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.国際  投稿日:2015/6/7

[岩田太郎]【米中戦争は不可避か~中国の自己実現預言の自縛】~米中もし戦わば 4(最終回)~


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

(本記事は【戦前日本と現代中国の「アジア人のためのアジア」】~米中もし戦わば 3~ の続きです。シリーズ全4回)

親中派の宮本雄二・元駐中国大使は、新著『習近平の中国』で「中国が現在の国際秩序の破壊者となることは自殺行為である。自分が最も利益を受けてきた仕組みを壊そうとする者はいない」と主張している。それは、本当だろうか。

中国は現行の国際秩序を使い倒しつつも、「偉大な中華民族の復興の夢」の大目標のために、それをなし崩し的に相対化する意思をすでに固めたように見える。好例は、中国で流行中の米中対立不可避論だ。「日米戦争が不可避」とした日本陸軍の戦略家、石原莞爾の『世界最終戦論』に強い影響を受けている。

中国の石原莞爾こと劉明福・元国防大学教授が2010年に著した『中国夢』は、「皇国の歴史的使命」ばりの「中国の新たな歴史的使命」を強調、「米中戦を回避するには、中国が米国に攻撃されない『大軍』を持つ必要がある」と説く。

石原が「東西の最終戦争」としての日米戦を、「東洋の王道と西洋の覇道のどちらが世界統一において原理となるのかを決定する」と規定したように、劉も「米国は覇道、中国は王道だから、中国の台頭こそが世界平和につながる」とする。

劉は、石原のように最終戦争は予言せず、そのような戦争は中国が西太平洋を支配する「中国夢」を実現すれば回避できるとする。だが、石原をはじめ関東軍による満州奪取の一義的な目的と意図が、満州領有そのものではなく、未来の対米戦・対ソ戦の準備だったことを考えれば、中国の尖閣諸島や南沙諸島の領有権主張や台湾「統一」の試みの真の目的は、いずれ米国を凌駕する国力を獲得した際の最終決戦としての対米戦・対露戦への備えだ。

石原は日本が世界の覇者となるための「持久」を説き、戦争をせずに国力を養えと主張し、中国の元最高指導者である鄧小平も、「韜光養晦」、即ち能力を隠して力を蓄えよと唱えた。

米地政学者のニコラス・スパイクマンは戦中、「日本が戦後に無力化され、中国が軍事力を増強して米国は東アジアから追い出される」と予測した。それから70余年の2014年7月、習近平国家主席の影響下にある中国新聞網は、今後50年間に中国が戦うべき6つの戦争として台湾「統一」、南シナ海の領土「回復」、チベット南部のインド支配下にある領土「回復」、尖閣諸島と琉球諸島「回復」、外蒙古(モンゴル国)「統一」、そしてロシアに奪取された領土「回復」を挙げた。

これは、日本の指導者が1927年に立案した中国征服の手順計画とされる「田中議定書」の中国版だ。偽書だが、その後の日本の領土拡張の方向性をピタリと当てた。さらに、1938年に発表された失地回復のための「中国の屈辱」地図とも一致しており、東南アジアを含むその範囲が大東亜共栄圏とほぼ同じである。

中国共産党は今、腐敗や経済低迷や噴出する社会問題のため、そのレーゾンデートル(存在理由)が疑問視され、低下した権威や求心力を回復するためのアジア局地戦に備えている。楊潔篪・前外交部長は2010年、「中国は大国で、他の(アジアの)国は小国だ」と述べたが、この理論も大東亜共栄圏で推進された、「高き国を高しとし、低き国は低きにつく」の焼き直しだ。また、王毅外交部長は5月に南沙問題について「国家主権と領土保全を守る決意は微動だにしない」と発言したが、1932年当時の内田康哉外相の「満蒙問題のためには国を焦土にしても、一歩も譲らないという決心を持っている」という発言と重なる。

安倍晋三首相の祖父である岸信介は満州国高級官僚として、さらに戦中の軍需相として、共栄圏と戦争による統制経済で日本の国家改造を構想した。習も、米中対立の文脈で米国主導型グローバル経済を代替する制度を創設し、「一帯一路」や「アジア運命共同体」を建設する中での中国の国家改造を企てている。

一方、米国では「世界的な経済繁栄で、国家主義を抑え込める」との神話が崩壊、「グローバル統治は時代遅れで、地政学が戻ってきた」との声が高まる。オバマ米大統領もそれに対応し、TPPや「アジア回帰」による国家改造を構想する。

米国のビジョンと中国の「米国の覇権排除」が軍事的にぶつかるのは、避けられない。習政権が推進する「アジア運命共同体」論は、すでに自己実現預言として中国を自縛している。元米高官が5月に「南シナ海での米中対立は、将来戦争の危険性を示す」と語り、中国国営『環球時報』が「米国が主張を撤回しなければ戦争は不可避」と応答したのも、その表れだ。それは、戦前の日米間の戦争不可避論と口先の応酬が、実際に戦争として実現した歴史に酷似している。

(本シリーズ全4回。,,と合わせてお読みください)


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