国連幻想を解析する(上)日本への不当な干渉
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・2025年、国際情勢変動の中、日本は対外関係の重要性を増している。
・日本には国連過大評価の「国連幻想」があり、不当な干渉を受けている。
・過去の事例から、国連への過度な依存を見直すべき。
新しい年、2025年、アメリカでのドナルド・トランプ大統領の再登場によって、世界は新たな波乱と変動を迎えるだろう。その動きは決して悪い方向にではないことを望みたい。2024年までの国際情勢はバイデン政権下でのアメリカの影響力、抑止力の衰えで反米専制国家群の膨張が目立った。この傾向に対してトランプ大統領は「アメリカの力による平和」策を唱え、明らかに反米勢力に対してその危険な動きを抑えにかかるという姿勢をみせている。
日本をめぐる国際情勢も厳しい。中国の大軍拡と日本領土の奪取の動き、北朝鮮の核兵器やミサイルの開発の継続、ロシアがその北朝鮮と提携し、日本へも敵対姿勢をみせるという新たな脅威・・・安全保障の環境は危機ともいえる厳しさなのだ。そんな情勢下で日本はまず同盟国のアメリカとの絆の強化を確認しなければならない。
同時に他の関係諸国や国際機関とも円滑な連携を保たねばならない。要するに日本にとって対外関係がかつてない重要性を増す新たな年なのである。
その日本の対外関係については日本の内部には国連信奉という危険な傾向がある。国際連合の実態を過大に評価し、その影響力や動向をこれまた過大に受け止めるという錯誤である。日本のこの国連に対する過度の依存や評価は国連幻想と呼んでもよいほどだ。
ではなにがどうして幻想なのか。私の長年の国連との接触や考察を土台にして、最近の国連による日本への新たな動きを検証しながら、その日本側の幻想を解析してみよう。
国連がまた日本に不当な干渉をしてきた。2024年10月末のことだった。こんどは日本の皇位継承への反対だった――
「また」と強調するのは、国連はかつて日本の慰安婦問題でクマラスワミ勧告として介入をした。ケイという国連特別報告者が日本の報道の自由について干渉した。ケナタッチという別の国連特別報告者は日本政府が進めていたテロ準備罪の法案に反対した。
そして今回は日本の皇室の男系維持の継承に対する不当な反対という干渉なのである。「不当」と強調するのは、この種の干渉がみな事実に基づかず、特定の政治意図に露骨に彩られてきたからだ。スリランカ出身の女性問題活動家ラディカ・クマラスワミ氏が1996年にまとめた報告書は日本の慰安婦問題について吉田清治捏造証言を資料に使い、日本の当局が一般女性を組織的、政策的に強制連行したと虚構を伝えていた。
アメリカ人学者のデービッド・ケイという人物が2016年の短期の来日でまとめた報告書は「日本には報道の自由がない」と決めつけていた。同時期にマルタ出身のIT専門家ジョセフ・ケナタッチ氏も国連特別報告者として日本の法案の「テロ組織」という用語を誤認して法案全体を言論弾圧だと非難した。
もはやお笑いの範囲ともなった事例では2015年に来日した国連特別報告者のオランダ人女性は「日本の女子生徒の13%がセックスの援助交際をしている」というデタラメの発表をした。
今回、「日本の皇位が男性皇族で継承されるのは女性差別撤廃条約に反する」として皇室典範の改正を勧告してきたのは国連の女性差別撤廃委員会という組織である。この委員会は国連総会が採択し、日本政府も1985年に批准した女子差別撤廃条約に基づき、創設された。国連加盟各国から合計23人の委員が任命され、日本からも亜細亜大学の秋月弘子教授が加わっている。
この女子差別撤廃委員会は国連人権理事会によって任命される特別報告者と似たような地位にある。そのメンバーたちの個人的な意見に立脚し、その「勧告」は国連自体の意見ではなく、強制力もない。
日本政府は今回の勧告にすぐに反発した。
「日本という主権国家の独自の歴史や伝統、価値観に立つ皇室制度を一般の人権問題と同じに扱うことはきわめて不当だ」という趣旨である。確かに日本をよく知りもしない外国の代表、しかも国連という権限や権威があるようで実はない欠陥だらけの国際機関にわが日本の国の象徴、国民の統合の象徴たる天皇のあり方を指図されることは、あまりに理不尽である。
この際、こうした理不尽な言動に出る国際連合という組織への改めての現実的な視線を向けるべきだろう。この種の不当な干渉には単に抗議や反対だけではなく、国連への資金供与の制限や特定の国連機関のボイコットという実効ある措置をも考えるべきである。そうした強固な態度こそが国連自体の健全化にもつながるのだ。
最近の国連の特定な政治偏向はあまりにも過激となってきた。イスラエルとハマスとの戦いで国連のパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がハマスの戦闘支援までしていたというイスラエル政府の主張は注目に値する。
そもそも国連は全体としてイスラエルに厳しく、アラブ諸国に甘い傾向がある。だが今回はその国連機関がハマスのイスラエル奇襲攻撃にまで加担していたとイスラエル議会が公式に言明したのだ。
そんな国連が日本に対して、文字通りの上からの目線で皇室のあり方に文句をつける。一体、国連とは何様なのか。国連の実態を踏みこんで点検すると、何様でもないのだ、という答えも出てくる。
(中につづく)
*この記事は月刊雑誌WILLの2025年1月号に掲載された古森義久氏の論文を一部、書き直しての転載です。
トップ写真:国連子どもと武力紛争担当事務総長特別代表(当時)ラディカ・クマラスワミ氏(2011年5月17日アメリカ・ニューヨーク)出典:Jamie McCarthy/WireImage
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。