[宮家邦彦]<プーチンは見事にケシカラン男>欧米の制裁レベルは強化されないと欧米の足元を見ている[連載22]外交・安保カレンダー(2014年3月24-30日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週の注目はハーグで開かれる核セキュリティ・サミットだが、恐らく大方の関心は日米韓首脳会議など一連の個別会談の方だと思われる。これらについては今後多くの報道があると思うので、詳細には触れない。要は、米中、中韓の首脳会議が開かれても、現時点では大きなブレークスルーはない、ということ。これが実態だろう。
日米韓首脳会談についても、大きな期待は禁物だ。近年、韓国にとって日米韓の枠組みの重要性は大幅に低下している。これも中国が台頭していることへの韓国の対応と見るべきだ。簡単に言えば、韓国にとって、日米韓の連携はあくまで北朝鮮に対峙するためのものであって、対中関係には使えないということである。
この点を読み誤ると日韓関係、日米韓関係は進展しない。歴史的に、韓国は中国に対し特別の感情・関係を持っている。自然の要塞を持たない朝鮮半島は中国からの侵略に無力であり、独立維持のためには冊封関係しかない。韓国エリートの多くは、そのような歴史的記憶に基づき中国と付き合っていくしかないと信じているようだ。
クリミアをめぐる戦いはロシアの圧勝に終わったが、プーチンがこれで満足するとは思えない。ロシアの目的はクリミア併合ではなく、あくまでウクライナの中立化・緩衝国化である。だからこそ、ロシアは、独立したクリミアを直ちにロシア連邦に正式に編入したのだろう。ここまでプーチンは見事なほどケシカラン男であった。
今や、欧米の関心はロシアがウクライナ南東部に侵攻を開始するか否かに移っている。だが、あからさまでない、静かな侵攻であれば、既に始まっていると考えた方が良さそうだ。プーチンにとってもう失うものは少ない。ロシア側が一気に動いても、欧米の制裁レベルは一気に強化されないと、欧米の足元を見ているのではないか。
個人的に今週一番気になったのは、エジプトで前大統領を支持したムスリム同胞団関係者529人に死刑判決が下ったことだ。まだ第一審だが、恐らく逆転はないだろう。同胞団が憎いのは判るが、500人を超える死刑判決は今後必ず逆噴射する。こんなことを繰り返しても、エジプトに安定は決してやって来ないだろう。
エジプトの軍部・政治エリートにはなぜ、そんな簡単なことが判らないのか。エジプトからの報道に接するたびに、心が暗くなる。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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