[清谷信一]<万引き犯画像公開問題>人権侵害?脅迫?えん罪?現在のメディアにまんだらけを批判する権利はない
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
25万円のブリキの玩具を万引きされた古書店「まんだらけ」(東京都中野区)が、「期間内に盗品を返さなければ犯人の顔写真を公開する」と警告していた問題。結局、同社は13日、ホームページでの警察からの要請で顔写真の公開を取りやめた。
この一件をめぐる新聞などメディアの報道は筆者の知る限り、表層的で掘り下げた調査も分析もなく、容疑者への人権侵害などという弁護士ら外部の「識者」の優等生的なコメントを恣意的に掲載するという、パターン化したものだった。
多くのメディアが、例えば以下のような弁護士など法曹界の関係者のコメントを掲載した。
「刑法の規定では、正当な債権を取り返す場合でも脅迫すれば脅迫罪になる。今回のケースは、現時点で恐喝未遂に当たる」甲南大法科大学院の園田寿教授(刑法)http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140808/crm14080819100017-n1.htm]
また、今回、まんだらけ側が人間違いをして、無実の人が犯人として顔を晒される危険があるとの「識者」のコメントを載せたメディアもあった。もちろん、件の人物が自分の「人権」が侵害されていると思うならば、警察にまんだらけを告発するなり、弁護士を通して抗議をすれば宜しい。
第三者が四の五のいうような話ではあるまい。当然ながらその場合、該当人物は自分の正体を明らかにする必要があるが。
いくらメディアが騒ごうと、このくらいのことではまんだらけの社長が逮捕されたり、同社が営業停止になることもあるまい。万引きされたなら警察に届ければいいと主張し、「たかが顔を晒される」程度の話を大問題とする弁護士はバランス感覚に欠けているのではないか。
また、今回の万引き犯画像が人間違いである可能性を指摘するメディア側に、それをいう権利があるのだろうかとも思う。被疑者、容疑者をあたかも犯人かのように報道し、警察、検察の走狗となって冤罪の手助けをしてきたのは、メディアではなかったのか。
メディアは本来守秘義務がある当局者からリークを聞き出し(当然当局側はリークして世論を誘導したい思惑がある)、それを検証なく垂れ流してきたのではないのか。
容疑者だけではなく、未成年を含む被害者の情報も暴露し放題だ。先の女子高生殺人事件もそうだが、被害者の名前を連呼し、遺体が切断された有り様などを連日連夜報道した。のみならず被害者の生前の様子など「個人情報」を鵜の目鷹の目で漁って、垂れ流してきた。
そのようなメディアがまんだらけを批判できるのか。少なくとも同社は自己防衛のために止む無く行った行為だ。対してメディアは視聴者の下品な野次馬根性を満たすために、被害者情報を連日報じ、被疑者、被害者の双方と、その関係者に多大な苦痛を与えてきたのではないか。
今回メディアの取材態度には問題があった。12日夕方、中野区のブロードウェイセンターの入り口では、入り口近くのまんたらけの店舗を撮影するためにメディアのカメラマンなどが詰めかけた。彼らは入り口の半分を塞ぎ、また後ろの路地も塞いで通行が困難な状態になっていた。このため警察が誘導のために出動してきた。
筆者は彼らに路上を占有することを中止するよう申し入れたが、場所を空けるなどのアクションをとろうとはしなかった。その中の一人は筆者にむけてカメラを回し始めた。カメラを回すと相手がビビるとでも思っているのだろうか。
さらに詰め寄ると頬を痙攣させて言い訳していたが、彼らは自分たちは一社会人として社会のルールを守るという意識が欠除している。今回の問題をきっかけとして、メディアは自分たちの取材ぶり、報道ぶりを考えるべきであろう。
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