ホルムズ海峡に自衛隊派遣を
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#33」
2019年8月12-18日
【まとめ】
・米国の「有志連合作り」はお粗末。
・自国の船をまもるため、自衛隊派遣の可能性を検討すべき。
・イスラエル最新鋭ステルス戦闘機がイラン上空に侵入、緊張高まる。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見れないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=47374&preview=trueでお読み下さい。】
今週はお盆休みだが、この原稿だけは書くことにした。北半球各地は夏休みで大きなニュースはないが、それでも気になることが少なくない。今週は事務レベルで日米貿易協議がある。双方ともうまくまとまれば8月中にも大筋合意させたいのではないか。トランプ氏は農業分野での成果が欲しいだろうし、9月には内閣改造もあるし。
日韓の情報戦は相変わらずだ。日本のメディアは「徴用工問題に関する日本の主張を米国が複数回支持した」と報じたが、韓国大統領府は「報道について事実と異なることが確認された」と発表した。「米韓の国家安全保障会議で確認したところ、事実ではなかった」としている。泥仕合とは正にこのことだが、肝心の米国は沈黙だ。
ホルムズ海峡がらみの「有志連合」について日本政府の対応が徐々に固まりつつあるようだ。新法は難しいし、既存の「建付けの悪い」法令を使おうとしても限界がある。それにしても、今回の米国の「有志連合作り」は実にお粗末だ。英国は当初提唱した「欧州連合」から乗り換えたが、他の欧州諸国は全く乗って来ていない。
この件では8月初頭、日経新聞のインタビューがあり、筆者は次の通り述べた。
- ホルムズ海峡への自衛隊派遣は古くて新しい問題だ。1991年の湾岸戦争より前、イラン・イラク戦争時の87年も米国がタンカー防護へ有志連合を呼びかけた。日本は施設建設など資金援助しかできなかった。
- 日本が今回の有志連合について「米国から詳細な計画を聞かないと自衛隊の派遣を具体的に検討できない」というなら、32年間怠慢だったと言わざるを得ない。日本のタンカーがいつでも攻撃され得る状況で、必要に応じ機敏に動ける法律が今もないからだ。
- 自国の船を自国で守るのは当然だ。米国の計画を待つまでもなく自衛隊派遣の可能性を検討すべきだ。イランとの伝統的友好関係も重要だが、自国の権益を守るための活動と説明するしかない。
- 2015年に成立した安全保障関連法は自衛隊のできることしか書かないポジティブリストで制約が大きいが、現行の自衛隊法でも海上警備行動などは検討可能だろう。派遣して支障があれば検証し新たに法整備すればよい。
この考え方は今も変わらない。ところで、イランといえば面白い記事を最近見かけた。確か、National Interest誌だったと思うが、昨年3月、イスラエルの最新鋭ステルス戦闘機F35がイランの上空に侵入し、テヘランからイスファハン、バンダルアッバースまでロシア製S300防空システムに全く検知されずに偵察飛行を行ったと報じていた。
写真)アメリカ空軍のF-35A(イメージ)
直ちにハーメネイ最高指導者は調査を命じたが、イラン空軍司令官は事実を隠蔽しようとしたらしい。また、ハーメネイはロシアがイスラエルにイラン防空システムの機密を提供したと疑ったそうだ。昨年3月末、クウェート紙Al-Jaridaがこれを報じたが、シリアの反体制派系サイトなどは「イスラエルのプロパガンダだ」と一蹴していた。
ところが今年5月末に件の空軍司令官が更迭され、イスラエル機のイラン上空隠密飛行が事実だった可能性が再び浮上した。最新のF35、しかもイスラエル用に改良された機体だから、ロシア製対空ミサイルシステムに検知されなかった可能性はある。だが、空中給油なしでどうやって飛ぶのか、誰が支援したのか、謎は深まるばかりだ。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)ホルムズ海峡を通過するUSSジョンC.ステニス(CVN 74)
出典)米国中央司令部