[瀬尾温知]【イチロー、メジャー3,000本安打に後2桁】~来季マーリンズに留まり大記録達成か~
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
マーリンズのイチローが29日のナショナルズ戦で安打を打ち、メジャー通算2900本安打に到達。この試合では2本の安打を放って通算2901安打として、3000本安打までついに2桁となる99本まで迫ってきた。
今季のイチローは外野陣の4人目の選手という立場でシーズンを迎えた。4月25日に日米通算の得点を1968として王貞治さんの持っていたプロ野球の通算記録を更新。41歳で現役最年長野手となっても身体能力は衰えず、捕手のタッチをかわして生還する見事な走塁も披露した。6月15日のヤンキース戦では、日米通じて初めて田中と対戦し、2安打を放って貫録を示した。オールスターゲームまでの前半戦の終盤には、自己ワーストの34打席連続無安打と不振に陥り、先発や代打など定まらない起用法の中で結果を出す難しさも経験した。
今季ここまで(現地7月29日まで)の成績は、229打数57安打(1本塁打)15打点18四球9盗塁。4月は有望若手の外野手イェリッチがけがをしたことで代わって先発出場することになり、7月はメジャー屈指のスラッガーである外野手スタントンと1番打者を務めていたゴードンがけがで離脱したため、慣れ親しんだ「1番ライト」の定位置に入って先発出場の機会を増やしている。イチローの強みである日々の鍛錬の継続が、けがをせずに安打数を積み重ねてきた証として偉大さを知らしめている。
シーズン162試合の100試合を消化して後半戦に突入するこの時期、プレーオフを目指すチームがトレードで補強して戦力強化を図る中、イチローのマーリンズは42勝59敗で負け越しが17。ナ・リーグ東部地区の4位に低迷しており、昨季の抑え投手をトレードに出すなど、来季以降を見据えたチーム作りに舵を切っている。マーリンズのようにプレーオフ進出の望みがないと判断したチームは、プレーオフを目指すチームに即戦力となる選手を放出し、その代わりに将来性のある若手選手を引き抜いておく。それでも放出側は、即戦力といってもチームの基盤となる選手を手放すことはまずない。
そういった事情がある中、難しいのがイチローの置かれた状況である。現段階で移籍の話が出ないのは、補強選手として見られていないということになる。だからと言ってマーリンズがイチローをチームの基盤として来季のために確保している訳ではない。どういうことかと言うと、それはマーリンズがイチローをあくまでも「第4の外野手」と評価していて、今季のように外野手のレギュラー陣にけが人が出たときのバックアップ要因と考えているのである。
イチローは今季101試合中96試合に出場していて、先発で50試合、代打や途中出場は46試合。先発では185打数47安打の2割5分4厘。代打や途中出場では44打数10安打の2割2分7厘となっている。マーリンズとしては、3000本安打に注目が集まる選手を在籍させておくことは、マーケティングの面で大きなメリットになる。今季のように「第4の外野手」として成績を残してくれるのなら、マーリンズのユニホームを着て来季の2016年に大記録を達成するだけの力はまだ十分にあるとの見地なのだろう。
マーリンズは42勝59敗で負け越しが17と先述したが、イチローが先発した試合に限っては25勝25敗の五分となっていることを記しておく。全盛期と比べたらバッティングの面で下降気味なのは否めないが、走力、守備においては未だメジャーの一線級にあることが、イチローが先発した試合の勝敗に数字として如実に表われている。
マーリンズの入団会見でイチローは、「数字はもちろん大切なものです。これがなくては現役を続けていくことはできないと思います。ただ、それがすべてではないことははっきり言えます。チャンピオンになることと節目の数字をクリアすることは大事なことではありますが、その目標を理由に現役を続けるというわけではありません」と語っていた。
あと99本となったメジャー3000本安打は、いつ、どんな状況で生まれるのか。走塁・守備ではなく、やっぱり安打を打ってこそイチローなのである。