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スポーツ  投稿日:2015/8/6

[瀬尾温知]【攻撃力乏しさ露呈、東アジアカップ日本代表】~選手を育てる厳しい目、必要~


 

瀬尾温知(スポーツライター)

「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)

執筆記事プロフィール

重慶、南京と猛暑を伍す中国の三大火炉と呼ばれる武漢まで遠征し、手土産なしで帰路につくのか。東アジアカップで日本代表は男子が1敗1引き分け、女子は2連敗。男女とも中国との最終戦になんらかの収穫を探し求める格好となった。

先のワールドカップで準優勝だった女子代表は、来年2月末から3月にかけて大阪で行われるリオデジャネイロ五輪・アジア最終予選へ向けて新戦力の発掘が目的だった。メンバーの平均年齢は23.7歳とW杯のときより4歳も若返り、戦力を見極めるという明確な計画を打ち出していたので、2連敗という結果はやむをえない。気がかりは台頭してきそうな選手がいないことで、世代交代でのレベルダウンは必至だろう。

男子代表は、ハリルホジッチ監督にとって初めてのアウェー戦となった北朝鮮に1対2で逆転負けし、韓国戦ではシュート6本、枠に飛んだのは2本だけという攻撃力の乏しさを露呈して1対1の引き分け。メンバー全員がJリーグクラブに在籍する選手で挑んでこの様態では、Jリーグの在り方が問われても仕方がない。

今から30年程前、読売クラブの試合へ観戦に行って、選手がクリアをし損ねて真上にボールを蹴り上げていても、スタンドの客からは叱咤する反応は皆無だった。そんな時代と比べれば、現在のJリーグの会場は活気に溢れているが、プロらしからぬミスプレーがあったときに「気づかせる」という役目はまだ十分に果たせてない。スタジアムでサポートする気持ちの中に厳しさを持つことが、Jリーグのレベルを向上させていくことになる。選手が気づいて育っていくには、「厳しい目がある」というプレッシャーを感じる環境が必要なのだ。

韓国戦での失点となるPKは、森重のハンドの反則によるものだった。森重がヘディングシュートを打った相手の選手に体を寄せて対応していれば、手に当たることは起こり得なかった。どうして森重はあの場面で相手と距離を置き、自由にシュートを打たせてしまったのか。右サイドからのクロスに対し、森重はシュートを打った選手とは別の選手が背後にフリーでいることを察して、そこをケアーしろと遠藤に指示を出していた。そのために自分がマークする選手と一歩分だけ距離をとられてしまった。遠藤は指示を受けて背後に回ったが、ボールはそこには出ず、森重がマークしていた選手の頭に送られていた。

遠藤はクラブチームの湘南ではセンターバックなので、自然の習性で中央を絞ってしまったのだろう。森重の手に当たったのはアンラッキーではなく、ハリルホジッチが遠藤を慣れないポジションで試したことと、それを補うための練習時間を保てなかったことに因果関係がある。そういった細かい点を気づかせるのが周囲の役目である。

毎日新聞の5日朝刊の一面コラム【余録】は、「暑」を題にした「大仏を見つめかねたる暑さかな」の正岡子規の句を文頭に記し、同じ夏に涼を詠んだ「盗人もはひる此家(このや)のすゞしさよ」を紹介して、「暑」にあって「涼」を探る楽しさは忘れたくないと締めていた。日本代表の試合の中で、「敗北」にあって「希望」を探る楽しさは、見つけられないままに今夏は過ぎ去ってしまうのか。男子代表は9月3日にカンボジア、8日にはアフガニスタンとワールドカップロシア大会2次予選の試合を控えている。

 

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