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.社会  投稿日:2017/9/17

女性の健康、企業成長のカギ


Japan In-depth編集部(大川聖)

 

【まとめ】

・現代は女性の活躍推進があらゆるところで求められている。

・まず男女の身体の違いを正しく理解することが大切。

・健康の問題をタブー視せず、語ることができる社会を作っていくべき。

 

 

女性の健康推進、と言われても、なぜ女性だけ?と思う人もいるかもしれない。しかし、これまで女性の健康そのものに社会が目を向けてこなかったことも事実だ。

そうした中、「女性の健康推進イニシアティブ(Woman’s Health Initiative)」設立シンポジウムと題するイベントが、9月13日、東京・千代田区の衆議院第一議員会館にて開催された。

参加者は、企業経営者、人事戦略役員及び役職者、働き方改革・健康経営・女性活躍推進・ダイバーシティ担当者等約300名に及んだ。

女性の健康推進イニシアティブ(WHI)とは、生理的多様性に配慮した女性活躍推進の促進や働き方の改革を目的に、「女性の健康の推進」を行うことを宣言し、その重要性を社会に発信していく取り組みだ。また社内外において「女性の健康」の施策に積極的に取り組むことを奨励し支援する企業らをWHI企業ネットワークと呼ぶ。

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▲写真 イベント最初に登壇した、総務大臣/女性活躍担当大臣/内閣府特命担当大臣の野田聖子氏 Photo by Japan In-depth編集部

シンポジウムでは、初めに野田聖子氏(総務大臣/女性活躍担当大臣/内閣府特命担当大臣)が「政府は安倍総理を筆頭に女性活躍推進を進めており、2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にするという数値目標がある。」と述べた。

一方で、不妊治療で体外受精をしなければならない状況になる背景は問題にされてこなかった、と指摘。男女雇用機会均等法により、女性も働けるようになったが、「女性は頑張ったとしても女性であることを捨ててキャリアを選ばなければならなかった。」と述べた。

その上で野田氏は、「これからのダイバーシティでは、(男女は互いの身体の)違いを分かったうえで女性の健康も考えるべき」と述べ、女性の健康が守られることは、経済・こどもたちにも良い影響をもたらすため、「様々なポテンシャルがあり、まさに成長戦略の1丁目1番地と捉える。健康を確保できるように企業体・組織・日本の在り方について議論してほしい」と呼びかけた。

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▲写真 WHI企業コンソーシアムプロデューサー/NPO法人GEWEL副代表理事の小嶋美代子氏 Photo by Japan In-depth編集部

続いて、小嶋美代子氏(WHI企業コンソーシアムプロデューサー)は「日本の今の最重要課題はダイバーシティの戦略であり、女性の活躍推進でもある。特に女性の活躍を阻むあらゆる問題を解決することへの挑戦は企業にとっても日本にとっても重要である。」と述べた。

そして、企業が女性の健康推進に取り組むべき理由として以下を挙げた。

 

  • 女性活躍の推進

 

女性活躍のアクションにコミットすることがすべての企業に当然に求められる時代に。

2、健康対策の拡大

女性の就業人口が増えている一方で、企業の健康対策は男性労働者をモデルとする設計から脱却できていない。

3、労働力の確保

人手不足がバブル期以上に深刻化。女性の採用を拡大し、長期的に活躍し続けられる環境を作ることは企業にとって死活問題。

小嶋氏は、「企業は、それぞれの従業員や社会に対して、人生の選択肢を提供し続けることができる。ライフイベント、身体リズム、病気と仕事の両立等、多様な生き方に合った選択肢を企業が提供することで、個人のQOL向上につなげていく」と述べ、企業が女性の健康を考える重要性を改めて強調した。

 

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▲写真 NPO法人日本医療政策機構 代表理事/東京大学名誉教授の黒川清氏 Photo by Japan In-depth編集部

次に、黒川清氏(NPO法人日本医療政策機構 代表理事 / 東京大学名誉教授)より、キーノートスピーチ「日本の女性の健康施策の展望」が行われた。

黒川氏は、非嫡出子を例に挙げ、「日本は2%以下である。赤ちゃんが生まれた時の登録は正式に結婚している人でないと具合が悪いと皆が思っている社会制度になっている。一方、ヨーロッパ、アメリカは30~40%、北欧では50%超が非嫡出子。」と述べ、「憲法24条で男女平等謳われてきたのに社会制度は変わっていない。」と指摘した。

また、日本の産業界、役所は、同じ業界内で他企業に転じることや異論を唱えるのが難しいというマインドが戦後も変わってないため、「男性にも悲惨な状況がある」と述べた。

女性の社会進出について黒川氏は、北欧では女性が役員や管理職など重要なポストに就く割合を決めている国もあるのに対し、「日本は議題にも上がらない」と指摘した。

黒川氏は、「女性のピルの服用率を上げる等の避妊をしっかりする」ことで、いわゆるできちゃった婚を含む望まない妊娠による中絶、こどもへの虐待、いじめの防止にもつながる、と述べた。

20年前に低用量ピルが出てきた時、副作用ばかり気にして、日本だけが許可していなかった、という。黒川氏は、現在もピルは婦人科の先生に処方してもらわなければならないことに対して疑問の声を上げた。中絶は10代、20代が多い現状に対し、「カウンセリング等環境を整える」必要性も指摘した。

また、現在停滞している経済について、「経済を向上させるには、ダイバーシティを進めていかなければならない。」と述べ、消費者の半分は女性であるため、男性ばかりで決めていてはもう成り立たないことを強調した。

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▲写真 経済界リーダーズセッションの様子。Photo by Japan In-depth編集部

第一部は、経済界リーダーズセッションが行われた。テーマは、「企業が女性の健康推進に取り組むべき理由」。パネリストは、出口治明氏(ライフネット生命保険株式会社 創設者)津村佳宏氏(株式会社アデランス 代表取締役社長COO)、烏野仁氏(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 代表執行役社長)。モデレーターは高田和男氏(日本テレビ解説委員/医療ジャーナリスト)。

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▲写真 ライフネット生命保険株式会社 創設者の出口治明氏 Photo by Japan In-depth編集部

出口氏は、データをみると、「先進国におけるサービス産業は3割を超え、ユーザーは女性が6,7割超えている。」と述べ、消費者は主に女性であるという事実を見過ごしてはならないことを指摘した。

また、日本政府は「女性が輝く社会」という表現を用いているが、北欧ではクォータ制を導入しており、すでに制度を作り実践していることを強調した。また、「男性と女性の体が違うというのがfact(事実)である。それに合った対応をしなくてはならない。」と主張した。

介護の問題についても、「若者が高齢者の面倒を見ることはもうない」とし、「健康寿命を延ばすには働き続けることだ」と述べた。そして、「年齢、性別を考えない社会、企業を作るべきである」と改めて強調した。

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▲写真 株式会社アデランス 代表取締役社長COO の津村佳宏氏 Photo by Japan In-depth編集部

津村氏は「年齢・性別・人種関係なく、やる気のある人を経営陣が支援、育てていきたい。」と述べた。産休後や育児中であっても、能力の高い人を生かせるように社員の立場に立って経営陣がバックアップする必要性を指摘した。

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▲写真 デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社 代表執行役社長の烏野仁氏 Photo by Japan In-depth編集部

 

烏野氏は、「オペレーションではまず在宅勤務を原則とすること」と述べた。自社では、直行直帰、海外とのテレワークを実践しているので、在宅を「原則」で導入することを提案した。また、「女性のキャリア育成プログラムを組み、メンターをつけていく」ことも始めているという。

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▲写真 人事戦略リーダーズトークの様子 Photo by Japan In-depth編集部

第二部は、人事戦略リーダーズトークが行われた。テーマは「企業が女性の健康に取組むに当たっての課題」。パネリストは、出井京子氏(ドコモ・ヘルスケア株式会社取締役コンシューマー事業部長)、岩下純子氏(株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー執行役員)、モデレーターは西村統行氏(株式会社ここはつ代表 共創場活軍師)。

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▲写真 ドコモ・ヘルスケア株式会社取締役コンシューマー事業部長の出井京子氏 Photo by Japan In-depth編集部

出井氏は「女性の健康はタブーではなく、目を向ける機会をもつ」ことが重要で、女性の健康について知ることで「女性のマネージメントが楽になり、ポテンシャルを伸ばしていける」と述べた。

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▲写真 株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー執行役員の岩下純子氏 Photo by Japan In-depth編集部

岩下氏は「女性の活躍推進の課題は、育児との両立支援、男性の意識改革、女性自身のプロモーションに関するネガティヴな印象。」と述べ、専門家から話を聞いたり、学んだりすることで、「身体的な問題とうまく付き合い、向き合っていけるのではないか。」と指摘した。

出井氏は、「メタボは男性のかかる症状。一方、PMS(月経前症候群)は女性の9割が悩んでいて、月経周期の中で生理になる直前の1、2週間の身体的不調や心理的変化はあまり知られていない。」と述べた。出井氏によると、あるデータでは、「PMSの症状は90%以上の人が感じており、60%以上の人が昇格を躊躇っているという数字もある。」という。

PMSは、イライラしたり、気分が落ちこんだり、腹痛を覚えたりといった症状がある。そのため、「女性も自信がうつ病であると勘違いすることもある。PMSの症状を理解することで、女性も自分たちの言動を客観的に見ることができるようになる。」と指摘した。

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▲写真 株式会社ここはつ代表/共創場活軍師の西村統行氏 Photo by Japan In-depth編集部

西村氏によるPMSを抱えている女性に対しどう接すればよいのか、という質問に対し、岩下氏は、「PMSのバックグラウンドを知り、理解してその人を判断することが大切」と答えた。そして「女性もわかってもらっているという安心感は生まれるだろう。」と述べた。

最後に、男女が互いに違いをわかり合うためにはどうしたらよいと思うかとの問いに、岩下氏は、「まず、生物学的違いを正しく理解することが重要。」と答えた。出井氏も、「企業でなかなか理解が進まない場合、ダイバーシティの一環のキャリア形成プラン」として扱うことを提案した。また、「数字で測って、データで女性の数字が低いことをみせる(と取り組みやすくなる)」、と指摘し、女性に特別に目を向けているのではなく、全体の問題として捉えていることが重要との考えを示した。

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▲写真 シンクパール・ソーシャル・カレッジ(TSC)のメンバー Photo by Japan In-depth編集部

続いて、シンクパール・ソーシャル・カレッジ(TSC)より調査発表があった。テーマは「女性の健康に配慮した企業に就職したい!」 一般社団法人シンクパール学生インターンの創価大学3年長谷川彩香氏(写真前列左)、同大学4年常盤泰氏(同右)が発表した。

TSCは、「若い世代に増えている子宮頸がんの認知不足を実感したため、性教育の充実や企業の女性の健康についての協力を求める活動をしていく」という。

TSCの調査によれば、大学生は女性の健康に配慮した企業に就職することを希望している。「企業は女性の健康増進の取り組み」をすることで、被雇用者のワークライフバランスが向上し、女性の活躍や企業の成長につながる、と主張している。

長谷川氏は「子宮頸がんは、女性がなる病気だが、女性だけが考えれば済むものではない。活動を通じて、性の問題はタブー視され、扱うことの難しさを実感した。まずは子宮頸がんの対象者に対する認知を広め、今後女性の健康などに(テーマを)広げていきたい。」と述べた。

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▲写真 一般社団法人シンクパール代表理事の難波美智代氏 Photo by Japan In-depth編集部

 

最後に、難波美智代氏(一般社団法人シンクパール代表理事)は、「これから皆で一緒にディスカッションし、次世代を応援してみんなが支えあう社会を目指したい。」と述べた。

今後、WHIは月に一回程度勉強会の機会をもつ予定で、来年にはWHI奨励賞も企画している。

難波氏は、「昨年、働く女性たちが女性特有の疾患を抱えることによって年間約6.37兆円の社会的損失がある。という数字が発表され、今後そのエビデンスの数字も出ると聞いた。企業・社会においてどう解決していこうかという科学的なマネージメントが可能になる時代になってくる。」と今後の展望を語った。

 

トップ画像:女性の活躍推進イニシアティブ(WHI)登壇者と参加者 ©Japan In-depth編集部

 


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