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.政治  投稿日:2025/5/15

港区長インタビュー:清家愛氏が語る防災対策と課題


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!

【まとめ】

・清家港区長に港区の防災対策と課題について聞いた。

・帰宅困難者対策や防災アプリなど、区として情報発信を強化している。

・区民も区内で働いている人も区の災害対策情報に触れ、活用を心掛けたい。日頃からの備えが大切だ。

 

東京タワーや六本木ヒルズなどのイメージが強い東京都港区。外国人が多く居住していることでも知られている。

私の前の会社は港区にあった。辞めてからも20年以上港区に拠点を置いている。

清家区長は区議会議員として4期13年勤め、昨年の区長選挙で、6選を目指した現職の武井雅昭氏を破り、区長となった。

区の前例主義や港区の政治全体を覆っている閉塞感を変えていく、と語っていた清家区長に、防災対策を中心に話を聞いた。

■ 防災対策

港区で私がかねてより懸念しているのは、首都直下地震などの大災害が起きたとき、区は対応できるのだろうか、ということだ。

今から14年前。2011年の3月東日本大震災の時、東京は震源地ではなく最大震度5強ですんだが、港区を走る幹線道路の青山通りや六本木通りは、帰宅する人と車で大渋滞となった。もし東京が震源地だったらこんなものではすまないだろうと考えると背筋が寒くなる。

真っ先に気になるのは、一斉帰宅を抑制するための帰宅困難者対策だ。港区は、東京都の帰宅困難者対策条例に沿い、企業や私有施設を活用した一時滞在施設を確保している。防災情報専用のホームページ「港区防災ポータルサイト」では、災害発生時に、自分がいる場所から一番近い受入れ可能な一時滞在施設を検索できる。同サイトは外国人にも配慮し、100以上の言語に対応している。

▲図 港区防災ポータルサイト 出典:港区防災ポータルサイト

また、発災時、公共交通機関の駅などにいる場合、構内などに貼ってある港区のポスターのQRコードをスマホで読み込めば港区防災ポータルサイトに接続し、一時滞在施設の場所を確認できる。

東京都の被害想定では港区の帰宅困難者は4万3,644人と想定されている。港区では受入れ数で4万7,593人分を確保しているという。ただ、帰宅困難者が駅前などに滞留することを考えると、港区の一時滞在施設が過密化するリスクがあり、さらなる受入れ数の拡大は不可欠だ。

▲図 港区の帰宅困難者に一時滞在施設を案内するポスター 出典:港区

港区防災ポータルサイトのほか、港区では区民の防災意識の普及・啓発のため、スマートフォン等で利用できる「港区防災アプリ」も配信している。ダウンロードしておけば災害情報をプッシュ通知で受け取ることができ、便利だ。

▲図 港区防災アプリのスクリーンショット 出典:港区防災アプリ

▲写真 左、港区防災アプリ(iOS版) 右、港区防災アプリ(Android版)

清家区長は、「港区防災アプリで区民避難所を検索できますが、住民の方からは、普段の生活の中でここが区民避難所だと分かるようになってるといいね、という声も出ています。例えば、工事現場の囲い塀などに、区民避難所はこちら、と表示することなどを進めたいと思っています」と語った。

渋谷区の「シブヤ・アロープロジェクト」などを念頭に置いているものと思われる。「一時退避場所」の位置を知らせる避難場所誘導案内を、「矢印」のアートとして表示している。

▲写真 清家愛港区長 ⒸJapan In-depth編集部

ところで、実際防災アプリをダウンロードしている人はどのくらいいるのだろう?少なくとも港区で長年仕事をしている筆者はその存在を知らなかった。区民だけでなく、区で働いている人にも周知する必要がある。

区では、誰でも参加できる地域の防災訓練の会場や、区内で配付している観光冊子などで防災アプリを周知しているという。「港区防災ポータルサイトや港区防災アプリのほか、携帯電話会社4社と連携し、区内にいる方に向けた災害発生時の緊急エリアメールの配信も行っています。水害発生時に関しては、避難所に行くのではなく高いところに避難することが有効だということを、どう区民に伝えるか検討しているところです。」と清家区長は必要な情報を区民に効率的に伝えていく考えを示した。

■ 川の氾濫

港区では麻布十番に流れる古川の水位が過去、何回か上昇し氾濫の危険が高まったことがある。近年では、2004年10月9日の台風22号により、地下鉄南北線の麻布十番駅地下ホームが冠水した。最近はゲリラ豪雨が都内で頻発しているが、急激な水位上昇にはどのように対処しているのだろうか。

実は古川の地下には巨大な地下調節池がある。2017年に完成した。延長3.3kmの地下トンネル式で、135,000m³貯留できる。一方で、この調節池があることを知っている区民の間では、テレビなどで氾濫危険情報が流れても、どうせたいしたことは無いだろう、という正常性バイアスが働くことが懸念される。

これに対して清家区長は、「古川の水位や雨量の情報を防災行政無線でお知らせしています。また、東京都が調節池の水位をライブ配信しているので、そのリンク先を港区防災ポータルサイトに掲載するなどしています」と住民への周知について語った。

▲写真 古川調節池のトンネル部 出典:東京都建設局

また、浸水時には建物の戸口からの浸水を防ぐ、止水パネルの購入補助も行っていることを強調した。

清家区長の話を聞いて、区がさまざまな対策を打っていることがわかった一方で、やはり区民だけでなく、区で働いている人への周知は十分でないと感じた。

港区だけの問題ではないが、区民と区で働くすべての人の心の中に防災意識が根付くように、絶えず情報を発信し続けることが必要だ。せっかく情報のプラットフォームを作っても宝の持ち腐れになる。どこにどんな情報があるか、知って使ってもらうことが大切だ。

同時にわれわれも自ら情報を取りに行く、という心構えを忘れないようにしたい。災害はいつ来るかわからないが、備えることはできる。そう肝に銘じた。

(了)

トップ写:清家愛港区長(東京都港区)ⒸJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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