朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー
.国際  投稿日:2015/2/19

[田村秀男]【中国資本流出加速、習近平体制脅かす】~共産党支配の終焉~


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)「田村秀男の“経済が告げる”」

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2月下旬は中国の旧正月(春節)休みで、東京・銀座などに買い物客がどっと押し寄せてきた。円の現金を持たなくてもよい。かれらは手にする人民元決済用カード(デビットカード)で高額商品を買いあさる。デパートや電器店、ブランド・ショップはほくほく顔だろう。

日本などへの旅行客の大半は中間所得層で、高利回りの信託商品や不動産値上がり益でフトコロを肥やしてきた。ところが、最近の中国景気は事実のマイナス成長が続いている。

上海などに進出している外資系企業は現地の大気汚染に加えて人件費の高騰もあって、本国からの人員を引き上げ、現地事業を縮小するケースが相次いでいる。その影響で、外国人が借りる高級マンションが空室になる。中国の不動産相場は全国的に下落が続いているが、それでも高級マンションの価格は下がっていなかった。不動産相場を下支えしていた高級マンション価格が下落に転じると、それこそ「不動産バブル崩壊」になりかねない。

そんな不安を多くの中国人や投資家が抱いているのだろう。富裕層は海外の不動産を買いあさっている。華人社会という点で中国人に人気のあるシンガポールはマンション相場が急騰し、㎡当たりの東京都心のマンションの相場の数倍に達する。そんな具合だから、東京都心一等地のマンションは中国の投資家にとっては格安で、新築物件には中国系からの引き合いが活発だ。

以上のような日本の「チャイニーズ・ブーム(景気)」は、してみると中国本土の不況と表裏一体になっている。そんな変則ブームは長続きするのだろうか。

筆者が重視するのは、国境を超えたカネの流れである。中国は海外との資本取引を厳しく制限している。外部から流入する外貨は中国人民銀行が決める交換レートですべてを買い上げて管理する建前になっている。

人民銀行による外貨売買の差額がネットの資金流出入額となり、外貨準備に上乗せ(流出の場合は差し引き)される。貿易など経常収支と直接投資収支は正当な外貨の流出入とみなされ、それらの増減合計額と外貨準備増減額の差が、資本取引の増減額とみなされる。こうした資金は投機性が高く流出入が激しいので、「熱銭(ホットマネー)」と分類してみる。

この計算手法で試算してみると、熱銭の中国からの流出額は2014年年間で4200億ドルに達する。この流出規模は、統計データが公表されるようになった1998年12月以降、最大である。これまでの熱銭の推移は2011年前半で年間3000億ドルのペースで流入したが12年に入ると不動産相場の下落とともに流出に転じた。13年には再び流入するようになったが、14年9月以降は再び流出に舞い戻って、しかも加速とアップダウンが目まぐるしい。

この熱銭の一部は当局が統計上把握している。国際収支の「金融収支」項目にある「証券投資収支」と「その他投資収支」で、「その他」には貿易信用や長短貸付や現預金などが含まれる。しかし、これらの項目には当てはまらない全く正体不明の資金流出が14年後半から急増している。14年9月までの1年間で不明資金流出額は1900億ドル超に上る。12月は一部データが未公表のため、不明額を断定できないが、年間4200億ドルという全体の熱銭規模からみて、正体不明流出額は同数千億ドルに上るだろう。

正体不明の資金流出の加速は何を意味しているのだろうか。そもそも正体不明のカネとは、汚職高官の不正蓄財に関わる部分が大きいはずである。とすれば、汚職高官たちは厳しいはずの監視の網をくぐって巨額の資金を持ち出しているわけで、習近平体制は盤石ではないとも見える。

もう一つ、熱銭の動向は中国の実体景気と不動産価格の変動とかなりの程度連動してきた。最近では、実体景気の減速と不動産相場の下落が重なっている。香港やケイマン諸島など租税回避地に拠点を持つ中国企業が中国から資本を引き揚げていると予想される。

北京当局がこれ以上の資本逃避を防ぐためには人民元切り上げに踏み切る必要があるが、景気はさらに減速しよう。逆に人民元を切り下げると、資本流出に加速がかかる。中国の人為的な外為管理、資本規制は機能マヒに陥ったのだ。

共産党人脈に直結する中国資本による巨大な投機に経済が翻弄される。すると、根本的な打開策は一つしかない。金融の広範囲の自由化だ。まず、元の管理変動相場制を撤廃し、自由変動相場制にする。すると、投機家は為替変動リスクを負うことになり、自制するようになる。もう一つは、金融と資本自由化である。投機的に動く中国系投資家に代わって、合理的な世界の幅広い投資家を受け入れて金融市場を安定させることだ。

もちろん、それが共産党体制にとっては賭けである。変動相場制で元高が一挙に進めば中国企業は競争力を失うし、元安が止まらなければインフレが高進し、市民の怒りが爆発する。もとより、為替や金融の自由化は、金融市場の党支配からの解放を意味するのだから、最後は政治の変革に行き着く。北京による統制がきかなくなったカネの流れは、実は共産党支配の抜本的変革を暗示しているのだ。


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