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.国際  投稿日:2016/8/28

米中戦争は起こりうる その3 どんな戦いとなるのか


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

ランド研究所の報告書「中国との戦争」はもし米中戦争が起きた場合、その形態や地域などについて次のように予測していた。

・米中戦争は非核の通常兵器での戦闘となる。

(アメリカも中国もともに核兵器の保有国だが、予測される米中戦争ではいずれの国も核兵器は使わず、通常兵器だけでの戦闘になる。アメリカは通常兵器での戦闘がきわめて激しくなっても、勝利への見通しと、自国の大被害への懸念から、核兵器はあくまで不使用で進む。中国ももしアメリカに対して核兵器を使えば、核での大量報復を受け、国家壊滅という事態をも招くとみて、核不使用のままで進むと予測される)

・戦闘は主として水上艦艇、潜水艦、航空機、ミサイル、さらに宇宙とサイバーのハイテクの戦いとなる。

(米中両国とも東アジアにすでに強大な軍事力を配備しており、戦争の契機からみても水上、海中、そして空中での戦闘となる見通しが強い。両国ともハイテクを動員し、各種ミサイルのほかにドローン(無人機)も多用される。宇宙利用も多く、とくに中国軍は米軍の依存する人工偵察衛星などの宇宙システムの破壊に力を入れる。両国ともサイバー攻撃を拡大する。米中両軍の地上戦闘は朝鮮半島有事以外ではほとんど起きないだろう)

・戦闘は東アジアで始まり、東アジアで続くが、西太平洋の広大な地域も戦場となる。

(米中両軍の戦闘は日本の尖閣、さらには東シナ海、南シナ海、台湾海峡、朝鮮半島などで起きるとみられるが、西太平洋のより広い水域、空域に広がることも予測される。ただし中国がアメリカ本土への攻撃に出る可能性は低い。そのための遠距離攻撃の能力の不十分さやその結果としての効用の限度がその理由となる。逆にアメリカが中国本土に対しては激しい攻撃を加える見通しが強い。しかし米軍が中国本土の地上戦闘を展開することはまずない) 

同報告書は米中戦争の形態を以上のように予測したうえで、さらにその戦闘の期間、規模、程度などについて次のように分類していた。

(1)短期で激烈

(2)長期で激烈

(3)短期で軽微

(4)長期で軽微

同報告書は以上の4つのパターンのうち「短期」は数日から数週間、「長期」は1年以上と推定し、ほとんどの場合は米軍の勝利や優勢に終わると予測していた。しかし米中戦争の時期が2025年までに向けて先に延びれば延びるほど、中国軍の戦力が相対的に強くなって、「長期」戦では両軍がいずれも決定的な勝利を得られず、膠着状態になる可能性が高くなる、とも指摘していた。中国軍は米軍の遠隔地からの増援部隊の接近を阻むための「A2/AD」(Anti-Access/Area Denial:接近阻止・領域否定)の戦闘能力を着実に強化していくので、米軍の完全勝利は年月が経てば経つほど、難しくなるというわけだ。

同報告書はさらに4つの戦争パターンのそれぞれについて経済や政治など非軍事面での両国の損失を推定し、戦争の帰趨への影響を予測していた。非軍事面でも中国の方がアメリカよりも消耗や損失がずっと多くなるというのが予測の基調だった。

その2の続き。その1。全5回。毎日18時配信)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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