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.国際  投稿日:2025/1/5

トランプ新政権の日本への意味とは その1 日本側「識者」の誤認の危険性


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・日本が同盟相手のアメリカの国のあり方を正確に把握できないのは深刻な事態。

・アメリカの分断の原因はオバマ政権の頃から顕著になったアメリカの「左傾化」にある。

・日本側の多くの識者は逆にトランプ大統領の登場がアメリカの分断を生んだと主張している。

 

第2期のドナルド・トランプ政権が1月20日にいよいよ登場する。この共和党保守派の大統領の内政、外交の施策は民主党のバイデン政権とは大幅に異なることはすでに明白である。日本にとってとくに気がかりなのは、その外交政策であり、世界戦略であることは当然だといえる。ではその政策や戦略は日本に対してどんな意味を持つのか。どんな波及効果があるのか。そうした点を中心に次期トランプ政権のあり方について多角的に報告したい。

この課題を私は月刊雑誌「明日への選択」の発行人、岡田邦宏氏によるインタビューを受け、一問一答の形で率直に語った。その結果は同誌の2024年12月号に掲載された。その内容を一部、書き直して、このコラムで紹介することとする。 

――2024年のアメリカ大統領選は「大接戦」というのが大方の予想でしたが、結果はトランプ氏の「圧勝」でした。その意味をどう考えますか。

古森義久 トランプ前大統領は一貫してハリス副大統領に明確な差をつけ、ペンシべニア州など激戦州と言われた7州も次々に制しました。しかも全米の総得票数でハリス氏を数百万票も引き離し、共和党候補としては20年ぶりに得票数でも勝利しました。そのためハリス陣営は早々に敗北を認め、日米のメディアが予想した「大接戦」はまったく外れることになりました。

同時に行われた議会選挙でも、共和党は上院で過半数を取り戻し、下院でも僅差ながらこれまでの多数派の地位を保ちました。

この大統領選ではハリス陣営から「トランプは独裁者だ」、「民主主義の敵だ、ウソつき」だという批判が投げかけられました。もちろんそうした批判に根拠はなく、政敵同士の攻撃でした。しかし、いわゆる分断というか深刻な対立が目立ったことは確かです。トランプが勝ったことでそうした対立が変わったわけではないにしても、トランプに投票した米国民の多数派はこの種の批判を排したわけです。8000万近くのトランプ支持票の重みは絶大で、これが民主主義政治の結果と言えます。アメリカ国民の信託をトランプが得たといえます。

日本でもトランプが大統領になれば何をするかわからない、日米同盟が壊れるかもしれないなどと危険視する論調がありました。「もしトラ」なんていう言葉があったほどです。そうした表現自体が万一トランプになったら大変だという対アメリカ認識に基づいていたわけです。選挙の結果が明確となったいまとなっては、トランプ圧勝というアメリカ国民の選択に対しても間違った捉え方をしていたこととなります。

話は飛躍するようですが、かつて日本国がアメリカの動向を見誤った結果、大東亜戦争への道を突き進んだことを忘れてはなりません。つまりアメリカという国がいまどんな状態にあるのか、アメリカ国民はなにを考え、望んでいるのか、という読みを間違えるということです。日本にとって致命的な重要性を持つ同盟相手のアメリカの国のあり方を正確に把握できない、というのは深刻な事態なのです。

――トランプ大統領、あるいはトランプ陣営の実際の政策をどう認識するか、という点が重要なのでしょうね。「もしトラ」という日本側の表現自体にきわめて情緒的な反応を感じます。

古森 こうしたトランプ再登場の日本にとっての意味も、選挙結果の分析とともに、アメリカ政治の大きな流れのなかで考えるべきです。そのうえでトランプ陣営の政策とはなんなのか、冷静に認識することが必要です。

アメリカの分断が問題だと言われますが、その原因はオバマ政権の頃から顕著になったアメリカの「左傾化」にあると思うのです。日本側の多くの「識者」とされる人たちは逆にトランプ大統領の登場がアメリカの分断を生んだ、という主張を展開しています。

アメリカ合衆国は伝統的に、内にあっては自由、競争、平等、さらには民間の企業を大事にする。外に向かっては強固な軍事力を保持して、「力の平和」を進める。強くて豊かで自由、というのがアメリカらしいアメリカだと考えられてきたわけです。

それに対する反発は以前からリベラル派のなかにはありました。従来の強いアメリカ、自由で奔放なアメリカ、キリスト教の教えを保つアメリカ、になにか深刻なトラブルが起きれば、そのアメリカらしいアメリカへの反発が高まるわけです。その種の波に乗って大統領になったのがバラク・オバマでした。オバマにとってのアメリカは国内では奴隷制、対外的には帝国主義的で侵略的な国ということになったのです。つまりは本質部分で悪いところのある国がアメリカ合衆国だ、というわけです。

その思考を当時、最も明確に象徴していたのがオバマ大統領の夫人、ミシェル・オバマの言葉でした。夫のオバマが大統領に当選して間もない頃、こう言ったのです。「私はアメリカ人であることを誇りに思ったことは一度もない」と。

そうした認識を背景としてキリスト教を国教扱いするのはよくないからメリークリスマスという言葉も使ってはいけないとか、ジェンダー平等とかLGBTを推進するような政策をとった。普通は偉大な初代大統領とされてきたジョージ・ワシントンも奴隷を使っていたから、好ましくない人物とされてしまった。少数派、恵まれない人、貧しい人をとにかく優遇した。その一方、企業の自由な活動は規制し、法人税はどんどん上げて35%にまで上げた。

そういう「左傾化」の流れに反対して、アメリカをその歴史や伝統をも含めて誇りを持てる国にすると言って登場したのが8年前のドナルド・トランプだったわけです。

(その2につづく)

トップ写真:フロリダの邸宅マール・ア・ラーゴで大晦日を迎える、ドナルド・トランプ次期米大統領とメラニア夫人(2024年12月31日フロリダ州パームビーチ)出典:Eva Marie Uzcategui/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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