[遠藤功司]【シルバー市場に参入する部品メーカーの挑戦】 ~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業”愛知県編 1~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
地方創生、地方で活躍する企業のご紹介、第3回目の今回は、愛知県犬山市に本社がある、今仙電機製作所です。このシリーズ、第1回目が富山県南砺市、第2回目が広島県安芸郡坂町、この2例に比べると、犬山市の知名度は高い筈です。市の北端には国宝犬山城があり、その側を木曽川が流れています。木曽川を巡る船から見た犬山城は絶景です。夏には鵜飼が行われ鮎が美味。また、市内には明治村・モンキーパーク・リトルワールドなど、観光地も多い所です。名古屋から名鉄の特急で約30分弱、岐阜にも25分ほどで行け、名古屋のベッドタウンとしての役割もあります。人口は約75,000人。
名古屋からそれほど遠くもなく、観光地も多いので、さぞかし賑わっているかと思うと、平日の昼間、市街は閑散としています。週末や桜の時期は多くの観光客が見られますが、通常は極々素朴な地方の町、という感じです。愛知県はトヨタ自動車のおひざ元、自動車大国、通勤も買い物も車で、という人が圧倒的に多いのです。
結果、駐車場の有る郊外のロードサイドは大変発達しているのですが、市内の中心には商店街というものが発達し難い、というケースが多いのです。犬山市、またその付近には工場も多いのですが、従業員の大半は自動車通勤です。仕事帰りに一杯、などという店も少ないし、商店街で買い物、というニーズも、東京に比べれば圧倒的に少ないと思います。
犬山城に向かう道筋には、それなりに観光客相手の店舖が並んでいるのですが、観光シーズンはいざ知らず、平日は実に閑散としていて、名古屋に比較的近いにも拘わらず、街中はシャッター商店街の雰囲気です。
さて、名鉄の犬山駅から南にタクシーで15分程の所に今仙電機の本社があります。主要製品は自動車用シートの“シートアジャスター”です。つまり、自動車の中には前席、後席、3列シートの場合もあります。シートの多く(特に運転席と助手席)は、シートのリクライニングの角度が、手動、ないしは電動で調整出来ます。
シート自体も手動、ないしは電動で前後に動きます。高級車になると、シート自体が暖かくなったり、冷たくなったり、背中を程良くグリップするように脇が動いたりと、いろいろな調整機能が付いています。これらがシートアジャスターです。当社はれっきとした東証1部上場企業ですが、時価総額は約300億円と、東証1部企業としては小ぶりに属します。
主な顧客はホンダと日産自動車、アコードやスカイラインなど、数多くの車種に当社製品が採用されています。ただ、他の多くの上場している部品会社と違うのは、当社はTier 2の部品メーカーだ、ということです。つまり、当社から製品を直接、ホンダや日産に売るのではなく、Tier 1の部品メーカーに納入して、それを使ってTier 1のメーカーが製品にし、自動車メーカーに納入する、というプロセスです。
以前、ご紹介したことがあると思いますが、自動車産業は典型的なピラミッド構造、完成車メーカーの下にTier 1、その下にTier 2、その下に・・・と、時にはTier 5にでもTier 6にでも到達します。適切な言葉ではないかもしれませんが、下請けの下請けの下請け、ということです。
今仙電機製作所の場合、Tier 2として、シートアジャスターを生産している訳ですが、これを自動車メーカーではなく、Tier 1の部品メーカー、つまりシートメーカーに納入します。TSテック(ホンダ系)、ニッパツ(日産系)などの会社です。トヨタ系には豊田紡織という大会社もあります。こういったシートメーカーは、当社のようなところから内部の骨格やアジャスター、シートの表皮、織物、ヘッドレスト、その他様々な部品を購入し、シートの完成品に仕上げる訳です。当たり前の話しですが、レクサスやクラウンのシートは、軽自動車のシートとは大きく違います。乗り心地やアジャスターの数など、格段に高付加価化したものですから、その値段や収益性も大きく変わってきます。
(【“世界初”無動力歩行支援装置に活路】 ~ “キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 愛知県編 2~ に続く。全2回)
今仙電機製作所:愛知県犬山市、資本金:61億円、売上高1,100億円、従業員数 5,193人(親会社は1,714人)。
※トップ画像/犬山城HPより引用