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.社会,IT/メディア  投稿日:2015/6/29

[安倍宏行]【フジ、池上さん番組で謝罪】~単純ミスでは済まされない~


安倍宏行(Japan In-depth 編集長/ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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6月5日に放送されたフジテレビの金曜プレミアム「池上彰緊急スペシャル!」~知っているようでよく知らない韓国のナゾ!~で放送された韓国の方のインタビューの翻訳が実際に話した内容と異なっていた問題で、フジテレビは29日(月)HP上で謝罪した。

それによると、韓国人2人にインタビューしているVTRで、2カ所合わせて約10秒、翻訳テロップ並びに日本語吹き替えナレーションの内容と異なる映像を、誤って使用したという。インタビューした2人は実際にテロップで流した内容を話していると説明している。

(以下HPより引用)

女性がインタビューに答えるシーン

「嫌いですよ、だって韓国を苦しめたじゃないですか」と、答えている部分で、誤って、韓国を好きな理由について話している、「文化がたくさんあります。だから、外国の人がたくさん訪問してくれているようです」という映像部分を使用していました。この女性は、インタビューの別の部分で、実際に「日本が嫌いです」と答えています。

男性がインタビューに答えるシーン

「日本人にはいい人もいますが、国として嫌いです」と、答えている部分で、誤って、「過去の歴史を反省せず、そういう部分が私はちょっと…」と話している映像部分を使用していました。この男性も、別の部分で実際にこのように発言しています。

(引用終わり)

どちらも、編集作業でのミスに加え、最終チェックが不十分だったことが原因としている。また、インタビューした2人はテロップで流した内容を実際に話している、とわざわざ説明を付け加えている。

筆者が気になるのは、そのような単純なミスがどうして起きたのか、という点だ。外国語のインタビューはニュアンスの問題もあり、通訳者を入れて慎重に訳すのが当たり前だ。ましていわんや今回は対象が韓国であり、編集には相当気を使わねばならなかったはずだ。

作業の流れとしては、

・取材したディレクター(韓国語が出来ないとの前提で)がインタビュー内容を通訳業者に頼み翻訳する。

・全体の流れの中で、翻訳のどの部分を番組で使うか決める。

・編集作業に通訳を立ち会わせ、訳に相当する部分のインタビュー(映像と音声)を切り出す。

・映像をつなぎ合わせ、テロップやBGMなどを入れてない状態で一回、上の人間がチェック。

・OKが出たら実際にテロップを入れ、完成版として再度上司がチェック。

という流れである。ただ、韓国語がわからない人がチェックした場合、テロップと映像・音声が合っているかどうか、判断できない。フジテレビが説明しているように、「編集作業でのミス」ということは、取材ディレクターが「嫌いですよ、だって韓国を苦しめたじゃないですか」という部分のインタビューと別の部分を取り違えた、ということだ。これが第1のミス。

次に、「最終チェックが不十分」だった、というのは、テロップを入れた編集済みのVTRをチェックする際、韓国語が分かる人を立ち会わせなかった、ということだ。これが第2のミス。

今回はテーマがテーマなだけに細心の注意を払い、ダブル、トリプルのチェック体制を取るべきだったのにそれをフジテレビは怠った。通訳会社から通訳を派遣してもらうには結構なコストがかかる。もし、取材費や編集費を抑えようとして最後の通訳を立ち会わせてのチェックを省いたならとんでもないことだ。ハインリッヒの法則(注1)ではないが、こうした重大ミスの背後には小さなミスが数多く起きている。今回の件を単にこの番組だけの問題に矮小化するなら、同じようなミスがまた必ず起こるということを肝に銘じるべきだ。

(注1)

ハインリッヒの法則

1つの重大な労働事故・災害の裏には29の軽微な事故・災害が起きており、さらにその裏には300のヒヤリ・ハット(ヒヤリとしたり、ハッとした事例)がある、という法則。初期の段階で対応しておけば、重大な事故・災害が起きる可能性を低くすることが出来ることを

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