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.JID,IT/メディア  投稿日:2015/7/7

[Japan In-depth 編集部]【沖縄の声をワシントンに直接届ける試み】~日米間の情報の偏り顕著~


Japan In-depth 編集部  (Mika)

 7月2日夜、衆議院第一議員会館にて、6月の沖縄訪米行動の報告会、「米国に声を伝える」〜沖縄訪米団による訪米行動を終えて〜が開かれた。登壇者は、弁護士であるシンクタンク、新外交イニシアティブ(通称:“ND”)(注1)事務局長の猿田佐世氏と、参議院議員の糸数慶子氏。報告会は、およそ90人の参加者が見守る中、アメリカでの訪米団の活動についてその詳細が明らかになった。

猿田事務局長が率いるNDの企画により、沖縄県の翁長雄志知事と随行した沖縄訪米団による訪米は、6月1日から3日間、米・ワシントンにて沖縄の米軍飛行場移設問題のロビイング活動が行われた。事前準備期間はたったの1週間しかなかったにも関わらず、参加した訪米団は糸数議員をはじめ、那覇市長、読谷村長、沖縄県議4名、那覇市議5名、沖縄経済界の方々等を含むおよそ30名の規模となった。強行スケジュールの中、2〜3チームに分かれて行われた面談の対象は、下院議員15名や上下院補佐官などを含む米議会関係者、シンクタンク、有識者、市民団体等であった。

今回の訪米の最大のポイントは、アメリカ下院の国防権限法で「辺野古が唯一(の選択)」と書かれ通過している法律の条文を取り除かせる、という具体的なアジェンダがあったからこそ、議員等とのアポも取りやすかったようである。

アメリカの政策決定に関わり、影響力がある人々に沖縄の当事者が直々に声を伝えるという今回の目的は、沖縄の民意を含む、多様な声を伝え、沖縄基地問題に対するアメリカ人の認識を深めたいという意図があったという。

アメリカの環境基準にあっていない普天間の米軍飛行場を、元米国防長官のラムズフェルド氏が「世界一危険な飛行場」と表現したにも関わらず、今年で19年目になる移設問題はいまだ終息を迎えられず、度重なる「延期」が沖縄住民を悩ませ続けている。

報告会で登壇者の糸数議員は、「私たちはけして反米ではない。反基地である。」ということを今回アメリカ側にはっきりと伝えてきたと報告し、今後もそう示していきたいと述べた。

しかし、ワシントンの上下議員等と面談を行った際、その殆どに「辺野古以外の選択はないのでは?」と言われたという。そのことに今回の訪米団の多くが驚きを隠せなかったようだ。又、「では辺野古でなければ対案を出すのが当然ではないか」と必ず言われたそうだが、糸数議員は「やはりアメリカの基地ですから、アメリカに持って帰って欲しい。対案を私たちが示すということはおかしい」と述べ、対案を出すことは出来ないと断言した。

もう一人の登壇者、猿田氏は日米間の「情報の偏り」について「残念ながらワシントンの幾つかの部分では非常に情報が偏っている。日本から届く情報というのは英字の大手メディアが届けるもの、頻繁に訪米している大勢を占める国会議員、お金を潤沢に持っている経済的に豊かな大企業の方々、外務省・防衛省の方々、というのが唯一ですから情報の偏りが直接現れる。」と述べ、沖縄や日本の実状を伝える情報パイプがあまりにも細いことを指摘した。

一方で猿田氏は、ワシントンの影響力を利用すべきだとして、「ワシントン発信で沖縄基地問題を変えるプロジェクト」という方針を打ち出した。「ワシントンを変えられるとは思ってはいない。変えられるかもしれないのはワシントンの圧力に弱い東京(の方だ)」とその戦略を説明した。

猿田氏は、ワシントンには世界に物事を発信する、“アジェンダ・セッティング(注2)能力”と“拡声器効果”という2つのパワーがあると述べ、「アジェンダ・セッティングをさせ、拡声器効果を使うためにプロジェクトをどんどんワシントンで打っていく、大型のシンポジウムをやって行くということが非常に重要だ」と意気込みを示した。また、政治経済界からだけではなく、広範囲の影響力が期待できる世界中の文化人や若い人々にも、沖縄の実状を認識してもらい情報拡散に参加してもらいたいと話した。

「沖縄の新聞社はつぶせ」などと、ある作家による軽率な暴言による与党の勉強会問題について、先日安倍首相が沖縄県民に陳謝の意を表したばかり。沖縄の米軍基地問題の進展のために、ワシントンに直接働きかけるこうした動きが日米間の交渉にどのような影響を与えていくのか、内外の注目を集めよう。

 

(注1)「New Diplomacy Initiative(新外交イニシアティブ)」は、日米および東アジア各国において、外交・政治に新たに多様な声を吹き込むシンクタンク。幅広い声を外交・政治に反映するために、情報発信・政策提言を行う。2013年に猿田佐世氏により設立。
http://www.nd-initiative.org/about-nd/ より引用)

(注2) マス-メディアで流通する情報の範囲や頻度などによって,受け手の中にその情報を議論するときの文脈・枠組みが習得されていくこと,またその現象。マスコミュニケーション研究の主要トピックの一。議題設定。 


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