[遠藤功治]【驚異の微細精密印刷技術、車のシート世界シェア16%】 ~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 福井県編「セーレン」2~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
セーレンの昨年度総売上高の約55%が自動車用資材であった。ここには、車のシートの生地やエアバッグの素材などが含まれる。日系自動車メーカー全社にシート材を供給、その世界シェアは約16%、世界で走っている日本車の3台に1台は当社製品を使っている計算。世界生産シェア同様、トヨタ・日産・ホンダ向けが売上上位。この自動車のシート生地と言っても、軽自動車用の安価な製品から、高級車用の本革仕様まで、表面に凹凸があるものから、滑らかに加工したものまで、様々な形状や色彩・模様の製品があり、それこそバリエーションは数限りなく多い。その超多品種生産を可能にしたのが、当社独自のビスコテックスという技術である。ここで当社の第3の脱皮というか、当社が完成させた革新的技術基盤であるビスコテックスについて解説が必要だろう。ビスコテックスとは、“Visual Communication Technology System”の略、即ち微細精密印刷技術である。従来の方式では20色程度の平面のデザインにしか対応出来なかったものが、当社の技術では、コンピューター上のデジタルデータを基に、1,677万色の色を忠実に再現出来、色彩だけではなく、表面の凹凸や手触り、光沢なども忠実に表現できる、常識的な印刷の領域を超えたシステムである。
その印刷機械はほぼ1日24時間、ほぼ無人の工場で大量生産、過大在庫・欠品もなく、小ロット・短納期で対応出来、かつデザインの変更等も瞬時にこなす。車のシート素材、衣料、建材から、スタジアムの応援幕、百貨店やビル壁面に垂れさがる広告幕、また、北陸新幹線グランクラス入口に施された加飾側面など、その応用範囲は極めて広い。当社の福井や東京本社には、ビスコテックスによる、ゴッホやミレ―の絵画が数多く飾ってあるが、一見するだけでは、本物と殆ど見分けがつかない。このビスコテックスの技術的確立が、当社第3の脱皮、技術的な革新となり、当社の多岐な製品群の生産を可能にした。
当社製品群で、自動車に続くものがファッション関連、当社売上の約27%を占める。当社の元祖とも言うべき事業で、永らく国内外のアパレル業界に多用なファッション衣料製品を供給してきた。だが、ここ数年は業界の環境厳しく、顧客の海外生産移管や為替変動による価格競争などにより、業績は低空飛行を続けた。昨年後半から、生地だけでなく製品化比率の拡大や、国内消費の改善、また在庫を持たず、欲しい時に欲しいものだけ、という世界初のパーソナルオーダーシステムの開発などにより、ようやく大底を抜け、回復期に入りつつある。タイでの海外生産も軌道に乗ってきた模様。
この当社の2大柱の製品群に次ぎ、それぞれ売上高の5~6%を占めるのが、エレクトロニクス関連、医療関連、建設資材関連などの製品群である。エレクトロニクス関連は、実はリーマンショック以前には、自動車と並ぶ当社の大黒柱であった。実際、当社は昨年度純利益では過去最高益を更新しているが、売上高の過去最高は8年前、2008年3月期の1,129億円である。当社の今期売上高は1,053億円の計画で、この過去最高には依然届かない。
本業の営業利益でもまだ過去最高益を更新出来ていない。2008年当時の主力製品は、電気を通す導電糸や繊維、電磁波シールド材やワイピングクロスなどで、テレビやHDDなどに多く採用されたが、リーマンショック以降のエレクトロニクス不況で販売は急落、TV・HDD向けなど大幅な減収となった。ようやく最近、4Kテレビの登場やスマホ・タブレット向け出荷の拡大で、業績が回復に転じている。
当社今一つユニークな製品群がメディカル関連である。人工血管用基材や腰痛用テープ基布、絆創膏基布、純水化用浸透膜素材、化粧品などが主なもので、それぞれの製品に於いて営業利益率は20%を超えるドル箱である。急成長する分野ではないものの、非常に高い技術水準と競合の少なさ、品質の信用性などで高い利益率を維持する。
(【グローバル化への脱皮と広報戦略構築が課題】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 福井県編「セーレン」3~
に続く。本シリーズ全3回。
【カネボウを買収した経営者の英断】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 福井県編「セーレン」1~
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