[安倍宏行]<元フジテレビ解説委員がテレビ局に問う>小保方会見に見る「テレビの残念な報道」
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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◆小保方晴子ユニットリーダー記者会見〜凝りないテレビの残念な報道ぶり
また同じことの繰り返しか・・・。今回もそう嘆息せざるを得ない。
小保方さんのニュースが本題から大きくずれて、「リケジョ」だとか「割烹着」だとか「女子力」とかのキーワードで解説されることにはさして驚きもしない。テレビなんてそんなもんだし、それを面白がって見る人が多いのも事実なのだから。しかし今回は敢えてテレビ局に問いたい。東日本大震災直後の反省は何処に行ったのか?と。
福島第一原子力発電所で水蒸気爆発が起きた時、私はBSフジの「プライムニュース」という報道番組で、解説委員として出演していた。予期せぬ事態とその後の原発事故の展開に、私を含め制作スタッフは頭を抱えた。原子力の知識がある人間が社内に全くいなかったからだ。
そもそも、政府の発表の検証はどうしたらいいのか、誰を番組に呼んだらいいのか、何を聞いたらいいのか、分からなかったのだ。唯一、NHKだけが科学部というセクションに原子力に詳しい記者を擁していた為、かろうじて「自前で」解説することができた。
その時、テレビ各局は、社内に専門記者を育てておく必要性を嫌と言うほど感じたはずだ。しかし、今回の小保方さん報道で、専門的な検証報道がなされていないところを見る限り、人材の育成、もしくはそうした人材からなる組織の立ち上げに真剣に取り組んでいる局はないようだ。
臓器の機能が失われてしまう患者の治療には、これまで臓器移植という方法しかなかったが、iPS細胞から臓器を創出することが出来れば、臓器移植の代替治療として画期的だ。だからこそ、世界中の学者がiPS細胞の研究に血道をあげているのだ。そうした中でのSTAP細胞の発見で、まず真っ先に報じなけばいけないのは、「iPS細胞と何が違うのか」という点と「再生医療に今後どのような変化をもたらすのか」の2点であろう。
しかし、一部メディアはあたかもSTAP細胞の方がiPS細胞より優れているかのごとく報じた。これに対して、iPS細胞の生みの親、山中伸弥教授率いる京都大学iPS細胞研究所はすぐさま反論をHPに掲載した。(注1)こうした重要な指摘を大手メディアは積極的にフォローしているとは言い難い。
先日の小保方さんの会見の翌日、情報番組の中には、彼女の服装やメイク、髪形などを解説しているものもあったが、そんなことより、視聴者が知りたい事は山ほどあるはずである。しかし、専門的知識のある記者やディレクターがいない為、そういう番組作りをしようとは誰も思わない。仮に誰かがそう提案したとしても、「そんな小難しい企画は誰も見ない」と切り捨ててしまっているのが現状だ。余りにも視聴者を馬鹿にしている。
今のテレビは視聴者の知りたい、という欲求に答えていない。百歩譲って専門的な検証番組を作らないにしても、多くの患者に間違った情報を流す事だけは避けなければならない。もし間違ったら、懇切丁寧に訂正を放送しなければいけない。
数百万、下手したら数千万人が視聴しているテレビ。自らの影響力をしかと認識し、真摯な番組作りとは何なのか、今一度振り返るべきだろう。
(注1)「iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察」京都大学iPS細胞研究所
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