米・イラン大規模戦闘はない
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019 #25」
2019年6月17-23日
【まとめ】
・タンカー攻撃からみる、意外だったイランの米への過剰反応。
・タンカー攻撃は米イランの対話を潰す効果があるだろう。
・両国の軍事力は戦闘への抑止力になっている。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=46356でお読みください。】
先週はワシントンに出張していた。今回の米国出張はやることなすこと、あまりうまく行かなかった。最初の躓きはワシントン到着後のダレス国際空港での入国審査、ESTAを使って入国しようとしたら、何と失効していたのだ。行けといわれた別室には既に世界中の「得体の知れない」人々が不愉快そうに座っていた。犯罪人にでもなった気分だったが、得難い経験だったことだけは間違いない。
その後も受難は続いた。昼食を約束した親友は直前にアキレス腱を損傷、有力コラムニストとの再会も果たせなかった。だが、今回のワシントン滞在中最大のサプライズは中東湾岸地域で起きたあの事件だった。6月13日、ホルムズ海峡付近のオマーン湾を航行中のノルウェーと日本のタンカーが何者かに攻撃された事件である。
同事件については今週のJapanTimesに英文のコラムを書いたので、お暇があればご一読願いたい。ちなみに日本語版はない。同時期、安倍晋三首相は日本の首相として41年ぶりでイランを公式訪問中だった。やれ仲介は失敗だっただの、中東の新参者だのと批判する人々もいるようだが、これは外交ではなく、内政上の発言である。
▲写真 イラン公式訪問中 ローハニ大統領と安倍首相 出典:首相官邸Facebook
それにしても、これまで筆者は、米国とイランの間で緊張が高まっても、イランが過剰反応する可能性は低いと考えていたので、正直少し驚いた。トランプ政権の一部はイランを軍事的に挑発しているが、イランはそんな挑発には乗らないと思ったのだ。要するにワシントンに攻撃の口実を与えるような馬鹿なことはしないだろう、と。
勿論、イランが実行犯である決定的な証拠は今のところない。世界中の中東専門家は、イランが支援する各地の武装勢力の仕業だ、いや、これはイスラエルだ、サウジアラビアだ、などといった陰謀論を垂れ流しているが、どれも眉唾だろう。他方、今の筆者には「イランはやらなかった」と言い切る自信もない。
▲動画)何者かが、攻撃を受けた船 M / T Kokuka Courageous から不発のリンペットマイン(Limpet Mine:吸着爆弾 磁力などで吸着させ、時限か遠隔操作により爆発させる爆弾)を取り外す様子(米国海軍提供)
もしイランが関与したなら、今の筆者はイラン国内の強硬派と穏健派の綱引きの可能性を考える。尤も米国は昔から一貫して、「イランには穏健派などいない」と判断してきたから、米国はそう分析しないだろうが・・・。イランのイスラム革命防衛隊がイランと米国の対話を潰す効果的方法は幾つかある。今回はその一つかもしれない。
▲写真 米海軍誘導ミサイル駆逐艦USS Bainbridge(DDG 96)に救助されるM / V Kokuka Courageousの乗組員 出典:U.S.Navy
筆者が今も米イラン間に大規模戦闘が起きないと考える最大の理由は、両国とも相手に甚大な被害を与える軍事力を有しており、両国間に一定の相互抑止が効くだろうと思うから。しかし、筆者のショックはこれだけではない。詳しくは上記の英文をお読み頂きたい。おっと、もう若くはないので、時差でダウンしそうだ。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:攻撃を受けたタンカーの船腹の損傷跡 出典:U.S. Navy
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。