韓国サムスン、最悪の出火スマホ対応 米で不信感頂点に
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
安全なはずの代替機が、米国内で1週間に3件も発火事故を引き起こした、韓国サムスン電子の最新鋭高級スマホのGalaxy Note 7。米国内では、サムスンの問題隠し的な行動と、後手に回り続ける不誠実な対応を非難する声が一気に高まってきた。
米国時間の日曜日には、米通信大手4社のうち、AT&TとTモバイルがGalaxy Note 7の販売および代替機への交換取りやめを発表。残るベライゾンと、孫正義会長率いる日本のソフトバンクの傘下にあるスプリントの追随も時間の問題だ。アップルの新型スマホiPhone 7の競合として華々しく登場したGalaxy Note 7は、米国市場から締め出されつつある。サムスンはGalaxy Note 7の製造を中断した。
サムスン批判が先鋭化してきたのには、構造的なGalaxy Note 7の安全問題が繰り返し起こっているにもかかわらず、積極的な第2回目のリコールなどの対応をとらないばかりか、「発火したデバイスがGalaxy Note 7かどうか確認が取れない」、「Galaxy Note 7の問題ではなく外部の要因が原因」、「交換したGalaxy Note 7は安全」などと、消費者に責任を転嫁しようと試みるところで一貫する、サムスンの企業姿勢に米国の消費者やメディアが不信感と反発を見せているからだ。不安と不信は頂点に達している。
ガジェット愛好者の間で強い影響力を持つウェブメディアのThe Vergeのコラムニスト、ジェームズ・ベアハム氏は、「10月5日、ケンタッキー州ルイビル発サウスウエスト航空994便の出発前、乗客が手荷物として機内に持ち込んだGalaxy Note 7が発火してフライトがキャンセルされたのは大きく報じられたが、同じくケンタッキー州ニコラスビルで10月4日早朝の4時に別のGalaxy Note 7が発火し、煙を吸い込んだ持ち主が急性気管支炎で病院へ急行したことについて、サムスンが知っていたにもかかわらず、何の発表もしなかった。これは非常に気がかりなことだ」と言明。
また、「サムスンは持ち主のマイケル・クラーリング氏に対し、問題のスマホを引き渡してほしいと要請したが、クラーリング氏は拒否した」と伝えている。問題を起こしたスマホの製造元が、事故を起こしたデバイスを第三者的な公平さで調査できないことは明らかであり、米消費者製品安全委員会などの手に委ねられるべきだ。持ち主のサムスンに対する対応は正しかったといえよう。
ベアハム氏はさらに、「10月6日にも13歳の少女が持つGalaxy Note 7がミネソタ州で発火して溶けた。だが、サムスンは、『これらの報道を深刻に受け止めている』、『お客様の安全がサムスンの最重要課題であり、問題を調査中である』などの意味のない、ありふれた決まり文句しか発表していない。そんなものは、うそでしかない。もし顧客の安全が第一なら、サムスンはとっくに『代替機の使用もすぐ中止してください』と宣言したはずだ」と厳しく批判した。
その上でThe Vergeを代表してベアハム氏は、「もしGalaxy Note 7を所有しているなら、使用を直ちに止め、通信会社に返却してほしい。我々は、代替機が発火する事実について、なぜサムスンが積極的にコミュニケーションをとらないのか、理解できない。だが、それはもう、どうでも良いことだ。事実がさらに明らかになるまで、『Galaxy Note 7は構造的に欠陥のある製品であり、市場からすぐに消えるべきだ』という、単純な説明で十分だ」とまで言い切っている。
韓国の国内総生産の20%近くを叩き出すサムスン財閥の稼ぎ頭であるサムスン電子は、自社の命運を賭けたGalaxy Note 7の製品生命を救いたいばかりに、米国や中国などでも広がる消費者の不安心理を軽んじ、顧客の安全を犠牲にした。そのしっぺ返しは、最も重要な市場である米国からのGalaxy Note 7の締め出し、各国当局によるリコール命令、欧米で日本の家電メーカーをしのぐ知名度を築き上げたブランド全体のイメージの崩壊、米国発のサムスン不信の世界への伝染、収益の大幅悪化、ひいては韓国経済の不振となって具現化してゆくだろう。そうなれば、韓国の朴槿恵政権は経済的な助けを求めて、ますます日本にすり寄ってくることになる。
たとえGalaxy Note 7が欠陥製品であっても、消費者の安全を第一に、製造・販売停止や使用中止の呼びかけなど、一時的な損失を覚悟した積極的な対応を素早く行っていれば、ここまでの不信は招かなかった。Galaxy Note 7は、そうした意味で、サムスンだけでなく韓国没落の引き金になるのかも知れない。
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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト
京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。