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.国際  投稿日:2024/4/8

アメリカ議会で最活発な議員の去就


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国関連問題を追及する「中国共産党とアメリカの競合に関する下院特別委員会」。

・マイク・ギャラガー委員長は4月に辞職。

・しかし同委員会の活動は変わらないだろう。

 

アメリカ議会に通って、その活動を連日、考察していると、外交分野ではやはり中国が最大の課題だと実感させられる。もちろんロシアのウクライナ侵略も主要課題である。アメリカとしてウクライナにどこまで支援するかは、議会でも切迫した課題である。中東でのイスラエルとハマスの戦いも、アメリカ議会では法案審議が熱っぽく展開される。

しかしその種の外交関連の諸課題を俯瞰しても、やはり議会全体でいま最大の熱意や精力を向けているのは中国対策のようにみえるのだ。その背後には、アメリカ合衆国にとって中国こそが自国の根底を揺さぶられる脅威だとする危機の認識があるからだろう。

だからいまのアメリカ議会の上下両院を通じて、もっとも活発にみえるのは下院の中国特別委員会であることはふしぎではない。中国が最大の課題の現議会で中国関連問題を専門に追及するのが、この特別委員会だからだ。ただしこの委員会の正式の呼称は「中国共産党とアメリカの競合に関する下院特別委員会」である。

中国系動画投稿アプリTikTokのアメリカ国内での利用を禁止する法案を下院本会議がこの3月13日に可決したのも中国特別委員会が法案作成段階からもっとも積極的に推した結果だった。

この委員会は3月7日には中国側のアメリカ国内での生物工学活動を規制する公聴会を開いた。中国がDNA(遺伝子)操作を含む新技術を米側から取得して軍事や国内監視の武器に使うことを防ぐという趣旨だった。私も傍聴したが、主題が高度技術なのに熱気に満ちた超党派の審議だった。

なにしろ中国特別委員会は毎週数回も中国政府の新たな動向に警鐘を発するメール情報を送ってくるのだ。私もこの委員会の取材申請名簿に登録したので、委員会の発表文書はすべて送られてくる。

さてこの中国特別委員会のマイク・ギャラガー委員長はこれまたアメリカ議会全体でもっとも目立つ言動の議員だといえる。昨年始めからの新議会でこの特別委員会の創設の先頭に立ち、下院での多数派の共和党を代表して委員長となった。そしてギャラガー議員はその後も中国の膨張への多様な抑止策を民主党側をも巧みに巻き込んで次々に打ち出してきた。

年齢ではまだ若手のギャラガー議員がこの特別委員会の委員長となったのは、本人の実力、実績だといえよう。中国問題ではかねてから重厚な議会活動を積み重ねてきたのだ。

ギャラガー議員は40歳だが、4期8年の議員歴を有する。海兵隊の将校を7年も務め、イラクでの軍務2回という異色の経歴である。退役後、名門大学で国際関係の博士号を得て、中国情勢にも精通する。議場での中国問題に関する発言、演説は適切な資料と論理で高い評価を受けてきた。中肉中背の体躯だが、過去7年、アメリカ議会主催の5キロのマラソンで連続優勝して、「議会で最速の走者」と呼ばれてきた。

ギャラガー議員は中国の膨張を「アメリカの21世紀のあり方を左右する国家存続にかかわる課題」と定義づける。ただし中国の政権と国民とを区分して、あくまで政権の無法な対外活動の抑止を主張するわけだ。

ギャラガー議員とは私も昨年9月、議会内のすしパーティーで会話をしたことがある。中国の日本の水産品禁輸に抗議して、議員たちが日本の魚のすしを食べる集いだった。下院議員が合計40人ほどもきたが、ギャラガー議員が来場すると、会場の空気が引き締まったことを感じた。

私が話しかけると、ギャラガー議員はすしをほおばりながらも、きちんと一対一の会話に応じてくれた。同議員は熱心にアメリカの中国抑止には日米同盟が重要な役割を果たすと強調し、中国の日本水産品の輸入禁止はなんの根拠もない無法な措置だと語った。

さてアメリカ議会の中国問題審議ではこれほど中枢の実績をあげてきたギャラガー議員が意外なことにこの4月中に議員を辞職すると発表した。このあたりはいまのアメリカ議会政治の激しい変動なのだろう。本人は家族にかかわる理由だと言明したが、やがて上院選挙に出るという情報もある。もしトランプ政権が来年1月に登場すれば、閣僚級で迎えられるという推測もある。

しかし気になるのは、では同議員の退任で中国特別委員会の活動はどうなるか、である。簡単にいえば、あまり変わりはないだろう。なぜなら同委員会自体の超党派の中国との対決姿勢は強固だからだ。そのうえに議会全体の中国への不信もきわめて強いのである。

トップ写真:TikTokを禁止する法案が下院で可決された後、連邦議会議事堂の外で会見するマイク・ギャラガー米下院議員(2024年3月13日ワシントンDC)出典:Anna Moneymaker/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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