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.政治  投稿日:2015/4/3

[七尾藍佳]【新安全保障法制が孕む危険性】〜米国の国益の為の軍事協力と中国との緊張加速〜


七尾藍佳 ジャーナリスト・国際メディアコンサルタント)

「七尾藍佳の“The Perspectives”」

プロフィール執筆記事

政府が今国会会期中に成立を目指している新安全保障法制の最大の問題点は「集団的自衛権」を根拠に、米国の国益に引きずられた形での自衛隊による軍事行動への道を開いてしまうことです。それは、資源に乏しく、国際的信頼と安定の下に現在の経済力を維持している日本という国にとって、国策として大変危険なものなのです。

新法制は自衛隊にかかる「制約」を外すものです。主に①米国以外の国の後方支援もできるという<主体>の制約外し、②日本周辺以外のどこにでも出向けるという<地理的>制約外し、③国連安全保障理事会ならびに国会の事前承認無しに派遣でき、合意形成プロセスのハードルを無くす<正当性>の制約外し、という三つの「制約」を外します。

 

<国民と国際社会の同意なしに自衛隊が政府判断だけで軍事行動を取れる>

結構じゃないか、何がいけないんだ、という人もいるでしょう。しかし、ここには大変深刻な問題があります。それは「集団的自衛権」が全体の論理的根拠となっている点にあります。

今回拡大されようとしている自衛隊の海外活動は四つの分野にわたります;①グレーゾーン事態への対処、②米国・他国への後方支援、③PKOなどの人道復興支援、④邦人救出保護など。

この四分野での活動を行う自衛隊が敵からの攻撃を受けた場合、法的には集団的自衛権の次元に自動的にエスカレートされ、自衛隊の反撃が政府判断のみで可能になるという法体系が考えられていることが、改正案から見て取れます。

ちなみに、たとえ「後方支援」であっても現実のオペレーションの現場では敵から見れば日本は「米国」など、作戦の主体と同列に捉えられますから、実際に攻撃を受けることは十分あり得る事態で、そういった事態まで想定して考えることが必要です。

政府は「集団的自衛権」で論理構成する以上、自衛隊が「普通の軍隊」のように他国を能動的に威嚇・挑発し、先制攻撃をしかけることはないとして国民を安心させようとするでしょう。しかし問題なのは、日本の「集団的自衛権」は、以下に述べるような問題を孕んだ米国の軍事行動に関連して発動されることが想定されていることです。

<米国の「自衛」を隠れ蓑にした侵攻に自衛隊が巻き込まれる可能性も>

米国は歴史上、自国の軍事行動を「自衛」の名の下に繰り返し正当化してきている国です。しかし、その正当性は国際社会では到底容認できるものではない事例が多く、それがひいては米国の信頼性・国際的地位の低下へとつながり、他国で活動する自国民の命を危険にさらす悲劇をも招いています。

たとえば1989年のパナマ侵攻で米国は、パナマ在住の米国市民を守る「自衛」のためと主張し、その作戦名もまさに”Operation Just Cause”-「正当な目的のための作戦」とされました。しかし、国際社会は猛反発。国連総会にパナマ侵攻を国際法の重大な違反とする決議が提出され、これに賛成する国が圧倒的多数を占めました。

記憶に新しいイラク戦争は「自衛」のための「先制攻撃」として正当化され、アフガニスタン紛争も広義の自衛のための軍事行動でした。しかしその後、当時のブッシュ政権が戦争を正当化するために数々の情報操作を行っていたことが明らかになり、イラク・アフガニスタンでの米軍の犠牲者が八千人にも上る中、国民はバラク・オバマという「撤退」を公約に掲げた候補者を大統領に選ぶに到ったのは衆知の事実。その米国の国益に日本の自衛隊が振り回される道を開くのが新しい安全保障法制です。

<経済的事態まで「自衛権」の対象にすることで自衛隊は中国と戦争ができるようになる>

安倍政権は原油供給の途絶という、本来であれば経済の問題であるべき事態をも「自衛権」の対象としています。これははっきりいって強弁ですが、まさか原油を確保するために自衛隊が中東に出向いて戦うことはいくらなんでも考えていないでしょうから、この強弁を押し通そうとする真の目的は別にあるはずです。

それはやはり日本へのシーレーンの安全確保で、特に中国の妨害に対して日本が軍事的対応を取れる余地を残しておくことが真の目的でしょう。だからこそ新たな安全保障法制では、「原油安定供給」という非軍事的事態までも自衛権の範疇に無理やり入れ込むことと、地理的制約を外して中東までをも自衛隊の稼働範囲に含めておくことが、政権にとって必要不可欠の要素となっているのです。

新安全保障法制が孕む危険性をまとめると①米国の国益に振り回された軍事協力を自衛隊が行うことと、②日本経済にとって最大の市場である中国との緊張を加速させ、状況によっては軍事紛争へと発展する、ことを法的に実行可能にしてしまうことです。新安全保障法制はこうした危険性をはらんでいること、そして政府がこれを念頭において作業を進めていることを国民はもっと知るべきです。

タグ七尾藍佳

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