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.国際  投稿日:2019/5/28

華為技術のスマホが消える?


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #22」

2019年5月27日-6月2日

【まとめ】

・日本で大歓迎受けたトランプ大統領。

・トランプ大統領のメディア対応力の高さ。

・欧州で台頭する「ユーロスケプティズム」。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45998でお読み下さい。】

 

私事ながら、先週より娘夫婦が孫娘を連れてサンフランシスコから一時帰国している。昨日は久し振りに一家団欒で大相撲夏場所千秋楽のテレビ中継を見て、実に複雑な気持ちになった。米大統領杯を優勝力士に授与するトランプ氏を国技館の相撲ファンはスタンディングオベーションで迎えていたからだ。

▲写真 大相撲を観戦する安倍首相とトランプ大統領 出典:首相官邸Facebook

「アメリカではトランプの評判が凄く悪いのに、なぜ日本人は彼を手放しで歓迎するのかしら」と娘が訝った。「日本人は礼儀正しいんだ、これが中東や欧州だったら靴や卵が飛んできてもおかしくないけどね。」こう言いかけて、筆者は相撲通の米国の友人が「日本人はトランプに座布団を投げるのではないか」と言ったのを思い出した。

トランプ訪日については今週のJapan Timesと産経新聞にコラムを書いたので詳細は御一読いただきたいが、確かに娘の言う通り、ワシントンでのトランプ氏の評判は下がる一方。先週はペローシ下院議長が「大統領の行為は隠蔽だ」とまで言うようになったが、隠蔽(cover up)とはウォーターゲート事件際の悪名高いキーワードだ。

このようにワシントンでトランプ氏を取り巻く政治環境は悪化の一途だが、ご本人はどこ吹く風。あの図太い神経は十分見習う価値がある。更に月曜日CNNは両陛下によるトランプ夫妻歓迎式典を生中継していたし、前日の大相撲観戦の模様も大きく報じていた。良きにつけ悪きにつけ、トランプ氏のメディア能力は大したものだと思う。

▲写真 トランプ大統領と安倍首相 出典:首相官邸Facebook

最後に、恐れ多いことではあるが、新天皇皇后両陛下の皇室外交デビューも特記すべきである。如何に素晴らしい内容を喋っても、それが通訳を通したメッセージであれば、なかなか相手の心には響かない。ところが今回は両陛下ともほぼ英語で通された。トランプ夫妻が神妙に頷くことが何度もあった。素晴らしいとしか言いようがない。

一方、今週筆者が個人的に注目しているのは欧州議会選挙だ。23-26日に実施された選挙では民族主義や大衆迎合主義など欧州連合(EU)に懐疑的な勢力の伸長が確実になったと報じられた。最近では、こうした「ユーロスケプティズム」も一時の勢いを失いつつあるとの見方すらあっただけに、筆者のショックは内心小さくない。

特に仏、伊、英では懐疑派が国内第1党になったそうだ。中道路線の親EU派が全体で過半数を確保することは救いだが、予断を許さない状況に変わりはなかろう。昨日英国首相官邸前で辞任を表明したメイ首相は最後涙声になっていた。彼女のショックは欧州良識派のショックでもある。本当に難しい時代になったものだと痛感する。

▲写真 メイ首相 出典:Flickr; EU2017EE Estonian Presidency Follow

 

〇 アジア

今週も中国のフアウェイ(華為技術)関連ニュースを取り上げよう。ロイターなどによると、アナリストの間では同社の今年の出荷量が最大24%も減少し、将来的には同社のスマホが世界市場から姿を消す可能性もあるとの見方が出ているそうだ。その関連で最近筆者が特に注目するのがFIRRMAと呼ばれる米国の新規立法である。

FIRRMAとは「2018年外国投資リスク審査現代化法」のことで、昨年秋にトランプ大統領の署名を経て成立したものだ。内容的には外国企業の対米投資を審査する外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法律である。米国は最近この種の米国企業に対する投資を規制する法令に基づく権限を大幅に強化しているようだ。

米政権が最近、華為技術が米政府の許可なく米国の重要技術を購入することを禁止するとともに、国家安全保障を理由に米国の通信ネットワークから同社の製品を事実上排除する措置を発表したのも、このFIRRMAが根拠法のはずだ。米政府が同規制を解除しなければ同社のスマホ出荷は大幅に減少する、実に恐ろしい法律だ。

▲写真 Mobile World Congress 2015での華為のブース 出典:Flickr; Kārlis Dambrāns

華為技術は既に代替技術を準備しているというが、同社の包囲網は確実に強化されているのではないか。今後は中国が華為技術を守るために対米譲歩をするか否かが注目される。昨年だったか、同様のケースでZTEという中国企業が倒産寸前に追い込まれたが、華為技術はZTEよりはるかに巨大だから、問題はより深刻だろう。

華為技術が米グーグルへのアクセスを失えば、同社が破綻することはないにしても、同社のスマホが2020年に欧米から姿を消す可能性や、同社が最終的に数千人規模の従業員を解雇する必要に迫られ、いつかは世界市場から姿を消す可能性すらあるとも報じられている。華為技術について米国はどの程度本気なのだろうか。

 

〇 欧州・ロシア

冒頭述べた欧州議会選挙だが、英国ではEU離脱を掲げる新党・Brexit党が最多議席を獲得し、EU残留を主張する自由民主党がそれに次ぐらしい。現在の与党・保守党と最大野党・労働党は共に大きく議席を減らしそうで、特に保守党の得票率は10%にも満たないという。戦後の欧州の大実験はやはり失敗に終わるのか。

 

〇 中東

今回の日米首脳会談でイランをどう扱ったかに関心がある。日本が米国とイランの「橋渡し」をするという幻想は日本の政治家が好むテーマ。トランプ氏はイランとの対話に前向きともいわれるから、ひょっとしたら「瓢箪から駒」という可能性もゼロではない。しかし、所詮相手は百戦錬磨のイランだから、気を付けないと火傷をするだろう。

 

〇 南北アメリカ

米国内では何ともレベルの低い中傷合戦が続いている。今度はホワイトハウス報道官が、「バイデン前副大統領に対する評価」ではトランプ氏と金正恩委員長の「見方が一致している」と述べたそうだ。朝鮮中央通信はバイデン前副大統領を金正恩委員長の冒涜を理由に厳しく非難したというが、この大人げない批判、如何なものか。

 

〇 インド亜大陸

インドの下院総選挙はモディ首相率いる与党が勝利し、同政権は二期目に入る。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:日米首脳会談・共同記者会見 出典:首相官邸


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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