[久保田弘信]【テロが世界経済の足を引っ張る】~特集「2016年を占う!」難民問題~
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
アラブの春をきっかけに始まったシリアの内戦。国際社会は各々の国の思惑によりアサド政権、反政府側を支持し、放置しておけば4年もの長きに渡って戦い続けることが不可能な内戦を後押ししてしまった。国連の安全保障理事会も常任理事国の拒否権という足枷のせいで機能不全に陥っていて、何ら解決策を見出せないでいる。そして、ISという新たな組織の台頭によってシリアとイラクの治安は悪化し、世界中がテロの脅威に怯える時代の幕開けとなった。
生き残るために自国を後にしてシリアやイラクの難民がヨーロッパへ押し寄せ、その数はあっという間に100万人を突破した。シリア難民の総数は400万人を超える。
戦争が起きることによって一部の軍需産業が潤うことはあるが、世界経済全体を見れば間違いなく大きなマイナスとなる。ヨーロッパやアメリカ、そして日本経済が復興の兆しをみせても難民という大きな重石が世界の国々の経済成長の足を引っ張ることは間違いない。
戦争がなく自国に留まることができれば経済活動ができる年齢の人たちも、難民となれば新たな国での生活や言語の問題があり該当国家にお世話にならざるを得ない。難民たちが経済活動を行い、自立できるまでには最低でも2~3年の時間を要する。
400万人に上るシリア難民一人の1日の食費だけでも1$では足りないだろう。例え1$だったとしても1日で400万ドル、1年で14億6000万ドル、日本円に換算すると2000億円弱の費用がかかる。最低限の食費だけでも、とてつもない金額となる。
もちろん、難民の人たちが生きてくためには最低限の衣食住が必要となり、必要な金額は上記の何十倍にも膨れ上がる。世界は既に4年分シリア難民の費用を負担している。そしてその内戦はまだまだ終わる気配さえ見せていない。
シリアの内戦はすでに5年目を迎えようとしていて、未だ解決の糸口さえ見つけられず、このままではかつて東西の代理戦争となったアフガニスタンと同じ運命をたどることになってしまう。
アフガニスタンの内戦が23年も続いた大きな理由の一つが隣国及び世界が次なるアフガニスタンの政権を担う勢力に対して金銭や武器の供与という形で長年に渡って応援してしまったことだ。
過去の経験が全く生かされず、シリア内戦でも世界は同じことをしてしまっている。そしてISという新たな勢力とテロ行為によってフランスやロシアまでシリアへの空爆を開始してしまった。日本ではあまり報じられていないが、連日現地から届いてくる映像によると空爆はISの支配地域でない場所でも行われていて、民間人の犠牲者が増え続けている。
シリアに限らず、アラブの春で革命を起こしたチュニジア、リビア、エジプトなどの国々も、その後の情勢は安定せず、多くの問題を抱えている。シリアの陰に隠れて日本では殆ど報道されていないが、アラブの春はイエメンまでやってきていて、イエメンでも大変な状態が続いている。
2016年、世界の各地で起こっている戦争や紛争、そしてISによるテロ行為は簡単に収まるとは想像できず、いくつもの問題を抱える年となってしまうと思われる。
2016年の年末、ヨーロッパに逃れる難民が大きな問題になったが、難民を受け入れ、支援するという対症療法ではなく、戦争や紛争の終結という根本的な解決策を世界が考えなければならない時期に来ている。難民条約に加盟していて、「平和を愛する国」と思われてきた日本の役割も大きいと思う。
写真:©久保田弘信