[藤田正美]<ヤバそうな中国経済>中国政府が金融を支えても、実体経済のリスクが中国企業に大打撃
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
今週初め、中国経済の専門家に話を聞いた。質問は当然、中国経済の先行きについてどれくらい危ないと考えるかということである。
その人の答は、中国の金融が「システミック・リスクに陥る可能性はほとんどない」というものだった。確かに理財商品を裕福な個人やカネ余りの企業に売って、そのカネを地方政府などの融資平台に流していたという事実はある。そして地方政府や企業などのなかには、借金が返済できなくなるところも出てきている。
とくにリスクが大きく金利が高い理財商品は償還不能になるものも出ている。(※システミック・リスク:金融機関の破綻などが金融機関以外にも広まり、金融システム全体を麻痺させ、世の中に混乱を及ぼすリスク)
しかし「それは大きなリスクにはならない」という。なぜなら、理財商品を販売した会社は、銀行とは関係ないからだ(というより、関係を断ち切ったと言ってもいい)。したがって社会的にある程度は不安な状況が生まれても、それで銀行が倒れる、あるいは倒れることが懸念される事態にはならないのだという。
さらに中央銀行である中国人民銀行は、予想よりもはるかに早めに預金金利の自由化に踏み切った。それによって高金利を求めて理財商品に流れ込んでいた資金を呼び戻すためだ。リスクの高い理財商品はもちろんかなりレートが高い。しかしリスクが低い理財商品でも金利が5%ぐらいついていれば、3%前後の預金金利よりははるかに競争力がある。そのギャップをなくして、銀行に預金を取り返そうというのが人民銀行の狙いだ。
たしかに、金融がシステミック・リスクに陥る可能性は小さいのかもしれない。しかし別の専門家は、金融そのものは政府が支えるだろうから、そう簡単に危機にはならない。それでも、実体経済にリスクが発生し、それが伝播することで中国経済は大幅に落ち込む可能性があるとする。
ちょうどリーマンショックの時に、日本の銀行はサブプライムローン絡みの債券はあまり保有していなかった。それでも日本の製造業は2008年の秋から2009年の春にかけて大打撃を受けたのと同じだというのである。
日本の製造業が大打撃を受けたのは、欧米の銀行がいっせいに信用供与を縮小し、結果的にトヨタは輸出を減らさざるをえなくなった。一時は6割減産になったこともある。中国でも同様に、金融を支え続けている政府のカネが続かなくなると、金融は縮小を余儀なくされ、それが企業に大打撃を与えるのだという。
それに中国は、何と言っても、日本と同じように老大国に至る道を歩んでいる。生産年齢人口は間もなくピークアウトする。そうなれば中国の潜在成長力は明らかに落ちる。その危機を中国政府が乗り切れるのかどうか。実際のところ、それはまだ分からない。
【あわせて読みたい】
- シャドウバンキング(影の銀行)による融資が極端に膨らむ中国〜やっぱりヤバそうな中国の金融市場(藤田正美・ジャーナリスト)
- 中国経済は今、どれくらい“ヤバい”のか〜中国という巨人が落ちれば、最大の余波を受ける日本(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <ウクライナ危機の対処が試金石>アメリカが失速する今だからこそ問われる日本外交(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <オバマ大統領 支持率41%、最低水準に>超大国らしい指導権を失わせた米オバマ外交(古森義久・ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
- <着々と進む日本の危機>今年1月の国際収支は1兆5890億円の経常赤字(藤田正美・ジャーナリスト)