【カタルーニャはなぜ独立を目指すのか】~スペイン・カタルーニャ独立運動の行方 その1~
コナーこずえ(コンサルタント)
『コナーこずえのスペインで見た聞いた』
スペイン・バルセロナの大通りを多くの老若男女が埋め尽くす。手には赤と黄色の縞模様に星が白抜かれた青い三角が載る旗が握られている。スペイン・カタルーニャ州の独立を望む人々によるデモである。18世紀にカタルーニャが戦争に敗れ、自治権を失ったことを記念する「カタルーニャの日」の9月11日には、州の各地から独立賛成派の市民が集結する。地元警察の発表によると、2015年は約140万人が参加したとされる。前述の旗は、カタルーニャ州旗を元につくられた独立運動の象徴で、自宅の窓などからこれを掲げる市民もいる。独立賛成派が主張する「独立すべき理由」は、大きく2つに分類できる。1つ目は文化的な事情である。スペインも他の多くの国々同様、戦争や内戦、独立や連合を繰り返し形作られてきた歴史を持つ。おおざっぱに言えばカタルーニャは、戦争に負けてスペインに取り込まれた元独立国家である。そのため首都マドリードなどとは、文化や習慣が異なるというのだ。
最も象徴的なのは、言語の違いである。カタルーニャ州では、スペイン語と共にカタルーニャ語が公用語とされている。料理や祭事においても独特の文化・習慣がみられ、またカタルーニャ市民に言わせれば、ユーモアのセンスなど人々の気質にも違いがあるという。
2つ目は経済的な事情である。カタルーニャは、スペインで最も経済的に成功している州の一つである。カタルーニャ州政府によると、2014年のカタルーニャ州のGDPは約2,093億ユーロと首都のあるマドリード州を抜きトップで、スペイン全体の19.8%に上る。これだけ経済的に豊かであればカタルーニャとして自立してやっていけるし、むしろスペインを離れたほうが他の貧しい地域を支える必要がなくなるというわけだ。
ここ数年独立運動が加熱している背景にも、この経済的な事情が関係している。ギリシャに端を発した近年の経済危機下で、スペインでも多くの公共投資やサービスが削減された。この苦しい状況において、カタルーニャでは、スペイン政府に納めた税金に見合った公共投資・サービスが受けられていない、との不満の声が高まっていった。
しかしながら、世界には他にも異なる複数の文化を持つ国は多数あるし、地方交付税などの仕組みにより、経済的に豊かな地域が貧しい地域を支える国も少なくない。また、欧州には他にも、英国のスコットランドやベルギーのフランドル地方など、独立主張がみられる地域があるが、どうしてカタルーニャばかりが独立に熱心なのだろうか。
スペインは1936年から39年にかけて、ファシズム諸国やソ連などを巻き込む大きな内戦を経験しているが、カタルーニャは敗者となった人民戦線側についていた。カタルーニャには当時から独立主張があったことから、終戦後に実権を握ったフランコ独裁政権は特に激しい弾圧を加え、公共の場でのカタルーニャ語の使用は禁止された。弾圧はその後、フランコ氏が死去し政治体制が変わるまでの約40年間続いた。
この弾圧を受けた過去こそが、カタルーニャ人のナショナリズムに火をつけ、独立運動へと駆り立てているのではないだろうか。事実、熱心な独立賛成派の中には、弾圧下で育った高齢の市民も少なくない。カタルーニャ同様フランコ政権の弾圧を受けたバスク地方では、2011年、長年テロ活動を続けてきた反体制派が停戦を宣言した。果たしてカタルーニャ独立運動はどこに向かうのだろうか。
(【独立阻むカタルーニャの内外事情】~スペイン・カタルーニャ独立運動の行方 その2~に続く)
※トップ画像:独立運動の旗が掲げられているバルセロナのアパート ©コナーこずえ