トランプ止める最後のチャンスか
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年3月14日-20日)」
今週は忙しい週になりそうだ。まずは15日の米大統領選挙共和党予備選の行方から。米国では3rd Super Tuesdayとか、Mini Tuesday、更にはTerminal Tuesday(最終の火曜日?)などと呼ばれるらしい。簡単に言えば、ルビオ、ケイシック両候補の地元フロリダ、オハイオ両州でトランプが勝ったら、予備選はほぼ決まるということだ。 だが、それよりもはるかに重要と思われるのがシリア情勢だ。14日、プーチン大統領は(突然?)シリアに展開するロシア軍に撤退開始を命じた。同大統領は、「ロシア軍に課された任務は全般的に完遂された」とし、「ロシア軍の主要部隊の撤退を15日に開始するよう国防相に命令する」と述べたそうだ。何と人騒がせな男だろう!
○アメリカ両大陸
オハイオ、フロリダ両州共和党のルールはいわゆるWinner-Take-All(勝者総取り)だから15日一日で大勢が決まる可能性がある。逆に言えば、トランプを止める最後のチャンスなのかもしれない。24時間後には結果が分かるので、今予想してもあまり意味はないが、フロリダでトランプが勝てば、ルビオが終わることだけは確かだろう。
○欧州・ロシア
ポイントはロシアにとって今回のシリア撤退決定が既定路線だったかどうかだ。昨年9月末からの対シリア軍事介入の政治的、財政的コストは予想以上に大きかったのかもしれない。これでアサド政権の運命が変わるのか。いずれにせよ、ロシア軍は従来からシリアに駐留しているので、ロシアの軍事介入が終わる訳ではないだろう。
〇東アジア・大洋州
13日から台湾の馬英九総統が訪米するが、中国はあまり騒いでいないようだ。李登輝の時代とは違うのだろうか。17日にミャンマーで大統領が決まる。20日にはラオスで総選挙がある。ASEAN諸国の変化は常に漸進的。彼らは急激な変化を望まないのが特徴なのかもしれない。
〇中東・アフリカ
14日からシリア和平会議が再開される。今回のロシアの動きもその一環なのだろうが、ロシア軍主要部隊の撤退が大団円の始まりとは到底思えない。14日にはチュニジアの外相が、16日にはエジプトの外相がそれぞれモスクワを訪問する。ロシアの影響力は侮れない。
〇インド亜大陸
18日にインド空軍が大規模演習を行う。最近インド洋のシーレーンを考えると、米印軍事協力の行方をしっかり見ておく必要があるだろう。米国は武器を売りたいが、インドは軍事技術が欲しいという。どうなるか。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ画像:everystockphoto より素材として使用
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。