.政治  投稿日:2018/5/18

自衛隊制服は中国製で構わない

Pocket

文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

陸上自衛隊が制服を高額な国産品に変更。

・安価な外国産にすれば、防衛予算への負担も小さく更新ペースも上がる。

制服は儀礼と事務作業でしか着ないが高額で低品質。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapanIn-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40071でお読み下さい。】

 

陸上自衛隊が制服を変更した。常装と呼ばれるスーツ型制服を緑色から黒に変更した。これらは儀礼や事務作業等で用いられる被服である。

JB180518montani01

▲写真 変更前の緑色の制服 平成22年度自衛隊記念日 観閲式(Parade of Self-Defense Force) 出典:photo by Rikujojieitai Boueisho

更新には長い時間を要するという。高額な国産品のため予算的に一挙更新できないからだ。また従来の緑色タイプも大量在庫している。無駄にしないためには一部の隊員にはそれを与えなければならない。

だが、制服は国産でなければならないのだろうか?

別に中国製でも構わない。所詮は事務服である。海外製でも全く問題はない。より工賃が安いベトナムでもカンボジアでもバングラデシュ、北朝鮮で縫製しても構わない。むしろそうすべきである。自衛隊衣服はヨリ安価となる。防衛予算への負担も小さく、更新ペースも上がる。しかも工賃低下により工数も増やせる。縫製もヨリ丁寧となる。

 

■ 制服で戦争はしない

自衛隊制服は安価な海外縫製とすべきである。その理由の第1は「制服では戦争をしない」ためだ。

自衛官には別に実戦用の被服がある。各種の戦闘服や作業服がそれだ。野戦や基地警備であれば迷彩の戦闘服を着用し、靴も陸戦靴になる。艦船や航空機の整備、物資輸送や土木工事では各種の作業服と安全用の靴となる。艦船のように火災対策が必要なら防火機能、電子整備なら静電加工、寒冷地なら防寒タイプの服を着る。

逆にいえば制服は儀礼と事務作業でしか着ない。スーツ型、あるいは詰襟服やセーラー服、正帽、革靴(自衛隊では短靴という)はその程度のものだ。しかも着るのは概ね幹部(士官)だけである。現場作業をしないため仕方なく着ている。対して曹士(下士官・兵)は儀礼以外は作業服を着ている。着心地がいいからだ。

JB180518montani02

▲写真 正帽 官給帽子はどうしようもない。 提供:筆者

JB180518montani03

▲写真 正帽ハチマキ ハチマキはフニャフニャのスチール枠に裏綿打ちビニールである。対して写真の私物は錆びない竹フレームであり、汗は吸っても垂れない本革が巻かれている。屋根の白布も簡単に交換できる。提供:筆者

そのような制服をわざわざ高価な国産品にする必要があるか? そういうことだ。

ある種、どうでもいい服である。それなら海外製でよい。かつて日本でも以前は既製紳士服点が売る北朝鮮製スーツが流行っていた。自衛隊も同じように北朝鮮やカンボジア製制服を与えればよい。

 

■ 官給制服は高額・低品質

第2の理由は低品質だからだ。

官給制服は「安かろう悪かろう」だ。アイロンの持ちは悪く、生地は限りなく薄く下着の柄が透ける、通気性は悪く、儀式前には毛羽立ちの始末が求められる。

JB180518montani04

▲写真 第二種ワイシャツ 幹部自衛官は貧乏くさい官給品をほぼ着ない。筆者は15年勤務したが貸与夏服は袖も通さず封入りのまま返納。貸与冬服も入隊後に2ヶ月着ただけで返納した。肩章付き官給ワイシャツは一着も開封せず4着に達した。(これは返還義務なし)粗雑なサイズ指定から判るように首周りと袖長は選択できない。 提供:筆者

だから制服を常用する幹部は私物を買う。自由経済で作られる私物服は最高だ。ノーアイロン、自宅洗濯機で水洗い可能、ズボンはツータック・アジャスター付、しかも下着透視対策の極薄ナイロンの内張りがある。また機能繊維で通気性が高く、高級長繊維なので毛羽も立たない。

これは帽子も靴も作業服も同じだ。かさばらない折畳タイプ制帽、磨かなくても光る靴、膝痛に優しいクッション靴底、酷暑室内用の絽の半袖作業服やカーハートFR相当の防火繊維採用作業服がある。

JB180518montani05

▲写真 磨かなくても光る靴。表面に厚い透明層がある。これは陸海空自衛隊で非儀礼時に結構履いている。 出典 MARLOW WHITE

これは縫製メーカーが悪いのではない。「どうせ戦争では使わない制服だからとにかく安く」「幹部は私物を買うからそれでよい」と仕様を切下げた結果だ。*1そのような低性能品をわざわざ高額になる国産品として使うべきだろうか?

官給品は海外製でよい。さらにいえば、喪服を作っているような国に発注すれば既存品よりも安い価格で水洗い可能、ノーアイロン、ツータック・アジャスター付きの官給制服が入手できるだろう。

 

■ 今でも海外製が使われている

第3の理由は「今でも海外製を着ている」ためだ。

海外製採用への反論としてはスパイが持ち出される。「中国製を採用すると中国スパイが紛れ込む」意見だ。自衛隊のやることをはすべて無批判にヨイショするカルト愛国メディアに多い。亜流としては「納棺服となるから日本製」「日本縫製でなければ気品は出ない」といったオカルト発言もある。

だが、その反論は意味はない。

まず出入門チェックは制服ではない。身分証明書やそのICタグで行われる。チェックされるのは服装の乱れだ。それも若手下士官や兵隊が制服・私服で通門する際に、しつけ名目に半分嫌がらせで観るだけだ。

その上でいえば今でも海外縫製品は普及している。

私物制服はおそらく海外縫製である。ごく一部、例えば横須賀の銘店、安藤洋服店のさらに英国生地を使った手縫い品でもなければそうだろう。それ以外の制服店なら青山やコナカと同じ工場と見ている。なんせ青山やコナカでかったズボンを実混用してもわからない。

米軍向けや英軍向けをそのまま着ている自衛官もいる。例えば、海自の夏制服でボタンが透明なタイプは米海軍用の制服である。どうやってもアイロンがかからないほど素晴らしいノーアイロンである。また陸海空とも肩章ワイシャツや肩章セーターはその手が多い。米英ほかの軍隊採用品をそのまま着ている。*2

これが問題となるか?ならない。その判断をする指揮官級の高級幹部が率先して着ている。留学先で折畳み正帽を入手するともう手放せないという。出張は背広姿であり制服一式を携行する。なにより正帽は始末に困るのだ。

この状況で「国産制服でなければスパイが紛れ込む」は馬鹿な話である。

ちなみに、国産制服にしてもスパイは紛れ込める。制服仕様は公開されている。どこでも作れるし誰でも買える。これは戦前からそうだ。「海軍省にコスプレしたマニアが室内まで入り込んだ。でも何の実害もなかった」といった笑い話があった。国産制服でも結局は同じなのだ。

この点でも、官給制服を国産しなければならない理由は立たない。

制服は海外製にすべきである。そして、それで余った金で本当に必要な迷彩服や陸戦靴、作業服の高性能化し、あるいは貸与数を増加させたほうがよい

 

*1 短靴の品質は最悪だった。軽作業は短靴で行うが全く向いていない。筆者の記憶でも壁梯子で屋上に登るには滑って危険であり、除雪指揮で融氷材が掛かったら翌日にはバラバラになった。幹部用のストレート・チップ短靴は糊づけだったのだ。以降、ハシゴは地下足袋で、除雪立ち会いは軽登山用の厚革チロリアンを使っていた。

*2 筆者が聞いた面白い話は「タイ海軍の制服を転用する」アイデアだ。衣替えは6月1日(地域で違う)だが、4月5月まで黒制服は暑すぎる。同期のタイ海軍留学生が着ていた、反対側が透けて見えるほど通風性のよい黒制服を入手しようといった話だ。

また最初の部隊で部下だった准尉さん(実質は准尉さんのほうが上)はスニーカーだった。「革靴は蒸れるから」と黒系のエアーマックスのようなスニーカーを買い、目立つ部分をマジックで黒塗りして履いていた。*3

*3 准尉サンはとてもとてもエライ。昔の軍隊の階級でいうと海軍兵曹長や海軍少佐と同じくらいにエライので何をしてもOKなのである。

 

JB180518montani06

▲写真 米海軍・沿岸警備隊の下士官から少佐までのタイプ。透明プラスチックの部分が前に折れる。海自の帽章とあご紐ボタンをつければそのまま使える。出典:ベルナール社カタログ

JB180518montani07

▲写真 ebayの白服 この形でプレス線が入っているのは米海軍用である。海自ではボタンが透明なタイプをよく見る。写真はオークションに出品されたもの。出典:ebay 

トップ画像/陸上自衛隊新制服発表会 出典:自衛隊Twitter

Pocket

この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."