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.経済  投稿日:2026/1/3

【2026年を占う】 経済:「給付付き税額控除」の制度設計がカギ


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・2028年導入予定の「給付付き税額控除」の制度設計が、2026年内政の最大の焦点。

・この制度は、所得税減税で残された「社会保険の壁(130万円)」など、三つの主要な課題を解決する「切り札」。

・2026年は制度導入のための「システム構築」と、財源確保に向けた「日本版DOGE」による聖域なき削減が極めて重要となる。

 

2025年内政最大のニュースは日本初の女性総理誕生だろうが、次点はなんといっても、国民民主党が訴え続けてきた「所得税基礎控除の178万円への引き上げ」が実現したことだろう。2024年12月の自公国の幹事長3党合意から実に1年。石破政権下ではほとんど動かなかったが、高市政権でついに壁が大きく動いた。これはガソリン暫定税率廃止に次いで画期的なことだ。多党化における政策決定の例として歴史に残るだろう。

今年、幅広い層の家計に数万円単位の減税がもたらされるが、政治の焦点は早くも「その次」へと移ることになる。具体的には、「給付付き税額控除」が今年の焦点となるわけだが、本稿ではなぜこの制度が議論の俎上に上ることになったのか復習しておこう。

「給付付き税額控除」は、低所得者支援策のひとつであり、古くて新しい。振り返れば、非課税層に現金給付する仕組みとして、民主党政権時代(2010年頃)の社会保障・税一体改革で議論されたのがルーツである。今回、基礎控除の引き上げが「即時手取り増」の物価高対策として先行したが、国民民主党は、給付付き税額控除は次のステップ、いわば本丸として位置づけており、高市政権もその認識を一にしている。

というのも、今回の所得税の基礎控除の引き上げでは2つの壁が残ったままであり、かつ住民税の基礎控除は据え置かれたままという中途半端なものだからだ。

元々国民民主党が主張していた案は、以下の図のとおり、住民税を含む基礎控除を178万円に引き上げることで、年収300万円〜600万円の中間層世帯で10万円超、800万円超で20万円超の減税がなされる内容だった。178万円は「最低賃金上昇率」で算出したもので、憲法25条で定められている「生存権」に基づく、と国民民主党は説明していた。この「手取りを増やす」政策を支持し、衆院選、参院選と同党に投票した有権者は多かったと思われる。実際、筆者の周りの大学生の中には、この政策を知って国民民主党の比例に投票した、と言っていた者がいた。

▲図 国民民主党の当初案(基礎控除引き上げによる年収別減税額)出典:X @tamakiyuichiro

しかし、今回の税制改正では、控除額の引き上げに、最低賃金上昇率ではなく、消費者物価上昇率が採用され、国民民主党の当初案とは大きく異なるものになった。最低賃金基準だと減税額が大きく、税収減が年数兆円規模になる可能性があったため、物価ベースの穏やかな調整を主張する政府・自民党の主張を崩すことができなかった。

具体的には、2026年分の基礎控除(本則)給与所得控除は、消費者物価の上昇率に基づき、恒久措置として4万円引き上げられ、それぞれ58万円から62万円、65万円から69万円となる。加えて、2024年に設けられた基礎控除の特例措置を、給与収入665万円までの人の基礎控除を42万円引き上げる。給与所得控除にも特例措置として5万円引き上げられる。結果、引き上げられた基礎控除(本則)、給与所得控除最低額との合計は178万円(62万円+69万円+42万円+5万円)になる。特例措置部分は2026年・2027年の時限措置だ。

▲図 基礎控除(所得税)改正の全体像 出典:第一生命経済研究所

この特例措置の拡充の恩恵は、年収665万円以下の層に特に大きい。基礎控除の本則部分の引き上げによって、高年収世帯にも減税効果が及ぶが、国民民主党の当初案には遠く及ばない。単身の給与所得者の場合、2024年から見て、ほとんどの年収の層で約3万円から6万円程度の減税となる。しかし、年収が800万円超の層だと年収600万円程度の人の減税額より下がってしまう。

政府・自民党は、中間層は年収700万円以下と考えているようだが、年収700万円〜1,000万円超の層も中間層に入ると筆者は考える。働き盛りで、子育て真っ最中であり、教育費や食費、住宅ローンなど支出が一番多い層だ。しかも、高い所得税率に加え、社会保障費の負担、物価高もあり、1,000万円もらっていても生活は決して楽ではないだろう。決して高額所得者などではない。この層に手厚い減税の恩恵がないのは問題だと考える。政府も既存メディアも、ことあるごとに高額所得者に恩恵が及ぶことは避けねばならない、という論調を打ち出すが、一生懸命働き年収を増やした人たちはそれなりに高い税金、社会保障費を負担している。この層の働く意欲を失わせるような税体系であってはならない、と筆者は考える。

▲表 年収別の減税額試算 出典:第一生命経済研究所

そして、それ以外にも課題が残っている。

1つめが、社会保険の壁(130万円)だ。所得税が178万円までかからなくなっても、年収130万円を超えると社会保険料(年約20万円〜)の負担が発生する。これにより、130万円を超えた瞬間に手取りが減る、いわゆる「働き損」が生じる。

2つめが、住民税の基礎控除が手つかずであることだ。 今回の引き上げは「所得税(国税)」が対象で、住民税については基礎控除が据え置かれた。そのため、年収110万円程度から住民税の支払いが発生するケースが多い。

3つめが、今回の引き上げが2年間の時限措置であることだ。 178万円を実現するための上乗せ分は、現時点では2026年・2027年の時限措置となっている。

これら3つの課題を根本から解決するための「切り札」として位置付けられているのが、2028年導入予定の給付付き税額控除というわけだ。では、給付付き税額控除がどのようにこれらの課題を解決するのだろうか。

まず、「社会保険の壁(130万円)」だが、 給付付き税額控除は、 社会保険料を払うことで手取りが減ってしまう層に対し、その減少分を「給付(還付)」という形で国が補填し、年収が上がれば手取りも増えるようにすることで、この課題を解決する。

住民税の基礎控除が手つかずであることに対しては、所得税・住民税・社会保険の仕組みを「一つの統合されたシステム」で計算し、「所得税はかからないが住民税はかかる」といった中途半端な状態を解消し、自治体の事務負担を減らしつつ、国民にとって分かりやすい「手取り保証」を可能にする。

税制と給付を合体させた「給付付き税額控除」により、「社会保険料や住民税の負担で苦しむ人」に光を当て、働く意欲を削がない仕組みを実現するのが政府の方針だ。

しかし、言うは易く行うは難し、である。2026年は、2027年の防衛増税、2028年の給付付き税額控除に向けた「システム構築」の年となる。マイナンバーカードと公金受取口座の完全紐付けを所得税還付とセットで加速させ、申請が必要ない「プッシュ型給付」を可能にする行政DXを今年どこまで推進することができるかが、高市政権にとって極めて重要な課題となる。

特に、給付付き税額控除の公平性を担保するためには、給与所得だけでなく金融所得を含めた「真の総所得」の把握が欠かせない。現在、マイナンバー制度は個人の金融所得を完全には捕捉できていないため、証券口座との紐付けを迅速に義務化、あるいは促進できるかが、資産家への誤給付を防ぎ、真に困窮する層へ財源を集中させるためのカギとなる。

また、「日本版DOGE(政府効率化局:仮称)」による「聖域なき削減」の具体化も今年の重要課題だ。高市政権直属の「日本版DOGE」は、2026年を通じて既存の補助金や「租税特別措置」にメスを入れることが目標だ。特に3月末で期限を迎える大企業向け賃上げ税制の廃止を皮切りに、数兆円規模の財源捻出を目指している。これは、2028年に予定される「給付付き税額控除」の原資を確保するための死守ラインとなる。

少数与党である自維政権が他の野党との協議を加速させ、2028年までに給付付き税額控除の制度を作り上げることができるのかが今年最大の課題となる。

2026年 政治日程・内政カレンダー>

時期政治・内政イベントの内容
1月第216回通常国会召集。2026年度予算案の審議。
自民・維新が合意した「衆院定数45削減法案」の提出・審議開始。
2月定数削減を巡る与野党攻防。削減対象区(香川、京都等)。
確定申告開始(先行減税分の還付確認)。
3月2026年度予算の成立
「身を切る改革」として定数削減法案の採決を巡り、国会が緊迫。
4月改正所得税法の施行。給与明細での「所得税減税(178万の壁対応)」が開始。
防衛増税3税(法人・たばこ等)の段階的引き上げ開始。
6月通常国会会期末。減税の実績と定数削減の成立をセットにした、衆院解散の有力候補時期
一票の格差是正(アダムズ方式)に基づく新区割りの周知。
7月外交・内政調整。サミット後の支持率を見極め、秋に向けた政局運営の判断。
9月内閣改造・党役員人事。解散総選挙を行わない場合、ここで体制を刷新し「2028年新税制」へ。
12月2027年度税制改正大綱の決定
自動車税制の抜本改正と、給付付き税額控除の最終要件確定。

以上

トップ写真:日本取引所グループ大納会に出席する高市首相(2025年12月30日)出典:首相官邸




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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