ザッカーバーグがぼやかす問題の本質 上
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
【まとめ】
・ザッカーバーグフェイスブックCEO、米議会で証言。
・同社は2017年に約12億円の巨額ロビー活動費を投入している。
・情報と権力の非対称性という根源的な歪みは温存される。
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月間ユーザー数が21億人を超える世界最大の交流サイトであるフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が4月10日と11日に、米議会に呼ばれて証言する。この証言の見どころは何か。また、今回のフェイスブック騒動の本質は何か。探ってみよう。
■ 議会が規制をかけられないわけ
まずは、ザッカーバーグCEOが議会に呼ばれたいきさつをおさらいする。フェイスブックにおいては、ユーザーほぼ全員の20億人分以上のデータが不正に流出した。ユーザーのデータ管理におけるセキュリティが十分でなかった疑いがある。
さらに、最大8700万人分の情報が2016年の米大統領選挙において心理操作の手法を用いてトランプ陣営に悪用され、フェイスブックのニュースフィードに大量に流れたフェイクニュースなどの影響を受けた多くの有権者がトランプ氏に投票して現政権が誕生したのではないかとの疑念がある。
▲写真 トランプ大統領 出典 Gage Skidmore
なぜ、ユーザーの行動を操れるほど完全で広範にわたる性向や嗜好の個人情報のデータセットをフェイスブックが持つに至ったのか、なぜそのような不正利用の可能性を提供するビジネスが許されるのか、という追及の声が日増しに大きくなっている。
これを受けて米議会で、「フェイスブックにはユーザーの個人情報管理の能力がなく、法律による規制が必要だ」との声が高まり、ザッカーバーグCEOが招致されたというわけだ。
これに対しザッカーバーグCEOは証言において、
①政府による規制を受けなくても、フェイスブックにはユーザーのデータを守る意思と能力がある
②すでにデータを不正利用する企業への情報提供は中断し、自主規制でユーザーの個人情報を守っている
③ユーザー自身が個人情報の使われ方を管理できるようにし、広告ターゲティングに使用されたくない場合は、広告抜きのサービスを有料で提供する
④フェイクニュースがフィードに流れないよう検閲体制を強化する
⑤政治広告には一目でわかる「政治広告」の表示を義務付ける
などの施策を説明し、議員らの理解を求めると予想される。
結論として、フェイスブックは規制を逃れられるだろう。同社は2017年に1150万ドル(約12億1565万円)という巨額のロビー活動費を投入しており、政界関係者とはズブズブに近い関係にある。
また、トランプ政権は激しさを増す米中IT冷戦において米企業の独占力や競争力をさらに強化したい考えであり、テクノロジー企業への口先攻撃とは裏腹に、トランプ大統領が米IT大手を弱体化させる規制法案に署名するとは考えにくい。
米議会や政権はある程度の「お灸」を据えて、フェイスブック問題が解決したと宣言すると予想される。
■ ザッカーバーグCEOの論点そらし
だが、政治的な「解決」は、フェイスブックに必然的につきまとう問題を解決することはない。世論が再びフェイスブックに対して硬化する可能性がある。
米議会証言でザッカーバーグCEOは論点をそらすため、フェイスブックのフェイクニュース対策に議員たちの関心を向けたいはずだ。ところが、フェイスブック問題の本質は第三者が作る偽の情報ではない。
▲写真 Facebook 出典 Pexels
本当に問題なのは、同社が不必要に多い個人情報をユーザーの知らない間に徹底的に収集・分析し、ユーザーが自分について知っている以上に正確なユーザーのプロファイルを作成して、広告活動に利用しているところにある。
フェイスブックはそのプロファイルを利用したターゲティングを広告主に売り込み、ユーザーが享受するフェイスブックのサービスの価値をはるかに上回る莫大な利益を上げている。広告収入が収益のほとんどを占める同社の2017年通年売上は前年比47%増の406億5300万ドル(約4兆3000億円)、当期利益も56%増の159億3400万ドル(約1兆7000億円)と大幅な増収増益であった。
これは、ユーザーが「どうせ、しがない自分のデータなど価値がない」とあきらめてよい状況ではない。フェイスブックはユーザーのすべてを知っており、ユーザーを利用して利益を上げるために、いつも追跡・監視しているからだ。
セキュリティのためと称してユーザーから提供される電話番号も、フェイスブックのメッセンジャーや傘下インスタグラムにおけるアクティビティや内容も、アンドロイドスマホにおける通話記録やメッセージの中身も、訪問したウェブサイトの履歴も、すべてがフェイスブックに筒抜けで、広告対象としてのユーザー像を組み立てるために使われているのである。
さらに、フェイスブックが特許を取得したユーザーの属性特定のアルゴリズムでは、多くの情報から導き出される事実のセットである「データポイント」を使い、ユーザーの最終学歴、旅行歴、保有するデバイス数、居住地、住居が持ち家か賃貸かの状況まで正確に推定できる。
そもそもフェイスブックで問題となったフェイクニュースとは、ユーザーのことを知り尽くしたフェイスブックと広告主(この場合は政治団体)が、情報と権力を悪用する非対称性から生まれた、ターゲティングそのものなのだ。
▲写真 2011年4月20日 オバマ大統領がカリフォルニア州パロアルトのFacebook本部でCEOのマークザッカーバーグ氏によって調整されたタウンホール・ミーティングに参加して写真を撮る聴衆 出典 公式ホワイトハウス写真
そして、政治利用の面から言えば、そうした手法を最初に使って成功したのは2012年のオバマ元大統領の再選キャンペーンなのである。フェイスブックは民主党にも共和党にも、平等にユーザーのデータの悪用を許したわけだ。
だが、フェイスブックが政治団体にユーザーデータの利用を禁止したとしても、問題は何も解決しない。なぜなら、情報と権力の非対称性という根源的な歪みが温存されるからだ。では、情報と権力の非対称性とは具体的にどのようなものなのだろうか。
(下につづく)
トップ画像:マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者 出典 Brian Solis
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この記事を書いた人
岩田太郎在米ジャーナリスト
京都市出身の在米ジャーナリスト。米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の訓練を受ける。現在、米国の経済・司法・政治・社会を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』誌などの紙媒体に発表する一方、ウェブメディアにも進出中。研究者としての別の顔も持ち、ハワイの米イースト・ウェスト・センターで連邦奨学生として太平洋諸島研究学を学んだ後、オレゴン大学歴史学部博士課程修了。先住ハワイ人と日本人移民・二世の関係など、「何がネイティブなのか」を法律やメディアの切り口を使い、一次史料で読み解くプロジェクトに取り組んでいる。金融などあらゆる分野の翻訳も手掛ける。昭和38年生まれ。