[瀬尾温知]【新監督は強面&完璧主義者】~日本代表新監督ハリルホジッチ氏に期待~
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
日本サッカー協会は、監督を選ぶセンスは悪くない。「悪くない」と表現すると、中程度の評価しか下していないことになるが、褒める表現は意図して控えている。それは、日本サッカー協会の一連の緩怠に対し、日本代表に情愛を捧げる1人としての僅かな抵抗を表すためである。ワールドカップ惨敗とアギーレ解任問題の責任を取らなかった協会に抱いた感情から、自然に生まれた反発心である。ワールドカップ・ブラジル大会でアルジェリアを率いて同国を初のベスト16入りに導いたハリルホジッチが、日本代表の新監督に内定。12日の理事会で承認後、来日が見込まれている。
ハリルホジッチは、日本サッカー協会内の責任を取るべき人物が選んだのだが、もうその件を引きずって話題にすることはしない。新監督が決まったのだから顧みずに前を向くしかない。抵抗せず、反発心を捨て去り、表現を改めることにしよう。そう、はっきり言って、人選は良い。
何よりもまず、顔つきに信頼が持てる。ボスニア・ヘルツェゴビナの同胞・オシム元日本代表監督のお墨付きとなれば、立派な人格者であることは疑いない。八百長の話を持ちかけられたとしても、間違っても手を染めることはない。そんな話を持ちかけられたら、そのクラブを辞任する道を選ぶ人物である。そう顔に書いてある。それでいて戦術眼が鋭く、代表監督としての実績もあるとくれば、極めて優秀な監督と言える。
「ライオンに追われたウサギが逃げ出すときに、肉離れをしますか。要は準備が足りないのです」といったオシム語録は評判となった。このように、言葉が人格を表すのであれば、ハリルホジッチがどんな言葉を話してきたのかを探ることで、その人となりに迫ることができる。
アルジェリアは2013年のアフリカネイションズカップで2敗1引き分けとグループリーグで惨敗。早々に大会を去ることになった。そのときにスケープゴートにされたのが監督のハリルホジッチだった。
サポーターから罵声を浴び、警官に護衛されてグラウンドを引き上げた。マスコミにも痛烈に批判された。そのことを思い出して語ったのが、ブラジル大会の第2戦で韓国を4対2で破り、1982年以来32年ぶりとなるワールドカップでの勝利を収めたときの記者会見だった。
「マスコミは私を信用しなかった。多くの嘘を記事にして、私の家族まで責め立てた。私の誇りや名誉を傷つける権利は誰にもない。この勝利はアルジェリア国民へのプレゼントだが、君たちマスコミへのものではない。きっと君たちは悲しんでいるのだろう」と言い放った。
第3戦でロシアと1対1で引き分け、初の決勝トーナメント進出を決めたあとの会見では、同じ主題の質問を3回も繰り返されたことで、怒りを露わにし、会見場を退席してしまった。
質問はラマダンについてだった。8強入りをかけてのドイツ戦はラマダンの期間に入るが、断食するのかといった内容で、2回目までは「サッカーのことだけ話したい」と真摯に応対していた。しかし3回目には堪忍袋の緒が切れ、「サッカーのことしか話さないと言っているのに、なぜその話題にこだわるのだ。理解しがたい。これで失礼します」と、会見を切り上げてしまった。
この2つの会見の様子だけで、ハリルホジッチの自己主張の強さが見て取れる。
アルジェリアのキャプテン、ブーゲッラは「監督はとても厳しく、完璧主義者だ。でも、練習後や試合で勝利した後には選手の輪に加わってくる。要求の厳しさはあるけど、いい人だ」との印象を残している。
何卒、日本でも存分にその特性を発揮して、選手だけでなく、プロフェッショナリズムに欠ける協会や批評に甘さのあるマスコミまでをも鍛え直してもらいたいものである。
参照:International news on RFI、UOL、Radio Gaúcha