

中国人民解放軍が地理的基準に基づく「戦区司令部」を作る再編成を実行してからすでに2年が過ぎた。この間、中国軍は敏速な機能のプロセスと構造の急速な成熟化を示した。朝鮮半島情勢が緊迫するにつれ、中国や関係諸国の報道機関は朝鮮有事に責任を持つ中国軍北部戦区での演習や準備に光をあてるようになった。この戦区は朝鮮有事に責任を有する司令軍区なのだ。

同様に西部戦区では昨年の夏と秋、中国とインドの国境近くの洞朗(インド名・ドカラ)地域での両国軍隊の対立状態が続き、多様な活動が起きた。中国軍はなお前進するにはいくつもの課題を残しているとはいえ、各部隊間の相互運用性は確実に増してきた。

その2へつづく)

トップ画像:ハリー・ハリス司令官 出典 U.S. Pacific Fleet


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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