60代も夢中「キノコホテル」とは?(下)
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
清谷:最近のロックバンドでオルガンを演奏する人、ましてそれが固定で編成に入っている例は極めて少なく、それがキノコホテルのサウンドのアイデンティティの柱にもなっているかと思います。オルガンが入るだけで良くも悪くも60、70年代的なサウンドにテイストになりますよね。何故オルガンなんですか。
マリアンヌ:要はギターに全く興味が無かったんですね。強烈なソロとかリフを聴いてもそれほど心が動かないんですよ。後追いで遅まきながらロックを聞き始めてドアーズあたりを知った時に、非常に琴線に触れるものを感じまして。何てスリリングなのだろう、と。クラシック上がりというバックグラウンドも影響していたかとは思います。バッハのオルガン曲には幼少期から魅せられていましたので。
その感動からバンドを始めるまでは随分時間があったんですけど、音楽を始めるならオルガンは絶対にマストだとどこかで考えていたのかも。実際バンドを始めるにあたってもオルガン奏者を探すところからでした。ワタクシが弾けたわけじゃなかったし。
清谷:エッ、そうなんですか。てっきりオルガンやピアノとかの鍵盤楽器を長年やっていらしたとばかり思っていました。ですから先程のオルガンやピアノではなく、バイオリンを習っていたという話で驚いたんですが。
マリアンヌ:鍵盤は殆ど触ったことがありませんでした。でもオルガンだったら、ピアノのように基礎がきちんと出来ていなくても感性に任せて自由に弾けるような気がしたんですね。人を探したんだけど見つからなくて、仕方ないんで自分で弾こうかと。
清谷:それでできるところが凄い。
マリアンヌ:弾き始めたのはキノコホテルを始める前の年ぐらいだったかしら。友達集めてお遊びでスタジオに入って。でも、歌いながら弾けない(笑)当時はまだ今ほどポピュラーでなかったノードエレクトロを20万円も出して買ったけど、どうしましょう、ってなったわ。付け焼き刃でやり続けて10年ですよ、ホホホホホ。
清谷:ぼくは元々オタク第一世代なので、個人的にはオルガンと言えば、「サンダーバード」と同じプロダクションが作った「ジョー90」や「謎の円盤U.F.O.」のバリー・グレイの音楽が印象的です。
マリアンヌ:えっ、何?それ知らない。
清谷:「謎の円盤U.F.O.」は秘密の地球防衛軍があって、日夜謎の円盤と戦っているというお話です。その最前線基地が月にあるムーンベースで、そこのオペレーターが全員女性。しかもお揃いで全身銀色のユニフォーム、藤色のマッシュルームカットのウイッグを被って、つけまつげバリバリのメイク。キノコホテルはこれに影響を受けたのでは、と密かに想像していたのですが。
マリアンヌ:(ムーンベースのオペレーターたちのコスチュームをネットで見て)ああ、これ見たことある。作品は見たこと無いけど。
清谷:全くの偶然なんですね。
マリアンヌ:人が惹かれるコスチュームやデザインって時代や国が違っても、どこか共通なところがあるんではないでしょうか。
清谷:デビューから一貫してGS調のミリタリールックのワンピースですよね。それで10年。
マリアンヌ:あれも変えようかとも思ったことがあるんですけど、でも他のガールズバンドと同じようになるのも嫌だし。キノコホテルという存在がもっと世間で認知されてからじゃないとイメージチェンジする意味が無いと思って踏みとどまりました。
清谷:でも同じスタイルで10年間続けられるということは凄いと思います。基本コンセプトがすごくしっかりしているということだと思います。
マリアンヌ:そう見せるべく、奮闘して来ましたからね。それなりに(笑)。さっきの巻上さんの話じゃないですけど、キノコホテルはホテルというコンセプトで、従業員がコスチュームを着てというところがあって、それを演じるという要素から入った部分はありますね。
普通はマネージャーとか事務所からあれこれ言われてテコ入れされたりするんでしょうけど、ウチは基本野放しですから(笑)ワタクシが変えると言わない限り変わらないみたい。ミリタリールックと言えばキノコホテルというイメージが世間に浸透してからじゃないと、イメージを変えたところで大したインパクトもない。そういうところだけ理想が高かったりするわけですよ。
清谷:キノコホテルはフォーマットが決まっているところが多いですよね。アルバムは基本「マリアンヌの〜」と統一されているし、実演会の最後はいつも「キノコホテル唱歌」。メンバーのファーストネームはフランス風で統一だし。
マリアンヌ:単にそういうのが好きなんです。確かにお約束が多いのは安定感に繋がるところはありますね。だけど、それと同時に予想を裏切るような展開も必要で、そのバランスが難しいですよね。
清谷:一見するとキノコホテルって十年一日に見えますよね。同じフォーマットで、バンドの編成もミニマルだし、ゲストが入るわけでも、編成に他の楽器を加えるわけでもない。でも、水戸黄門的な「偉大なるマンネリ」じゃなくて、実は基本を変えずに音楽は随分と変わっている。それにファンがついてきている。これは中々できることじゃないですよね。
マリアンヌ:そうかもしれないですよね。コンセプトやビジュアルは殆ど変わらずに、音楽性がドンドン変わっているのはある意味特殊なことだと思います。また特殊なバンドでありたいという欲求はありますね。
清谷:キノコホテルのバンドとしてのフォーマットは勿論、作詞作曲など基本すべてがマリアンヌ一色で、ある意味北朝鮮的独裁、或いはカルト教団的な匂いが(笑)
マリアンヌ:フフフ。確かにそうですね。一時期律動体操でMV作ろうとか考えていましたからね。カルト、嫌いじゃないです・・・こんな事言って大丈夫?次のアルバムは「マリアンヌの経典」とか。惹かれるのよ、アブノーマルな感じに(笑)
清谷:普通のバンドだと表面は仲良しクラブ的でも、実はリーダーの独裁だとかありがちだったりするけど、キノコホテルの場合は初めからリーダー独裁を標榜しているところが、寧ろ清々しい(笑)
マリアンヌ:そうですね。自分がやり易くするために譲れないところですね。でも実際のパートのアレンジなどは、方向性だけ指示してある程度は各々に委ねる部分も多々ありますよ。今はいいバランスでできていると思います。
清谷:外部からゲストプレーヤーを入れたりすると目新しさが出たり、イメージをいじれたりしますが、それはある意味安直な道ですよね。
マリアンヌ:無精者なもので、人に頼むのが逆に億劫なの。色々説明もして練習したりしなければならないじゃない。それがすごく面倒くさい。だったら自分で頑張ってできることは、自分でやろうと。だからストリングスが欲しいと思えばワンパートずつ自分で弾いてひたすら多重録音するやり方を採ってしまう。何て効率が悪いのかしらと思いながらそれが楽しい。ひとりオーケストラですよ(笑)エンジニアさんはたまったものじゃないでしょうね。
清谷:バイオリンは昔取った杵柄。
マリアンヌ:普通はプロの方を呼びますよね。でも手間もお金もかかるからワタクシがやるわ!と言って強行してしまうんです。で、あとから死ぬ程の苦しみを味わう羽目になるんですけども。
清谷:でもそれが、キノコホテルらしさになっているのではないでしょうか。話は変わりますが、モデルの故山口小夜子さんがお好きで、影響も受けたそうで。
マリアンヌ:昨年彼女のドキュメンタリー映画「氷の花火」で、昔の映像をきちんと見たのは初めてでした。確か、ファンの方が前売券をプレゼントして下さったの。それまでポスターとかスチルでしかお姿を拝見したことがなかったので。
清谷:山口小夜子さんが昔対談で「私は随分長いこと『山口小夜子』をやっていますと話していたんですが、他のモデルがおかっぱで切れ長のメイクをしても『山口小夜子』にはなれない。ぼくはその昔、一度だけ彼女をお見かけしたことがあり、山口小夜子回顧展と連動した資生堂のイベントで彼女に関わったメイクやカメラマンの方々からお話を聞く機会があったのですが、『山口小夜子』は代用が効かない唯一無二の存在であり、それを彼女は私生活でも演じていたような節があるように思えました。回顧展に行って、こういう人はもう出ないなぁ、と思っていたらマリアンヌさんを知って、「いたよ、こんなところに!」と思った次第です。
マリアンヌ:それは恐れ多すぎますけど(笑)
清谷:でも、他にマリアンヌさんのような、ある種特異な存在感のある人はいないと思います。職業「マリアンヌ東雲」みたいな。
マリアンヌ:それは私も自惚れているわけでなくて、正直周りを見回して、キャラクターや方向性が類似の人はいないし、お会いした事もないですね。自分がそれほど特殊であるとも思っていないんですけど、今流行っているもののスタンダードとは離れたところにいるから、そう感じるのかもしれませんね。
清谷:ハードロックのKISSやヘビーメタルの聖飢魔IIとかだと、メイクを落とせばそのキャラクターから素に戻れるし、街であっても誰が見てもわからない。でもマリアンヌさんはそうはいかないですよね。ミリタリールック着ていなくてもマリアンヌ東雲として仕事をしている部分と、素の部分の分離が難しいでしょう。
マリアンヌ:そうですね。幸い、そこまで有名人でもないので今のところ日常に差し障りはほとんどありませんが、そこがファジーであるがゆえに息苦しさを感じる場面が全くないわけでも無く・・・。そもそもワタクシの場合は素の部分と、マリアンヌ東雲として世間に出ている部分が、言動にしてもメンタリティにしてもあまり変わらないので。
清谷:敢えて類似性を探すと大川興業の大川総裁に近いのかな。大川さんとは過去何度かお仕事をしたことがあるんですが、あの人もある意味怪人ですが、あまり素も変わらない感じで。なにか同じような匂いがするんですが。
マリアンヌ:アハハハハ。でも結局マリアンヌ東雲を通して、なりたい自分として生きていけている実感はそれなりにあるかも知れません。欲を言えばキリがないですけどもね。
清谷:以前英国ツアーをされましたが、むしろキノコホテルはフランスの方が親和性が高いのでは、と思うのですがいかがでしょうか。
マリアンヌ:デビュー前から海外の方が受けると言われていたんですよ。フランスでキノコホテルが受けそうなのはワタクシも何年も前から察知していて、実際にフランスやドイツからもオファーを頂いた事はあったのですが、どこの馬の骨とも分からないような自称プロモーターな怪しい人ばかり。しかもアゴアシ全部自分で持て、コミッションだけは取るぞ的な(笑)
清谷:欧州最大のオタクイベント、ジャパンエキスポに出たら最高に受けると思いますが。ビジュアル系やらニューウェーブまで色々なアーティストが出演しています。以前ジャパンエキスポを取材していたときにアニソンの大御所、水木一郎さんのライブがあったんですが、登場するなり観衆からは日本語で「アニキ!」(水木さんは日本のファンからアニキと呼ばれている)の大歓声(笑)
マリアンヌ:フランス人が「アニキ」(笑)それは非常に痛快な光景ですね。でも水木さんのような古き良き時代のアニメの歌を歌ってらっしゃる方が、未だに現役で人気があるのは良いことですよ。ワタクシも昔のアニメで育ってきたこともあるのかもしれないけど、今時のキショい美少女アニメは大っ嫌い。いいわよね、ジャパンエキスポ。それは分かってるのよ。誰か呼んでくれないかしら。期待の斜め上を行くいい仕事しますよ(笑)
清谷:お酒を飲むのがお好きだということですが、それ以外ではオフの日は何をやっているんですか。
マリアンヌ:あまりオンとオフの違いがないんですけども、疲れていたら寝たり、マッサージに行ったりしますけど、やはりお酒が多いですね。大体(笑)他にすることないし。最近記憶がなくなることが増えましたね。マネージャーからは、アル中の自助会とかに行けとか、言われたりして。酔っているときに人から頼まれた事を安請け合いして、後で大後悔したりね。とにかく気が大きくなり過ぎて困りますね。
清谷:普段音楽は余り聞かないと聞いておりますが。
マリアンヌ:本当に悲しいんですけど、キノコホテルを始める前までは、CD屋さんにいくのが好きで、一日中視聴コーナーにいたりしたんですけど、キノコ始めてから純粋に音楽が楽しめなくなっちゃったの。つい仕事目線で聞いてしまって、仕事モードで聞いてしまって。このフレーズ頂き!とか(笑)。純粋な気持ちで音楽に浸る事が出来なくなってしまいました。ミュージシャンって純粋に三度の飯より音楽が好きみたいな人が多いと思うんですが、ワタクシの場合は音楽を使って自己表現をしたり、パフォーマンスをする事が好きなだけなんです、多分。
清谷:ボブヘアはマリアンヌさんのトレードマークな感じですが、今のヘアスタイルに落ち着くまでに色々と変遷はあったんですか。
マリアンヌ:過去キノコホテルを始めるまでは坊主にしたことも真っ赤とか真っ青とか、アフロにしたこともありました。大学生の頃。パンクスでもないのにモヒカンにして、母親が泣いた事もあったわ。今が一番大人しいヘアスタイルですね。ボブヘアが嫌いだっていう人はあまりいないんじゃないかしら。ワタクシはロングヘアが似合わないので、自分の中では黒髪ボブが最強。これが一番と思っているので、おばあちゃんになって死ぬまでこのままかしら。でもこれで白髪が増えたら潔く真っ白にしてアンディ・ウォーホールみたいにするのも良いかも。
清谷:マリアンヌ東雲としては、いつも片目を隠している髪型ですよね。これはどういう経緯で始めたんですか。
マリアンヌ:何かシンボリックな特徴を、パッと見て普通の人と違うものを取り入れたかったんです。今思うとよく考えたなと思いますよ、我ながら。でも実際不便なんですよ、これ。距離感がつかめないから。自転車に轢かれそうになったり、実演会でマイクを掴もうとして咄嗟に掴み損ねたり顔面をぶつけたり。左目だけ視力が下がっていくとか。でも今更変えるわけにもいかないので。両目を人前に晒すならキノコホテルを完全に廃業してからでしょうね。
清谷:その髪型でゲゲゲの鬼太郎をして欲しいと思ったりもするんですが。
マリアンヌ:よく言われるの(笑)キャラクター的にはネコ娘なんだけど、ビジュアルは鬼太郎だと。今年のハロウィンでやろうかしら?満を持して(笑)
清谷:元々バンドをやるつもりはなくって、あのコスチュームを着たいがために、バンドを初めたそうですが、もしキノコホテルをやっていなかったら、どんな仕事をされていたかと思いますか。
マリアンヌ:うーん、よくわからないけど万引きGメンとか?
あれ、憧れなんですよ。引退したらいつかなってみたい。「お客様、何かお忘れじゃありませんか?」って決め台詞、言ってみたい(笑)
最新アルバム「マリアンヌの革命」【通常盤】キングレコード
ASIN: B01E00PDT8
EAN: 4988003490188
キノコホテル映像作品『実録・ゲバゲバ大革命』(2017年3月1日発売)
関連リンク
マリアンヌ東雲の業務日誌「ゲバゲバ黙示録」
キノコホテル公式Web
http://kinocohotel.org/index.html
オフィシャルツイッター
https://twitter.com/kinocohotel
映像
「ばら・ばら」(2014年)
https://www.youtube.com/watch?v=P1MR25qSS_0
キノコホテル アルバム『マリアンヌの革命』リリース!―Skream!動画メッセージ
https://www.youtube.com/watch?v=1JFetHfgx60
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この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト
防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ。
・日本ペンクラブ会員
・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/
・European Securty Defence 日本特派員
<著作>
●国防の死角(PHP)
●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)
など、多数。
<共著>
●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)
その他多数。
<監訳>
●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)
- ゲーム・シナリオ -
●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)
●現代大戦略2002〜有事法発動の時〜(システムソフト・アルファー)
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●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)