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.国際  投稿日:2019/11/12

米中貿易戦争の本質は覇権争い



宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー

 

【まとめ】

・経済専門家と安保問題専門家の貿易戦争」に関する認識違い。

「貿易戦争」の実態の本質は「大国間の覇権争い」。

中国不在から見える、中国の宣伝戦略、広報外交の神髄と限界。

 

今週の原稿は未明のバンコク市内高級(?)ホテルの一室で書いている。アジアと世界80のシンクタンクを集めたアジアシンクタンクサミットなる国際会議に参加しているからだ。タイに来るのは久し振りだが、会議日程の関係でどうしてもこの時間しか原稿執筆ができない。若干書きなぐり的になるかもしれないが予めご容赦賜りたい。

 

今回会議でまず痛感したのは日本の英語教育のお粗末さだ。ある調査によれば、世界の英語を母国語としない百カ国の中で日本の英語力ランキングは今年53位だったそうだ。確かに、こうした国際会議に出席した「国際感覚豊かな」はずの日本人研究者・専門家の中にも、一部例外を除けば、英語の怪しい人々が少なくなかった。

 

そういえば、英語教育改善のため導入するはずだった新英語入試試験の導入も延期されている。発端は大臣の「失言」だったらしいが、筆者には違和感がある。問題は民間企業が作成・実施する英語試験ではなく、中高の英語授業自体のお粗末さではないのか。日本の英語教育については今週日本語と英語のコラムに書いた。

 

もう一つ、今回の国際会議で気になったのが経済専門のエコノミストと安全保障問題の専門家との認識の違いだ。会議の参加者の多くは国際経済や途上国開発問題の専門家だったが、現在の米中「貿易戦争」に関する彼らの認識は「短期的には一部の国々が裨益するが、中長期的に問題はより深刻となる」といったものが多かった。

 

経済貿易問題の専門家が提示した幾つかの提言も、政治学者、戦略問題専門家などから見れば中途半端なものばかり。当然だろう。問題の本質は「貿易戦争」の実態が「大国間の覇権争い」であり、経済以外の政治的、軍事的手段をも加えたより総合的な政策が必要となるからだ。但し、こうした意見への反発も少なくなかった。

 

ちなみに、主催者に聞いたら、このアジアシンクタンクサミットには中国のシンクタンクが殆ど参加していないという。一般参加者のいない、すなわち「プロパガンダ」ができないような、この種の真面目な実務的会合には関心がないということか。中国の宣伝戦略、広報外交の神髄と限界を見るようで、実に興味深かった。

 

〇アジア

 

香港でデモと取り締まりの暴力化、過激化が進んでいる。いくら正当防衛だと主張しても、無防備の学生の胸部にいきなり発砲する警官の姿は衝撃的だ。北京にはこの騒動は香港当局が収束させるべしという強い意向があるのだろうか。このまま過激化すれば、学生たちは庶民の支持を失い、香港経済が衰退するだけなのに・・・。

写真)Yeung Uk Roadでの抗議者と警察の衝突

出典)Flickr; Studio Incendo

 

〇欧州・ロシア

スペインの今年2度目の総選挙で極右政党ボックス(VOX)が議席を倍増させる一方、穏健左派の与党社会労働党(PSOE)の議席は過半数に満たなかったそうだ。要するに、左右どちらも過半数に届かず、組閣協議が再び難航する可能性が高いらしい。これは欧州政治にとって何を意味するのか、とても気になるところだ。

 

〇中東

 

イランについては、国際原子力機関がイラン国内の未申告の場所からウランが検出されたと発表、再びイランの秘密核開発活動の可能性が浮上した。一方、ロウハーニ大統領は南西部フーゼスタン州で大規模油田が発見されたと発表。推定埋蔵量は530億バレルで、これが事実ならイランの埋蔵量は2000億バレルを超える。

 

この発表のタイミングがIAEAのウラン疑惑指摘と関連するか否かは現時点では分からない。唯一言えることは、イランが引き続き世界有数の産油国であり続け、そうであれば秘密裏に「核兵器開発」そのものではないにせよ、核兵器開発のための「技術」の習得努力を続ける可能性があるということだ。イランを甘く見てはいけない。

 

〇南北アメリカ

 

メキシコ外務省は先日辞任表明したボリビア大統領のメキシコ亡命を認めると発表したそうだ。モラレス前大統領の辞任は軍によるクーデターだとし、電話による亡命申請を人道的見地から認めたという。このところ南米諸国の内政に不気味な変化が見られるのだが、これは何を意味するのだろう。問題は北米だけではないらしい。

写真)エボ・モラレス元ボリビア大統領

出典)Flickr; Cancillería del Ecuador

 

〇インド亜大陸

 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

 

トップ写真)米中の貿易に関するディスカッション

出典)USTR Twitter


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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