[安倍宏行]テレビのニュース番組が見られなくなった理由〜元フジテレビ解説委員が指摘する4つの理由
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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テレビでニュース番組を、もはやほとんど見なくなった。
テレビ局に居た時は机の上のテレビが常時onになっているから、必然的に各局のニュースをザッピングして見ていたが、それが如何に特殊な環境だったか、今となっては思う。
大学で講義をする時、必ず学生にニュースをどの媒体で見るか聞いてみるのだが、新聞、テレビと答える学生はほぼ皆無に近い。Yahoo!ニュースなどをスマホやタブレットでちらっと見て、それで終わり、という学生がほとんどだ。 何故、テレビニュースは見られなくなったのか?それは以下の理由によると思われる。
- 速報性でネットに負けている。
- 視聴率が取れそうな最大公約数的なニュースが先行し、個々の視聴者のニーズに対応しきれていない。
- ニュースの詳しい解説や分析を放送できていない。
- 「キャスター」がコメントを流し続けている。
「1」は言わずもがな。逆立ちしたってネットにはかなわない。現場に記者やカメラクルーがいなければそもそもニュースを送れない。しかし、スマホを持っている人間がその場に1人いればネット中継が可能になってしまったのだ。数時間前にネットで見聞きしたニュースをわざわざテレビで見ようとは思わないだろう。
「2」だが、テレビの報道の編成というものは、ニュースの重要度よりも、視聴率が取れそうかどうかを基準に行う。例えば、世界的にはウクライナのクリミア半島にロシア軍と思われる勢力が展開したというニュースがトップ項目だが、その日、東京に大雪が降ったら、それがトップに来る、といった具合だ。
視聴率という基準で総ての番組が作られているのだから、これは必然であり、変わる事はない。そうした編成に対し、総てのニュースに誰もがフリーハンドにネットで触れることが出来る今、多くの人が違和感を抱いているだろう。
「3」は、実はテレビ局も気付いていて、記者がスタジオで解説したり、BSで本格的な報道番組を制作したりしてはいる。しかし、地上波のニュースに限って言えば、やはりニュースの解説に時間を割いている局は民放ではほとんどない。しいていえば、NHKは、ニュース番組の数が多いゆえに、解説コーナーが長めにとられてはいる。
しかし、せいぜい2、3分の事であり、視聴者の理解も不十分で生煮えのまま、次のニュースに移ってしまうことが往々にしてある。結局、背景や分析が知りたくてもそれに答えてくれないテレビに対し、視聴者は隔靴掻痒の感を抱いているのだろう。
さて「4」だが、そもそもジャーナリストでもない人間がニュースキャスター(英語ではニュースアンカー)という立場で、知った風なコメントを呟くのに、視聴者は辟易しているのではないか? そもそも英語でアンカーとは「錨(イカリ)」という意味で、番組の核となり、しっかりと進行させる要である。
ニュースの深層に迫る為、現地のリポートを引きとったら、それを専門家にぶつけて解説を求める、といった具合だ。現場を取材をしてもいない「司会者」がしったかぶりを決め込むスタイルを20年以上も引きずっていることも、視聴者離れを加速させているだろう。
ではどうしたらいいか? それは現役テレビ報道マンが考える事であり、ここでは論じない。がしかし、顧客のニーズに答えられない企業は市場から退場を迫られるという当たり前の市場原理がこれまでなかったからと言って、将来もそうだとは限らないのである。
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