[西村健] 【アスリートは育てるのか?育つのか?】~東京都長期ビジョンを読み解く!その11~
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
世界に存在感を示すトップアスリートの育成とスポーツ都市東京の実現。
これが政策指針4である。将来像としては、都が発掘・育成・強化したアスリートが活躍していること、より身近な場で誰もが生涯スポーツを楽しんでいる状態が想定されている。
スポーツ振興を議論するときに主に、トップレベルと住民レベルでの話は分けた方がいい。まず今回、次回はトップレベルのアスリート育成について考えてみたい。
長期ビジョンでは、東京五輪に発掘・育成・強化したアスリートの数を100人にするという目標が掲げられている。相変わらずどこまでが「発掘」なのかの厳密な定義が書かれていないが、数値目標を明確に書いていることは敬意を表したい。
前回のロンドン五輪の数字を見てみよう。出身地別で見ると東京都出身者は30人と都道府県でも最多だ。ちなみにメダル獲得数では1位という意見と2位の6つという意見があるようで(出身の捉え方の解釈の違いだろう)トップランクに位置するものの、人口比で見るとそうではないという現実もある。
次世代のアスリートになるジュニア層に対して東京都は能力の発掘・育成や競技力向上の推進に取り組んできたと明記されている。長期ビジョンでは、トップアスリート発掘・育成事業の成果も紹介されている。26年については長崎国体9人で入賞6人、インターハイ9人で入賞1人という数値も紹介されている。
そこで東京都のトップアスリート発掘・育成事業のサイトに記載された基本的な情報を見てみると、目標達成のための有効性や貢献度の面で少し疑問を感じてしまった。国が進めている「世界で競い合うトップアスリートの育成・強化」施策との関係や役割分担がどうなっているのかよくわからない。
個人的にトップアスリート育成は大いに行ってもらいたい。しかし、トップアスリート育成のための効果的な事業展開ができているのか、よくよく吟味することが必要だと思う。
長期ビジョンでは課題としては、「多くの選手が国際大会で活躍できるよう競技力の向上に向けた取組を更に強化する必要がある」「アスリートが生活に不安なく、競技活動に集中できる環境作りや、その経験や能力を次世代につなげる仕組みの定着が求められている」との課題意識が示されている。
しかし、数値目標を設定することがアスリートに過度の心理的プレッシャーを与えないか、せっかく伸びる可能性を「目標」という大人のメンツを押し付けることによって潰していないか、そもそもトップエリートの育成がどうなのか、など五輪に向けて、多面的に議論してもらいたい。
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