マッチングアプリの甘い罠
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・「シュガーダディ」=「パトロン」と若い層をマッチングするサイトはアメリカで生まれた。
・日本でも「パパ活」という名の下、マッチングアプリが全盛。
・スマホ普及でパトロン探しが容易になり、若年層へのリスク高まる。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39560でお読みください。】
「シュガーダディ(Sugar Daddie)」という言葉を知ったのは、筆者がニューヨーク特派員だった頃、1990年代後半だった。そう、言葉の響き通り、日本でいう「パトロン」である。
ただし、私が住んでいたニューヨーク・マンハッタンでは様相が少し異なった。週末ブランチを取りに入ったカフェ、周りを見回すと中年男性と若い男性のカップルが異様に多い。そう、まさしくその中年男性達が「シュガーダディ」だったのだ。若い男性たちはアジア系が多かった。異性同志のカップルは自分たちだけだったことも。きわめてニューヨーク・マンハッタンならではの光景ではあったのだが・・・
古今東西、大昔から、何らかの理由でお金が必要な人間と、それをサポートしたい人間がいたことは否定すべくもない。需要があれば、そこに供給が生まれる。そうして“市場”が形成されてきた。
「パトロン」と言えば、愛人バンク「夕ぐれ族」が懐かしく思い出される。若い人たちは知らないだろうが、1980年初頭に誕生したこの「夕ぐれ族」なる愛人紹介クラブ、発起人が筒見待子という若い女性だったこともあり大いに注目を浴び、一種の社会現象にもなった。この女性はテレビに引っ張りだことなり、この世の春を謳歌したが、それも長続きせず、1983年に売春防止法で逮捕された。「援助交際(エンコー)」という言葉が生まれたのもこのころだ。
21世紀になりインターネットによるサービスが加速し、先に述べたシュガーダディを紹介するサイトがアメリカで生まれた。文字通り、“Sugardaddie.com (シュガーダディドットコム)”はその代表格だ。
ホームページのキャッチフレーズは、「あなたの夢をかなえよう!(Make your dream a reality!)」だ。自らを「世界で最も著名で成功しているデートサイトです。」と謳っている。
そして、日本にもこうしたサイトが雨後の竹の子のように生まれている。主なものには、“シュガーダディ”、“ペイターズ”、“HICLASS TOKYO”などがあり、パトロン探しは「パパ活」などと呼ばれている。「婚活」に引っ掛けたのだろうが、このネーミングはどうにもセンスがないと思うのは筆者だけだろうか?
日本の“シュガーダディ”トップページのコピーは「お互いにとって最良の関係を。『魅力的な女性』と『成功した男性』の出会いを応援します。」とある。パトロンであるシュガーダディと、援助を受ける女性をシュガーベイビーと呼び、以下の如く定義づけている。
シュガーダディ(男性)
「成功者である紳士的な男性。彼らは側に魅力的な女性がいることを楽しみます。」
シュガーベイビー(女性)
「夢や目標がある魅力的な女性。彼女達は人生の価値あるガイドを探しています。」
ずいぶんと男性目線の手前勝手な定義ではある。こうしたパトロンと若い世代とのマッチングサイトを標榜しているサイト以外に、いわゆる「出会い系サイト」の数はおびただしい。米山隆一前新潟県知事が女性と知り合ったことで一躍有名になった“ハッピーメール”もその一つ。累計登録数1600万を謳い、キャッチコピーは「会うたびに、恋におちる」。いやいや奈落の底に落ちてしまっては元も子もないのだが。。。こうしたサービスのアプリはFacebookアカウントなどで簡単に登録できるので敷居が低いのが特徴だ。SNS世代にフィットしているということだろう。
▲動画:ハッピーメール 公式プロモーションムービー「私の恋愛日記~これから始まる恋物語~」
そして「出会い系アプリ」は「マッチングアプリ」と名前を変えて増殖し続けている。“Omiai”、“タップル誕生”、“イヴイヴ”、“Pairs (ペアーズ)”、メンタリストDaigo氏が監修して話題を呼んだ、“with(ウィズ)”。有名どころもどんどん参入だ。“東カレデート”は、月刊情報誌「東京カレンダー」がリリース、コピーは「上質な恋愛を」。アッパー層専門の審査制デーティングアプリだそうだ。「マッチング」じゃなくて「デーティング」・・・呼び名は変われど、中身は同じだ。
他にも、“Yahoo!パートナー”、老舗の“Match.com(マッチドットコム)”、“ゼクシィ恋結び”、“Poiboy“、“matchbook(マッチブック)”はリクルートグループのNIJIBOX運営だ。枚挙にいとまがないので、もうやめるが、呼び方がどうであろうと、どのアプリも「出会い」を目的にしているのに違いはない。
▲写真 Yahoo!パートナーズHP 出典 Yahoo!パートナーズ
▲写真 ゼクシィ恋結びHP 出典 ゼクシィ恋結び
「出会い」と言っても、若者が恋人を探している内はまだしも、「パパ活」と称してパトロン探しをするなら、先の「夕ぐれ族」と何も変わらない。男性にとって愛人を探すハードルは大きく下がったと言える。何しろアプリをダウンロードして数秒で登録でき、すぐに好みの相手とチャットできたりするのだから。
しかし、愛人探し、パトロン探しが簡単になったことは、相手の若年層のリスクが増大したことを意味する。心理的抵抗感が大きく減じ、ゲーム感覚で「マッチング」とか「デーティング」が実現する。そこにどんな罠があるかも知らずに。成人ともなれば、自分の責任でやってくれ、という話だろうが、若い子供を持っている親は気が気でないだろう。今やスマホがデファクトであり、小学生だって持っている時代だ。
そうした中、公教育に期待しても、「性について中学校で教えるな!」などという地方議員がいたりする日本だ。やはり、家庭で子どもにリスクを教えるしかない。残念だが、「自分の身は自分で守る」。やはり、これに尽きる。
トップ画像:Sugardaddie.comのHPより 出典 Sugardaddie.com
【訂正:2018年5月2日】
・ハッピーメール公式プロモーションムービーの変更に伴い、記事に挿入されている動画も差し替えました。
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。