[宮家邦彦]【ユネスコ脱退or拠出金支払い停止】~南京大虐殺資料の世界記憶遺産登録~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(10月12日-10月18日)」
先週9日、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が中国の南京大虐殺関連資料の世界記憶遺産登録を発表した。日本の外務省は翌日、「中立・公平であるべき国際機関として問題であり」、「ユネスコの場を政治的に利用している」と批判した。日本外務省HPによれば、1984年12月の英国と米国が相次いでユネスコの「政治化」を理由に同機関を一時脱退したことがある。いずれも「政治化傾向の是正、事業計画の改善、予算の抑制等の面で改革が必要」などを理由とした脱退だ。
以上の通り、ユネスコの「政治化」自体は目新しいことではない。日本の対抗策としては、脱退はともかく、例えば拠出金支払い停止も考えられるだろう。但し、外交の柱の一つが国連中心主義である日本が英米のような強硬手段をとるだろうか。
〇欧州・ロシア
12日に欧州議会代表団が、17日にはドイツ外相がそれぞれイランを訪問する。米連邦議会でイラン核関連合意が否決される可能性が遠のいたので、欧州諸国はイランとの関係改善に躍起のようだ。
彼らが敢えて黙殺するのは、イランとロシアの対シリア軍事介入が欧米諸国にとって看過できないレベルに達しつつあることだ。イランとの関係改善は結構だが、こうした中東でのイランの影響力拡大にどう対処するのか。今の欧州にその答えはない。
15日にドイツ議会が難民問題で法律改正の審議を行う。メルケル首相は「政治難民の受け入れに上限はない」と述べ支持率を下げているそうだが、本当に大丈夫なのか。アジア関係では、13日から中国外相がチェコ、ポーランド、ブルガリアを訪問する。
〇東アジア・大洋州
イランといえば、岸田外相が12日にテヘランを訪問する。13-14日には中国の外交担当国務委員が訪日し、谷内国家安全保障局長、安倍首相とそれぞれ会談する。ユネスコの問題はあっても、日中ハイレベルの会談は続くということなのか。
〇中東・アフリカ
11日にイラク軍が「IS(イスラム国)」のバグダーディ指導者の乗った車列などへの空爆作戦を行ったと発表したが、同容疑者の生死は未確認だという。公開されたビデオは米国製と思われるので、今回もイラク軍の単独作戦ではないだろう。
仮にバグダーディが殺害されたとしても、「IS」の戦闘能力は当面変わらないだろうし、同組織が急速に弱体化する可能性も低い。そもそも、バグダーディは「IS」の象徴に過ぎない。「IS」がこの男一人で成り立っている訳では決してないのだ。
〇アメリカ両大陸
16日から韓国大統領が訪米する。彼女が中国や日本について何と述べるかに関心がある。同大統領の頭の中では対北朝鮮関係を念頭に置きつつ「中国との関係維持改善」が最優先なのだろう。これが「悲しき半島国家」の宿命なのかもしれない。
〇インド亜大陸
13-19日に日米印三カ国海軍によるExercise Malabar合同演習がベンガル湾で行われる。内容は敵性国家の潜水艦、海上艦艇及び航空機を破壊するためのシナリオの検証だと報じられた。その「敵性国家」がどの国かは言うまでもないだろう。
これまでのExercise Malabarは米印二国間だけだったが、今回から日本も参加するらしい。米海軍からは空母、ミサイル巡洋艦、沿海域戦闘艦、原子力潜水艦と最新鋭哨戒機が参加する。
インドからは駆逐艦、フリゲート艦(2隻)、補給艦、潜水艦と哨戒機が参加するので、恐らく想定は南シナ海だ。ちなみに日本からは護衛艦ふゆづきが参加する。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(写真引用:PD (Public Domain) ,Check of Chinese soldiers in Nanking01)
「南京陥落直後、南京城内で避難民にまぎれて逃亡を企てた支那正規兵約五六千人を調べる」 支那事変画報 大阪毎日・東京日日特派員撮影」第14集 (毎日新聞、昭和13年1月1日発行)