[瀬尾温知]【女子W杯、日本準優勝の裏で】~敗戦でも選手を称えたい~
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
「後悔はないが、勝たせられなかったことが悔しい」(宮間)「悔しい気持ちがないと言ったら嘘になる。自分自身はやり遂げた」(澤)「チームとしても個人としても力不足」(大儀見)「力を出し切った結果が2位。立ち上がりの10分で試合が決まってしまうことがあると改めて身に染みた」(宇津木)連覇は逃したものの決勝まで勝ち進んだ充足感と、悔しさが湧かないほど打ちのめされた完敗に、玉石混交な心情が選手達の談話に表れていた。サッカーの女子ワールドカップカナダ大会の決勝で、日本代表「なでしこジャパン」は、アメリカに2対5で敗れ、準優勝に終わった。
アメリカが開始から嵩にかかって攻撃を仕掛けてくることはわかっていた。日本はそれに耐え、数少ないチャンスをものにするというゲームプランだったが、驚異的なパワーによって序盤で粉砕された。アメリカとは体格差が違いすぎ、シュート力もあり、日本の守備の布陣をよく研究していた。
開始の笛から3分に先制点を奪われ、その2分後にもゴールを決められた。いずれも右サイドからのセットプレーで、低い弾道のクロスを中央で合わせるゴールだった。失点を最小限にとどめようと頭に描いて臨んだ矢先の2失点。
この状況で、それも決勝の大舞台で、平静を保つことは難しい。浮き足だって普段のプレーがままならなくなり、慌ててしまうのは人間の心理というものだ。そして14分、この試合で最も胸を痛めた場面になる。アメリカが右サイドからアーリークロス。守備の要の岩清水にとってはイージーボールだったはずだが、普段の精神状態ではなかった。クリアミスをして、そのボールを拾われ、3点目を失った。
岩清水は、W杯を制覇した4年前の決勝に苦い思い出があった。延長後半ロスタイムにディフェンスラインの裏へ抜け出したアメリカのFWモーガンに、体ごと投げ出すスライディングタックルを浴びせて一発退場となっていた。退場後、ロッカールームへの通路で涙を流した。だからこそ、歓喜の瞬間に思いを馳せ、今度の決勝には特別な感情があった。「最後の笛が鳴って、みんなとピッチの上で喜びたい」。無情にもその望みは、拭い切れないほどの涙の苦味に変わってしまった。
非情な采配と監督は責められない。ディフェンダーを下げて攻撃の選手を投入する状況だった。前半33分、佐々木監督は澤をピッチに送り込み、3失点に絡んだ岩清水をベンチに下げた。このあと日本は、敗戦が濃厚であっても、選手達は諦めず、勝負を投げ出さずに最後まで闘い抜く姿があった。残酷なのは、岩清水には失敗を取り返すチャンスも、最後まで走り切ることも許されないまま終わってしまったことである。諦めるに諦められない、後悔に胸を痛める結末となってしまった。
「立ち上がりの失点は自分のせいで、チームに申し訳ない。ロイドが来るのはわかっていたのに、予想以上のスピードだった」と、言葉少なに、自分を責めた。岩清水は、日本のゴールを必死に守ろうとした。その思いに、行動や結果が伴わないことがある。とても気の毒で、送る言葉も見つけ出せない。
今大会の「なでしこ」は、プレーぶりもさることながら、インタビューでの受け答えも堂々として謙虚さもあり、清々しかった。宮間は、悲痛なオウンゴールが決勝点となったイングランドとの準決勝の試合後、「彼女にとってはアンラッキーなゴールだった」と相手の選手を気遣う言葉に、大和撫子のおもいやりがみえた。
胸を張って、下を向かないで、自信をもって、陳腐な言葉しか浮かんでこない。こんなとき、岩清水にはどんな言葉が救いになるのだろう。言葉や語録は関係ないのだろう。こんなときは、やさしい声音だけでいい。