[芳賀由明]【携帯3社、市場適正化に苦慮】~特集「2016年を占う!」携帯電話市場~
芳賀由明(産経新聞社経済本部 編集委員)
日本の携帯電話市場に変化の兆しが見えてきた。総務省が国内携帯電話市場を3分割するNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社の社長を呼んで、各社が販売店に支払う販売奨励金の抑制や「実質0円」端末の見直し、データ通信を余り使わない利用者向けの料金プランの新設などを要請。3社は1月中にも新料金プランなど競争の適正化に向けた施策を発表する見通しだ。携帯電話の販売店を除くと、「他社からの乗り換えはキャッシュバック4人で32万円」「当日現金で6万円」「いまならiPhone+iPadが実質0円」などカネにあかせた顧客争奪戦が繰り広げられている。その原資になるのが、販売奨励金で一時期はスマートフォン契約1台当たり5万円などという過熱競争もあったほど。
販売競争が悪いわけではないし、スマホが安く買えるのは歓迎でもあるが、問題はその対象が他社から乗り換えてくる利用者向け割引一辺倒で、長年同じ携帯事業者を使い続ける利用者の通信料による儲けが販売奨励金として短期間で携帯事業者を渡り歩く利用者を獲得するための販売奨励金に注ぎ込まれていることだ。
また、各社の携帯電話の料金プランは映像や画像など大量のデータ通信を使うことを前提に設定されているため、通話やメール程度しか使わない利用者は割高な料金を支払わされているのが現状だ。それは契約者当たりの月間売上額(ARPU:Average Revenue Per User)を少しでも引き上げたい携帯事業者の事情で、いわゆるヘビーユーザー偏重で、ライトユーザーのニーズには見て見ぬ振りをしてきたためだ。
ただ、総務省がそれらの問題点是正を携帯事業者に要請し、適正化が図られなければ業務改善命令も行うと強い姿勢で臨んだとしても、2016年に携帯市場が一挙に様変わりするわけではない。
結論からいえば、販売店の説明や料金の透明化など販売方法はかなり改善されると思われるが、料金競争が激変して端末価格が急激に高くなったり、通信料が劇的に安くなったりすることはなさそうだ。これまでないがしろにされてきたライトユーザー向けの料金プランが新設されることになっても稼ぎ頭であるヘビーユーザー向け料金が安くなることは考えられない。
総務省は、端末の月々の割賦支払い分を通信料金から割り引く「実質0円」端末の是正を求めているが、全面禁止を要求しているわけではない。キャッシュバック競争の結果、0円どころか逆にマイナスになるような異常な販売競争は健全化されるべきだが、実質0円端末を完全撤廃できない事情もあるからだ。「新モデル投入で型落ちとなる旧モデルは販売奨励金による大幅割引や実質0円でなければさばけない」(都内家電量販店)ためだ。
国民生活センターに寄せられるスマホの契約に関する苦情の電話は年々増加している。「契約を変えると安くなるといわれたが高くなった」「不要なサービスを買わされた」「説明と違う料金プランだった」など多様な苦情をみると、「売らんかな」の販売店の問題が浮き彫りになっている。
総務省の今回の施策では、販売方法の適正化も重要なポイントだ。従来、曖昧だった端末価格とサービス料金の分離・透明化や、高齢者や障害者にも十分理解できるよう説明することなど販売方法の健全化を打ち出している。
総務省は2015年、8日以内なら無条件に契約を解除できる「初期契約解除制度」の導入を検討。販売店の強い反対で導入こそ見送ったが、2年契約を条件に割引途中解約で約1万円の違約金を取る、いわゆる「2年縛り」の見直しも求めており、携帯3社は年度内にその改善策も発表する見通しだ。
毎年、2月から3月のいわゆる年度末商戦はスマホが1年で最も売れる時期。日本の携帯電話市場が正常化に大きく舵を切るかどうかは、最大の商戦期に携帯3社と販売店がどのような競争を展開するかによって占うことができそうだ。