[藤田正美]<いよいよ内戦?ウクライナ危機>脆弱な世界経済が大きく足を引っ張られる危険性
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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ウクライナ危機をめぐって開かれた4者協議から3週間たったが、危機はますます拡大し、死者も増えている。ドイツは自国民に対してウクライナ東部および南部から退去するよう勧告した。安全の問題だけでなく親ロシア派に拘束される危険性もあるとしている。とりわけメディア関係者はそのリスクが高いと警告する。ウクライナの西部にあるオデッサでも大規模な衝突が発生し、多くの死者が出た。
4者協議を改めて開くことを模索する動きもあるが、ロシアは否定的だ。そのため欧米は段階的かつゆっくりとロシア制裁を強化するしか手がなくなっている。一方のロシアは、制裁など痛くも痒くもないという顔をしているものの、ウクライナ情勢を打開する手立てが見つからない。
外交的な「我慢比べ」の様相になっている一方で、経済はじわじわと影響を受けている。4月25日、ロシア中銀は政策金利を0.5%引き上げ、7.5%とした。3月初めに5.5%から7%に引き上げたばかりだから、2カ月で2%の引き上げという異常事態だ。今年に入ってから通貨ルーブルがじわじわと安くなってインフレ率が高くなっていること、かつ制裁を受けているために資本逃避が起きていることも背景にある。
この金利の引き上げは、外部からは「予想外」として受け止められたが、ロシアにとっても想定外だったかもしれない。経済成長率が落ちている中での金利引き上げであるからだ。IMF(国際通貨基金)は2014年についてロシアの成長率を3%と予測していた。その数字は大きく下方修正され、1.3%になっているが、4月30日にIMFはさらに下方修正することを明らかにしている。
ロシア中銀の総裁は4月初めに、今年の成長率は1%を切りそうだと表明している。これだけ成長率が落ちてくれば、それはロシアだけの問題にとどまらない。ロシアは輸出するエネルギーの価格を上げようとするだろうし、そうなればウクライナのデフォルト懸念はさらに大きくなる。EUもアメリカもそして日本も、ウクライナに対する経済支援を表明しているとはいえ、今年中に期限を迎える金額は136億ドルとされ、それをどういう形で調達できるかはまったく不透明だ。
エネルギー価格引き上げだけでなく、ロシアが西側による制裁への報復として、欧州に対するエネルギー供給を絞る可能性もある。そうなると脆弱なEU経済がマイナス成長に転落する可能性もあると世界最大の債券運用会社PIMCOのCEOだったモハメド・エルエリアン氏は指摘している。もちろんロシアにとってエネルギーの元栓を締めることは、自分の首を絞めることでもあるが、場合によってはそうした強硬手段も辞さないだろう。
どこまで我慢しながら着地点を探るか、その間にウクライナ東部で親ロシア派とウクライナ軍などの間で大規模な戦闘が起きないか、そのときロシアはどう動くのか。その動きかた次第では、脆弱な世界経済がまた大きく足を引っ張られる可能性があるだけに、このウクライナリスクから目を離すわけにはいかない。
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