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.国際  投稿日:2020/2/6

米大統領選の行方 アイオワ州党員集会


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#6」

2020年2月3日-2月9日

 

 

 

【まとめ】

  • 新型コロナウイルスに関し日本政府が取った「異例の強制措置」
  • アイオワは小州、アイオワ州党員集会で大勢決まること無し。
  • 新星候補の若いブティジェージの健闘に注目

 

 本来ならこの原稿の執筆は2月3日夜となる筈だったが、今週は4日の午後まで原稿の完成を延ばすことにした。理由は簡単。米国時間3日にアイオワ州で民主党党員集会があるからだ。それにしても、2020年の民主党は「不作」だなぁ。70歳をとうに過ぎた元副大統領が、同世代のリベラル社会主義者候補を相手に苦戦している。他の候補者たちもピンと来ない連中ばかり、まるで「老人と子供」だ。本稿後半に日本時間4日夕刻現在の筆者のとりあえずのコメントを書いておく。その前に一言だけ。

 

 今週も東京の巷は中国発「新型肺炎」の話で持ち切りだが、先週も書いた通り、完全封じ込めなど不可能だから、残念だが、いずれは日本でも多くの感染者とある程度の死者発生を覚悟すべきだろう。筆者個人は、過去数日間、新型コロナウイルスに関し日本政府が取った「異例の強制措置」に強い関心がある。具体的にはこうだ。

写真)新型コロナウイルス対策のため武漢市の鉄道駅で体温チェックをする監視員

出典)wikimedia

 

  • 入国申請前の14日以内に中国・湖北省に滞在歴がある外国人と、湖北省で発行されたパスポートを所持している外国人については、特段の事情がないかぎり、2月1日から、当面入国を拒否する

 

  • 今回の新型ウイルス感染症を、感染症法の「指定感染症」と、検疫法の「検疫感染症」に指定する政令を、同じく2月1日から、前倒しで実施する。これで休業指示や医療機関への強制入院だけでなく、検査・診察拒否に対する罰則も可能になる。

 

 要するに、名指しこそしないが、事実上、湖北省出身または同省に滞在していた「中国人」が主たる対象ということなのか。筆者がそう考える理由は、同省に滞在していた中国人以外の外国人は日本などに来ず、出身国に戻る可能性の方が高いと思うからだ。この種のルールを作る際も特定の外国人については配慮が必要である。

 

 それにしても、今回の感染症が「異例の強制措置」を容認するような重大な脅威であるなら、他にもある程度「強制的」に処理すべき問題があるじゃないか。例えば、「イージスアショア」ミサイル防衛システムの配備や日本国内の外国スパイ活動だ。国益と人権のバランスは難しい。この点は今週のJapanTimesコラムに書いておいた。

 

 さて、本題であるアイオワ州党員集会に移ろう。そもそも、米大統領選挙は11月まで続く長丁場、アイオワは人口300万程度、全米30位の小州だから、今回の結果で大勢が決まることはない。一方、今回の結果については、4日夕刻時点でも集計トラブルで公式発表がない。されば、現時点での個人的な予測を書くしかなかろう。

写真)アイオワ州党員集会ロゴ

出典)Iowa democratic party

 

今回もある程度の予想は可能だった。アイオワではサンダースが強く、バイデンは伸び悩んでいる。もしバイデンがサンダースに次いで二位になれば、バイデンにもチャンスはあるが、逆に三位以下になれば勢いを失う、というのが大方の下馬評だ。三位以下にでもなれば、バイデンを推す民主党の既存指導部にとっては悪夢だろう。

 

 個人的には、若いブティジェージの健闘に注目している。1970年代以来、民主党大統領候補で勝ったのは若く、ワシントンとは縁のない、新星候補ばかりだと彼は訴えていた。確かに、カーター、クリントン、オバマはそうだったが、だからといってブティジェージがそうなる保証は今のところない。アイオワについては来週詳しく書こう。

写真)ブティジェージ氏

出典)Frickr: Gage Skidmore

 

 

〇アジア

 

 フランスでアジア系に対する人種差別的風潮が高まっているそうだ。SNS上では「中国人(アジア人)の受け入れを拒否し、強制送還しろ」といったものまであるという。我々だってフランス人とドイツ人の違いは見た目では分からない。これも1930年代に似てはいないだろうか。実に嫌な時代になったものだ。

 

〇欧州・ロシア

 

 英国の首相が吠えている。EU離脱後、年末までは従来と同様の「移行期間」となるが、ジョンソン首相が望むEUとの自由貿易協定(FTA)締結は容易ではなさそうだ。英国は関税ゼロを維持しつつ、環境など厳しいEU規制を緩和・撤廃したいのだろうが、EU側がそれを簡単に飲むとは思えない。英国の苦境は続くだろう。

 

〇中東

 

 3日、トルコ軍がシリアのイドリブ県でアサド政権軍と交戦し、双方に数十人の死傷者が出たようだ。最近では最大規模の交戦らしく、今後も続く可能性が高い。エルドアン首相は「沈黙するわけにはいかない。今後も報復攻撃を続ける」と強気だ。トルコはつい最近リビア内戦にも介入している。戦線を広げ過ぎているではないか、心配だ。

 

〇南北アメリカ

 

 今週からアイオワ党員集会、ニューハンプシャー予備選挙など、大統領選挙戦争が本格化する。一方、大統領の弾劾裁判は、何事もなく(つまりボルトン安全保障担当補佐官の証言もなく)、淡々と無罪評決が出る見込みだ。誰もが「おかしい」と思っているのに「有罪にはできない」もどかしさすら感じない、実に不思議な審判である。

 

〇インド亜大陸

 

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)Iowa state fair 2019で大統領候補者スピーチが行われた際の観客の様子

出典)Flickr: Phil Roeder

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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