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.経済,ビジネス  投稿日:2015/5/1

[遠藤功司]【“世界初”無動力歩行支援装置に活路】 ~ “キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 愛知県編 2~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

今仙電機、シート関連製品だけなら、別に変わり映えのしないTier 2部品メーカーの1社なのですが、当社の車以外の製品が、最近急速に脚光を浴びている、それが介護支援ロボット、歩行補助装置です。売上高の約1%と僅かなのですが、この会社は従来から福祉機器事業を展開しています。

今までの主力製品は、車イスや、義足などで、中には、パラリンピックなどで使用する競技用の義足・義手など、特殊な製品もあります。これら福祉関連製品は、子会社の今仙技術研究所が主体となって開発しています。売上高は年間約12億円、営業利益は6,000万円ほど、営業利益率は5%ほどと、それなりの貢献度です。ただ、福祉事業の性格上、“儲け”のためではなく、あくまでも自動車部品で培った技術を社会に還元する、という部門です。

ここに昨年から新しい製品が登場しました。ACSIVE(アクシブ)と呼ばれる、歩行用支援装置です。各メディアにも大きく取り上げられ、これが主要因で当社の株価は一時2倍強にも急騰しました。このACSIVEは名古屋工業大学との共同開発で、モーターやバッテリーなどの電装品を全く使わず、バネの力を利用して、片足マヒなどの歩行困難者の歩行を助ける、という装置です。

ロボットというと語弊がありますが、“受動歩行”と呼ばれる自然現象の歩行原理を用いた、“世界初”の無動力での歩行支援装置です。腰から膝にかけてベルトで装着、腰近辺にある“ヒップユニット”と呼ばれる装置の中の、バネの力のみで、脚の振り出しを補助します。小型軽量、重さは僅か550g、動力がいらないので、価格も18万円と比較的低位、昨年末から販売が開始されました。

日本では、介護が必要となるその第1位の原因は脳梗塞だと言われています。脳溢血や脳腫瘍なども入れると、現在の患者数は国内で約130万人。その多くが、歩行困難など、体を動かすことが難しい状況です。今後の高齢化社会を考えると、患者数は増加することはあっても、減ることはないでしょう。その中で、将来、介護に必要な人員の確保が急務となっています。

また、当社の他にも、サイバーダインや菊池製作所、パナソニックなど、介護ロボットのビジネスに参入する企業も多くなっています。安倍政権下で、ロボットは戦略的国家プロジェクトの一つで、その用途は、生産・環境・省人化・災害援助・防衛・医療など多岐に渡りますが、介護は最も身近で重要な用途だと思われます。

現在のACSIVEの生産台数は、月産500台とまだまだ低位ですが、今年度末までには1,000台を計画、更にそれほど遠くない将来には1万台とのアグレッシブな計画値もある模様です。まだ代理店網が不十分で、かつ保険適用がされていないため、需要が旺盛だとしても、販売が急速には伸びないのが現状です。今後、保険適用がされ、各種の補助金などが導入されれば、実質的な販売価格が下がり、介護施設や病院向け、勿論個人向け需要が更に拡大する可能性は高いと思います。

今仙電機は先日、日本橋三越でACSIVEの試着会を実施、大盛況だったようです。今後も同様なイベントを全国主要都市で実施する計画で、認知度の高まりと共に、販売台数の拡大が見込めそうです。勿論、事業の主体は自動車用シート関連であり、収益の大半は自動車から生まれる訳ですが、福祉機器関連での存在感の高まりも、今後の当社の業容拡大に、多大なる影響を与えることと思われます。

昨年、東京ビッグサイトで介護ロボット展が開催されましたが、その際に、やはり脳梗塞で片半身が麻痺、歩行が困難になった方が、このACSIVEを試着、付添いの方無しにご自分で歩けるようになったことに、大変喜んでいた様子が、大変印象に残っています。

(この原稿は【シルバー市場に参入する部品メーカーの挑戦】 ~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業”愛知県編 1~ の続きです。全2回)

今仙電機製作所:愛知県犬山市、資本金:61億円、売上高1,100億円、従業員数 5,193人(親会社は1,714人)

※トップ画像/今仙技術研究所「ACSIVEカタログ」より引用

タグ遠藤功治

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