エジプトテロ 300人超死亡
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#48 (2017年11月27日-12月3日)
【まとめ】
・エジプトシナイ半島北部モスクでテロ。300人超死亡。
・独連立政権樹立に向け調整進む。メルケル政権倒れればEU弱体化。
・ローマ法王、ミャンマー訪問後30日からバングラデシュも訪問。ロヒンギャ問題進展に期待。
【注:この記事は2017年11月27日に寄稿されたものです】
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37224でお読みください。】
今週はあまり大きなニュースがない。11月22日の米国による北朝鮮の「テロ支援国家」再指定後も、北朝鮮は予想以上に静かだし、米中とも不気味な沈黙を守っている。こういう時の方が、何かが水面下で起きている可能性は高いのかもしれないが、筆者にはそれを知る術がない。
それよりも今週筆者が気になるのはエジプトで300人以上の犠牲者が出たテロ事件だ。起きたのはシナイ半島北部、カイロから200キロ離れた地中海沿岸の村のモスクだ。白昼約30人の武装集団がモスクに乗り付け、1人が自爆した後、無差別銃撃で少なくとも305人が死亡したという。
この中には子供約30人も含まれていたそうだから、ひどい話だ。何時からエジプト人はかくも血生臭い残忍な行動をとるようになったのか。少なくとも筆者がアラビア語を研修していた1970年代にはそんなことはなかった。こうしたやりかたは、エジプト的というより、イラク的な東洋古代専制政治型だ。
場所がシナイ半島で、標的がイスラム神秘主義(スーフィズム)らしいことも象徴的だ。広大なシナイ半島はモーゼの時代から、エジプト中央政府に対抗する勢力の絶好の隠れ家だった。スーフィーも異端だとはいわないが、主流のイスラームとは異なる。歴史は繰り返さないが、押韻するのだろうか。
〇欧州・ロシア
27日からドイツ大統領が連立政権に向けた調整を行うが、見通しは暗い。キリスト教民主同盟と大連立を組むたびに支持率を減らしてきたドイツ社民党にとって、メルケル首相との連立解消は既定路線なのか。遂にドイツでも政治的混乱が長期化する可能性が出てきた。万一、メルケル政権が倒れれば、EUの弱体化が進むだろう。
▲写真 メルケル独首相 Photo by א(Aleph)
〇東アジア・大洋州
中国の国務院総理が26日からハンガリーを訪問し、その後、30日にロシアで開かれる上海協力機構首脳会議に参加する。ブダペストでは第六回の中東欧・中国首脳会議に出席する。ハンガリーといえば、欧州地域で中国の南シナ海での活動に最も同情的な国の一つだ。中国は欧州でもやるべきことをやっている。恐るべし!
▲写真 中国 李克強国務院総理 2015年5月 Photo by Senado Federal
〇南北アメリカ
NYTによれば、ホワイトハウスにおけるトランプ氏の娘婿クシュナー氏の役割が縮小しつつあるそうだ。確かに彼のメディアへの露出度が大幅に低下したことは事実だ。但し、その理由は彼が失敗しつつあるからではなく、むしろ成功したからこそだ、という見方がある。
▲写真 ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問とイバンカ・トランプ大統領補佐官 2017年5月 Flickr : The White House
つまり、Rプリーバス首席補佐官やSバノン首席戦略官をホワイトハウスから追放することに成功した結果だという。一方、このことはケリー新首席補佐官の権威が確立した結果と見る向きもある。いずれにせよ、ニューヨークの田舎者の娘と娘婿がホワイトハウスを闊歩する姿は決して正常ではない。
〇中東・アフリカ
30日にOPEC会合がある。報道によれば、最近ロシアとサウジアラビアは30日の会合で減産延長を発表することが必要という点で合意に至ったそうだ。一方、OPEC関係者は、サウジ・カタール対立により、湾岸アラブ諸国が恒例の非公式の事前協議を見送ったと述べたという。
世界的に好況が続いており、エネルギー価格についても強気の読みが出始めているようだ。しかし、値段が上昇すれば、したで、別の思惑も交錯するだろうから、先行きは見通しにくい。それにしても、欧州や日本が産油国関係者の動きに一喜一憂するようになって45年、こんなこといつまで続くのだろう。
〇インド亜大陸
米大統領の娘が米印共催の国際中小企業サミットに米国代表団を率いて参加するそうだ。ローマ法王はミャンマー訪問後、30日からバングラデシュを訪れる。ロヒンギャ問題が進展することを祈ろう。
▲写真 ロヒンギャ族難民 Photo by Seyyed Mahmoud Hosseini “Tasnim News Agency”
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:アブドルファッターフ・アッ=シーシー エジプト大統領 出典/ロシア大統領府
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。