[文谷数重]【「沖縄基地問題」安倍首相、次の一手は?】~米・海兵隊国外撤退という選択~
文谷数重(軍事専門誌ライター)
安倍首相は翁長知事との会談で何を得たのだろうか?首相は、県知事から何の同意も得られなかった。危険除去や振興策を示したが、県知事には拒絶されている。「沖縄は自ら基地を提供したということは一度もございません」と、原因も結果も一方的な行為の結果であり、中央政府の振興策は恩恵でなはないと切って捨てられた。対して、県知事は首相に明確にNoを突きつけた。知事は絶対に辺野古に基地は作らせないと明言している。代替案を示せといった従来の論法も拒否した。もちろん、代替案は拒絶された側、すなわち中央政府が示すものであって、拒絶している沖縄県が示すものではない。
この会談で、状況を改善したのは県知事である。政府が県にYesと言わせたいこと、そしてそのためには今以上の譲歩が必要であることも明らかになったためだ。そして、首相は中長期的な立場を悪化させた。短期的には米政府への言い訳を手に入れたが、県にYesを求めるためのカードを全て失ってしまったためだ。振興策や、県が使う言い訳として準備した「危険除去」「代替案」が無効化した以上、今後、県に示せるカードはない。
■ 手詰まりな政府
これで、政府は完全に手詰まりとなってしまった。状況を改善する手段はなくなったためだ。今後を考えれば今以上の困難が待ち受けている。まず、現段階でもいまだに調査工事は終わっていない。今後は本工事が待っており、その際にはこれまで以上の反対行動が待っている。
さらに今回の会談で、辺野古反対が県と県民の意志であること印象づけられてしまった。これは現地での積極的な、あるいは県民各個人での消極的な反対を勢いづけるものである。力押しは危険である。委任事務を取り上げての強硬実施は、逆に「万策つきた」と県知事・市長の実力行動を促す危険性は高い。
現段階でも民対民の工事ではありえない過剰警備となっている。仮に誰か死んだら殉職者となってしまい、それこそ政府は手が付けられなくなってしまうだろう。また、その場合は、米政府が日本政府の面子を潰す形で掌を返すことになるだろう。
■ 安全保障上必要な物はなにか
今後、政府側ができることは何だろうか?それは、沖縄と日米政府で妥協できる選択肢を探すことである。もちろん、拒否された普天間残置や辺野古新設とは違う選択肢でなければならない。
現段階では、政府は沖縄が呑める代替案を準備できていない。これは、従来基地残置か、基地新設かといった二分法に囚われているためである。この点、安全保障で本当に必要なものは何かについて、政府は最初からから考えなおすべきだろう。
安全保障での沖縄や基地の必要性は、もちろん中国との対峙のためである。まず自衛隊を置いたが、現状では不足する。そこで米軍を追加しバランスを取ろうといったものだ。だが政府は、その米軍に期待する機能は何かまでは突き詰めていない。中国とのゲームは海空戦力で行われており、海兵隊陸上戦力ではない。中国にとって脅威であり、日米側にとっての抑止力は日米の海空戦力であり、海兵隊ではない。
この点から、海空軍と海兵隊を切り分ける解決法もあり得るのである。例えば、県民感情から特に拒絶される海兵隊を国外撤退させる代わりに、不足する抑止力増強を認めてもらうといったものだ。同じ米軍でも、海空軍であれば海兵隊ほどの拒否感はない。嘉手納での米海空軍航空部隊増強や、勝連への米海軍艦艇増強を呑んでもらう方法もある。
もちろん自衛隊増強でもよい。那覇への海空自増強でもよい。あるいは、普天間の海兵隊跡地に陸自を入れる方法でもよい。ヘリ抜きであり、普天間の一部を市に返還すれば、県の顔も立つ。戦時に普天間飛行場が必要でも、平時は使わない約束で自衛隊管理として残す方法もあるだろう
■ 翁長知事は嘉手納には言及していない
この妥協策は県知事にとっても受諾できる範囲にある。意外かもしれないが、県知事はそれほど非妥協的とも見えない。少なくとも現段階ではNoの対象は普天間残置と辺野古新設であり、「粛々」とや「代替案」といった押し付けに限定されている。
何よりも、県知事は「嘉手納について言及していない」ことに注目すべきである。この点からも、妥協策が成立する余地はある。県知事は保守政治家であり、沖縄県は尖閣問題やガス田問題も抱えている。この点で安全保障についても無理解ではない。
安全保障との妥協として、海兵隊を撤退させる代わりに、対中抑止力としての米海空軍増強といった提案は一蹴されるプランではないということだ。そして、このような提案は日米両政府にとっても利益である。嘉手納基地の安定した継続利用について、県の暗黙的同意が得られるためだ。
沖縄が日米安全保障面で重要であることは確かではある。だが、それは嘉手納と那覇が重要であって、普天間や辺野古ではない。そこが県との妥協を探る立脚点となるのである。