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.政治  投稿日:2025/1/23

沖縄市長選 エース擁立で「オール沖縄」は巻き返せるか


目黒博(ジャーナリスト)

目黒博のいちゃり場

【まとめ】

・1月26日に投開票される沖縄市長選は、保革の一大決戦だ。

・市長選での敗北が続く「オール沖縄」は、エースを擁立し、巻き返しを狙う。

・自公側は、昨年末に逝去した桑江朝千夫前市長の実績の継承を訴える。

 

人口14万の沖縄第二の都市、沖縄市の市長選が1月19日に告示され、26日に投開票される。昨年12月9日の桑江朝千夫市長の逝去にともなう選挙であるため、超短期決戦になった。

1月19日には宮古島市長選が投開票され、「オール沖縄」勢力が擁立した現役市長が、保守系新人に大敗し、県内の「オール沖縄」系市長がゼロになった。この選挙では、保守系が分裂したにもかかわらず、陣営の候補が敗れ、「オール沖縄」の弱体ぶりをさらけ出した。同勢力は、沖縄市長選で巻き返しを図る。

▲写真 沖縄市の位置 出典:沖縄県HP

<保革の一騎打ちとなり、両陣営とも必死の選挙を展開する>

退潮が続く「オール沖縄」は、玉城デニー知事の地元でもある沖縄市の市長選で、「切り札」を擁立する。仲村未央元県議だ。仲村候補は、新聞記者を経て、沖縄市議を2期、県議を5期、立憲民主党(以下、立民)沖縄県連の代表も務めた。若い頃から将来のエースとして嘱望されてきた同候補が、陣営の期待に応えられるかどうか。

一方、故桑江前市長が後継に指名した花城大輔元県議が、自公両党の全面的な支援を得て出馬する。花城候補は、自衛官や企業役員を経て、県議を4期、自民県連幹事長を務めた。

▲写真 桑江沖縄市長(2017年12月12日撮影)提供:沖縄市役所

革新系東門市長時代(2006~2014年)に疲弊した経済を、故桑江前市長は10年間かけて立て直すなど、その行政手腕は高く評価されてきた。花城氏は前市長の残した実績を引き継ぐ使命を帯び、負けられない選挙戦に挑む。

▲写真 花城大輔沖縄市長選候補 提供:花城ダイスケ後援会

仲村未央候補は、高齢者からは「みおちゃん」と呼ばれるなど、人気は抜群で、選挙には強い。昨年6月の県議選では、沖縄市区(定員5名)で1万票を得て1位当選を果たした。

▲写真 仲村未央沖縄市長選候補 出典:仲村未央 Official site

花城候補は、知名度では仲村候補には及ばない。昨年の県議選での得票数は、7千票余り。4位当選で、仲村氏に大差をつけられた。「強敵」仲村未央氏の登場に、花城陣営は緊張する。

<過去の選挙データから見た沖縄市の選挙情勢>

昨年6月の県議選と10月の総選挙の開票結果は、両候補の強さを図るうえで参考になる。

県議選の沖縄市区では、「オール沖縄」系、自公の両陣営から、それぞれ3名が出馬した。各陣営候補者の合計得票数は、「オール沖縄」が約23,500票、自公が約22,200で、僅差で「オール沖縄」が優勢だった。

総選挙では、「オール沖縄」の屋良朝博候補が約26,000票、自民党の島尻安伊子候補が約22,500票で、屋良氏が圧倒した。ここで見逃せないのは、保守色の強い参政党候補が獲得した票が約4,800あったことだ。保守系とは言え、同党は既存政党の批判票を集めたことを勘案すると、参政党支持者のうち何割が花城候補に投票するかは、判断しにくい。

総選挙の比例代表における政党別の得票は、あまり参考にはならないと思われる。「オール沖縄」との関係が悪化しているれいわ新選組や、中道系の国民民主党、維新の会の支持者が誰に投票するかは予測しにくいからだ。

総合的に考えると、ほぼ互角と言えるが、不確定要素が多く、情勢は流動的だ。

<仲村未央候補の政治キャリアは目立つが、問題も抱える>

仲村氏は、2019年の参議院議員選挙に社会民主党(以下、社民)公認で比例区に出馬し、10万票近くを獲得したが落選した。立民から立候補していれば当選できた得票数であった。社民の全国組織の弱体ぶりを目の当たりにした同氏は、2021年の社民分党の際に、立民に移籍する。

仲村候補の政治キャリアは華やかだが、問題もある。最大の弱点は、調整力の不足だ。特に、立民県連代表としてのぞんだ昨年6月の県議選では根回しに失敗し、立民と社民の共倒れを招いた。10月の総選挙では、沖縄4区(本島南部、宮古島、石垣、与那国など)の候補者選考が難航した際に、彼女が動いたとの情報はない。

議員歴は20年以上あるが、行政経験はない。そのため、行政トップとしての資質は未知数である。

<花城大輔候補の強みと課題>

花城氏の強みは、故桑江前市長の業績の継承を強調できることだ。たとえば、プロバスケットボールBリーグの強豪、琉球ゴールデンキングスのホームである「沖縄アリーナ」は、故桑江氏の功績の一つだ。バスケットボールのワールドカップ予選会場になり、沖縄のバスケットファンを熱狂させた。

巨大な嘉手納飛行場と嘉手納弾薬庫地区のおよそ3分の1は、沖縄市域である。以前はコザ市と称され、「基地の街」のイメージが強かった。だが、「沖縄アリーナ」に代表される施設の充実は、沖縄市のイメージを大きく変えた。前市長の路線を止めてはならないとの花城候補の主張は、説得力がある。

ただし、花城氏が、先述した知名度不足のほかに、故安倍晋三元首相を尊敬するなど、右派的な思想を持つことを気にする人もいる。平和主義志向の強い公明支持者がどうとらえるか。また、故桑江前市長と比べると、15歳若いこともあり、「軽い」と評する人もいる。

<勝負の分かれ目>

選挙戦序盤では、スター性のある仲村氏が大きくリードしたようだ。しかし、故桑江前市長の「弔い合戦」を前面に押し出し、組織力をフルに動員した花城陣営が追い上げ、接戦に持ち込みつつあるようだ。

「オール沖縄」の関係者たちが、勢力の命運がかかる今回の市長選で、強い危機感を共有できるかどうか。仲村候補にとっての不安材料は、司令塔が不在で、内部対立が激しい陣営のまとまりが悪いことだ。

沖縄市役所職員1,000人の投票行動も注目される。彼らの大半は桑江市政を評価していると言われ、その家族や親族、友人たちを含めると、かなりの数にのぼると思われる。これは花城候補には有利な材料だ。

沖縄市の有権者は、個人の魅力で仲村氏を選ぶのか、それとも、行政の安定感を重視して花城氏に投票するのか。大型選挙並みの重みのある選挙の結果は、どうなるか。関係者の胃は痛んでいるのだろう。

トップ写真:沖縄市役所庁舎 提供:沖縄市役所




この記事を書いた人
目黒博ジャーナリスト

1947年生まれ。東京大学経済学部(都市問題)卒業後、横浜市勤務。退職後、塾講師を経て米国インディアナ大学に留学(大学院修士課程卒)。NHK情報ネットワーク(現NHKグローバルメディアサービス)勤務(NHK職員向けオフレコ・セミナー「国際情勢」・「メディア論」を担当)、名古屋外国語大学現代国際学部教授(担当科目:近現代の外交、日本外交とアジア、英文日本事情)、法政大学沖縄文化研究所国内研究員などを歴任。主な関心分野:沖縄の「基地問題」と政治・社会、外交・安全保障、日本の教育、メディア・リテラシーなど。

目黒博

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