石破総理とトランプ大統領 歴代首相が示す教訓

藤崎一郎(日米協会会長)
【まとめ】
・日米首脳関係がよかったのは、中曽根ーレーガン、小泉ーブッシュ、安倍ートランプ。
・うまくいった理由は、国内の掌握、対米協力、人間関係。
・総理の職にある人をたてていくことが国益だ。
石破総理がトランプ大統領とうまくつき合えるかという声がある。理屈好きの石破さんが直感派のトランプ氏とウマが合うかという心配である。安倍元総理のようにトランプ氏のフトコロに入り込めるかという人たちの多くはかつて安倍氏の振る舞いは恥ずかしいと言っていたものだ。
日米首脳間でわれわれの記憶にある特に良いと言われた関係は三つだろう。中曽根康弘総理とレーガン大統領のロンヤス、小泉純一郎総理とブッシュ息子大統領、そして安倍総理とトランプ大統領だ。この三つがなぜうまく行ったか見てみよう。
一つは、これらの総理は日本国内の基盤をしっかり持っていた。中曽根総理は行革をやり、後継者指名をできるほど党内を掌握した。小泉総理は造反議員を選挙で公認しないだけでなく刺客をたてるほどの厳しい姿勢で党内を抑えた。
安倍元総理も国政選挙に六連勝し最大派閥の領袖として党内を仕切った。トランプ第一期大統領がまともに相手にしたのは、国内を圧倒的に抑えていた外国の強いリーダーであった。
石破総理の場合、これからの選挙を経て強い基盤を作ることが期待される。
二つ目は、これら3名の総理はこうした国内での力を背景に米国と政策面の協力をした。中曽根総理時代は日米貿易摩擦の時代だった。米国の貿易赤字の5割以上を対日貿易が占めた。日本は半導体、牛肉オレンジなどで米国に譲歩し、中曽根総理は例外的にテレビに出演して自らチャートを使って国民に輸入を呼びかけた。結果的にソ連崩壊に寄与したレーガン大統領のSDI計画(戦略防衛構想)をサッチャー英首相とともに支持した。米国に譲っていただけではない。西欧がSS20というソ連の中距離核ミサイルを欧州からシベリアに移動させようと米国に画策したとき、西側の安全保障は一体だとレーガン大統領に説き、移動阻止に成功した。
小泉総理時代に大きかったのはイラク戦争支持だろう。独仏が反対する中でブレア英国首相とともにブッシュ大統領を支持した。さらに湾岸戦争の対応への反省もあり、陸海空の自衛隊を後方支援に派遣した。この場合も米国にサービスしただけでない。小泉総理の北朝鮮訪問に米国が反対しなかったのは、両首脳の信頼関係があったからだろう。
安倍総理のときは安保法制を米国に言われる前に整備した。そして尖閣は日米安保条約でカバーされる、日本の施政を損なおうとするいかなる一方的行動にも反対するとの米国大統領の発言を初めて引き出した。
石破総理の場合さいわい安全保障面では岸田内閣の実績がある。防衛費を5年間で倍増しGDP比2%にすること、反撃能力を持つこととしトマホーク400機購入すること、東京に日米合同の作戦司令部設置などである。これらを着実に実施していけばいい。経済面では円安にもかかわらず2019年以降日本は世界一の対米投資国である。これらを直接に説明し理解をえていけばいい。対米投資では日本製鉄のUSスチ―ル買収問題が影を落とさないよう期待する。外交面でも中国、中東への対応など協力できる余地は大きい。
三つ目は個人的関係である。人間としてウマが合うかは会ってみないとわからない。中曽根総理、小泉総理、安倍総理はたしかに米国大統領といい個人的関係を作った。小泉ブッシュの時は外務省の事務方として何度も首脳会談に同席し、二人の親密さに感心したものだ。しかしそれは上に述べた二つ、国内の掌握、その上での対米協力があった上での話だ。さらにいずれの場合でも双方の退任後、頻繁に訪問し合って会食したり、ゴルフしたという話はあまり聞かない。もちろん友情はあったと思うが、なによりお互いに仕事上のいいパートナーだったのである。
大事なのは、米国大統領の相手は総理大臣一人だけとみなが認識し、他の人が会いに行ったりせず、石破総理に任せることである。トランプ大統領は百戦錬磨の交渉の達人である。こちらが窓口を絞らなければ、うまく利用しようとするだろう。
本年は中東もロシアも中国も北朝鮮も大きな動きを示すだろう。日本と米国の間に万一にもきしみが生ずれば、まわりの思うつぼである。総理の職にある人をたてていくことが国益である。
トップ写真:アンソニー・ブリンケン米国務長官との会談に臨む石破茂首相(2025年1月7日 東京)出典:Photo by Takashi Aoyama/Getty Images
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この記事を書いた人
藤崎一郎日米協会会長
1947年神奈川県生。1969年外務省入省。在米大使館公使を経て、1999年北米局長、2002年外務審議官、2005年在ジュネーブ国際機関日本政府代表部大使、2008年駐米大使、2012年退官。2013年から2018年まで上智大学特別招聘教授。2018年から2023年まで中曽根平和研究所理事長。現在日米協会会長、北鎌倉女子学園理事長、国際教育振興会賛助会会長などを務める。慶応大学、ブラウン大学、スタンフォード大学院にて学ぶ。著書「まだ間に合う」(2022年、講談社現代新書)

