無料会員募集中
.経済  投稿日:2014/7/17

[田村秀男]<サイバー攻撃の驚異>中国共産党の指令下にある情報通信企業がシェアを拡張する海外の通信インフラ市場


 

田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)|執筆記事プロフィール

 

北京ではこの9、10の両日、米中の閣僚級による第6回「経済・戦略対話」が開かれた。

軍事・安全保障では南シナ海・東シナ海における中国の軍事的威圧行動、経済では人民元の為替レート操作問題に並んで、今回の焦点になったのは「サイバー・セキュリティー」問題である。

米国の専門家によると、この6月19日午後6時に突如「フェイス・ブック」のコンピューター・サーバーがサイバー攻撃を受けて約30分間機能停止した。米軍のサイバー攻撃部隊は15分間で中国人民解放軍の仕業と発信源を突き止め、報復攻撃に出て、中国国内の携帯電話を不通にさせた。すると、中国側からの攻撃が止んだので、米側も報復を中止した。

フェイス・ブック、マイクロソフト、グーグル、ヤフー、アップルは、米国家安全保障局(NSA)の通信傍受システム、「PRISM」に協力していると、スノーデン元米中央情報局(CIA)に暴露されている。米政府はこれらのネット大手が標的にさらされると、ただちに反撃する態勢を敷いているようだ。

米中の「サイバー戦争」については、「2013年には米政府所有を含めた世界中の無数のコンピューター・システムが攻撃にさらされたが、その多くが中国政府及び軍による」(米国防総省による議会への2014年版「中国に関する軍事・安全保障の進展」報告書)というありさまだ。

業を煮やした米司法省は5月19日、サイバースパイの容疑で、中国人民解放軍総参謀部第3部の「61398部隊」所属の5人を起訴、顔写真付きで指名手配した。

6月9日には、サイバー・セキュリティー企業の米クラウド・ストライク社を通じて、軍第3部には61398部隊の他に61486部隊があると暴露し、同部隊を「Putter Panda」と名付けた。部隊は上海市閘北区に拠点を置き、電子メールを通じて特殊なマルウエア(悪意のあるプログラム)を送り付け、米国の国防当局や欧州の衛星および航空宇宙産業などを対象にサイバースパイ活動を行っているという。犯行者の一人の電子メール・アドレスを突き止め、米側のサイバー探査能力を誇示している。

経済・戦略対話で米中の折り合いはつかなかったが、両国の関係閣僚の声明を読むと、話し合いには前向きだ。米国のケリー国務長官はサイバー攻撃による知的財産の盗窃を批判しつつ、「両国が議論を続けることが大切だと合意した」と言い、楊潔篪・同国国務委員(外交担当)は「米側がサイバー問題に関する両国の対話と協調の条件を作り出すよう望む」と応じた。では、「休戦」は可能だろうか。

圧倒的に見える米側のサイバー戦闘能力に対して、中国側は共産党の指令下に置かれているとみられる情報通信機器・技術大手「華為技術」と「ZTE(中興通訊)」の2社が海外の通信インフラ市場でのシェア拡張を着々と進めている。

華為技術は低価格と高性能が売り物で、日本ではソフトバンク系の高速無線通信ネットワークを構築するなど、無線や端末機器で通信各社に食い込んでいる。華為技術が納入する通信ネットワークやサーバーに「バックドア」と呼ばれるスパイ装置を埋め込むと、難なく相手国の個人や企業の情報を入手し、悟られることなく相手を攻撃できる。

米国に弱みがないわけではない。情報通信の巨大市場となった中国から米企業を締め出すぞ、と北京は脅しをかけているのだ。マイクロソフトやIBMなど中国での拠点がなくなれば、中国からのサイバー情報も入手困難になりかねない。仮に米中休戦となれば、中国は対日サイバー攻勢に専念するかもしれない。

なにしろ、サイバー・セキュリティーは自身の手で確保するしかない。すると、米側は日本市場でセキュリティー・システムのビジネスを拡張するチャンスととらえるだろう。サイバー攻撃のリスクが高まれば高まるほど、セキュリティー関係の市場が大きくなる。その分野で強みを持つのは、サイバー攻撃能力がずば抜けて高い米国だ。

皮肉なことに、かの華為技術自体、「サイバー・セキュリティーもお任せを」と、この分野でも日本に売り込んでいる。

 

【あわせて読みたい】

【プロフィール】

IMG_0009田村秀男 (たむら・ひでお)

産経新聞社特別記者・編集委員兼論説委員

日経新聞ワシントン特派員、香港支局長、編集委員などを経て2006年12月に産経新聞社に移籍。早稲田大学政経大学院非常勤講師、早稲田大学オープンカレッジ講師を兼ねる。著書は「人民元、ドル、円」(岩波新書)、「国際政治経済学入門」(扶桑社)(PHP研究所)「反逆の日本経済学」(マガジンランド)「日経新聞の真実」(光文社新書)「アベノミクスを殺す消費増税」(飛鳥新社)「消費増税の黒いシナリオ」(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。

タグ田村秀男

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."