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Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・自慰行為の動画流出でパリ市長選バンジャマン・グリボー候補、出馬撤回。

・動画流出で拘束のパブレンスキー容疑者、露で過激な抗議活動で著名。

・同容疑者の犯罪行為は価値観の違い、表現の自由、インターネットの脅威の要素含む。

 

フランスの警察当局は16日、エマニュエル・マクロン大統領の推薦で来月のパリ市長選に立候補していたバンジャマン・グリボー氏(42)の出馬撤回につながったわいせつ動画について、ロシア人アーティストのピョートル・パブレンスキー容疑者(35)とその交際相手の女を拘束し、事情聴取を18日に終えた。

パブレンスキー容疑者によってインターネット上に流されたのは、2本の動画とその時に取り交わされた一連のメッセージであり、動画はグリボー氏と見られる人物が自慰をする内容だった。この動画等を受け取った女性は、当時女子大生だったフランス人のアレクサンドラ・ドタデオ容疑者(29)で、数ヵ月前からパブレンスキー容疑者と交際していたという。ドタデオ容疑者は事件への関与を否定している。

▲写真 バンジャマン・グリボー氏 出典:wikimedia commons : Jacques Paquier

動画流出を受け、3人の子を持つグリボー氏は、「家族と私は1年以上にわたり、誹謗(ひぼう)中傷やうそ、うわさ、匿名攻撃、私的な会話の盗聴と暴露、殺害予告の対象になってきた」と語り、そしてその誹謗は、今回この私的な動画の公開で新たな段階に入り、これ以上家族や自分を卑劣な攻撃にさらないためにも出馬を辞退すると述べたのだ。パリ市長選挙は与党「共和国前進(REM)」にとって重要な地点であり、アニエス・ビュザン保健相が急遽代りに立候補することとなった。

拘束されたパブレンスキー容疑者はロシアで過激な抗議活動で知られている人物だ。2013年には、政治的権利に対するロシア政府の弾圧に抗議し、モスクワの「赤の広場」で裸になり、自分の睾丸を敷石に釘で打ちつけるパフォーマンスを行い警察に身柄を拘束されている。2015年には、モスクワで9連邦保安局(FSB)本部の正面玄関に火をつけ、この件でもまた警察に身柄を拘束された。その後、身の危険を感じたことが理由で、2017年にフランスに亡命してきたのだ

動画 身柄を拘束されるパブレンスキー容疑者

ロシアでの時と同様に、今回パブレンスキー容疑者が起こした事件は、「価値観の違い」、「表現の自由」、「インターネットの脅威」など、多用な要素が含まれており、フランスでも大きな衝撃を与えている。

 

 

■ 価値観の違い

これまでフランスは、政治家が家族以外の異性関係があったり性的な問題があがっても、それは純粋な個人的問題であり業績とは関係ないとすることは、特にフランス政界では普通のこととされてきた。しかし、このロシアからの亡命者の価値観では、到底、許せないことだったのである。

パブレンスキー容疑者はグリボー氏について、「多様なセクシャリティを持つことは当然のことだが、彼は常に家族愛を持ち出し、家族のための市長になりたいと話し、自分の妻や子どもを繰り返し引き合いに出す人物だ。だが、実際は逆のことをしている。私は現在フランスに住んでいるパリジャンです。有権者として許せませんでした。」日刊紙リベラシオンに電話で述べている。

日本でも不倫は許せないと言う傾向が強いが、現在では多少は変わってきているものも宗教色が強いロシアでも、家族以外に性的関係をもっていることは道徳的に許せないという感覚の人は多いという。日本がロシアがと言うよりも、多くの先進国の中でも状況はほぼ同じであり、どちらかと言えば家庭外恋愛に対してとても寛大で、公私を分けることが徹底しているのは、フランス独特の価値観ともいえるのかもしれない。

フランスでは、亡命者や難民はフランスについて学ぶコースが義務付けられている。そして、語学教育の中でもフランス文化を教えることに大きく時間を割く。しかしながら、その中でも、こういった自由恋愛の価値観や、私生活と公的生活は分けて考えるという価値観は教えられているとは到底考えにくい。最終的には、本人のモラルに頼ることとなる。しかし、そのモラルが各人によって違えば、到底受け入れられることと、受け入れられないことも変わってくることとなるのだ。家族が居ながら他の女性と性的関係を持ちながら、「家族を大事にしています」と言い続けることは、フランスの価値観では正当でも、パブレンスキー容疑者にとっては単なる「偽善」に聞こえたのだ。

 

■ 表現の自由

フランスの幅広いメディアや政治家らは、グリボー氏を中傷キャンペーンの被害者だと表現している。しかも、卑劣な動画で攻撃されることによりグリボー氏が出馬を断念することは、現在同様な内容でいじめにあっている被害者に対しても、「やられたら終わり、やられたら泣き寝入りするしかない」と言うメッセージを送ることになると、出馬を取りやめたことを残念がる声も多い。

パブレンスキー容疑者にとっては、今回の行動は以前から行っている政治家や権力に多する活動の一環だとしている。モスクワの「赤の広場」で、自分の睾丸を敷石に釘を打ち付けた際も、「専制的な支配に対し声を上げ、われわれは今、警察国家と対峙しているという事実に危機感を喚起したかった」という理由で行ったのである。

フランスでもその活動は終わっていない。今回新たに立ち上げた「政界のポルノプラットフォーム」に「役人、政治家、権力の代表者」を対象とし、さらに動画を投稿し続けていきたいと語っている。また、事情聴取後の取材には、「この3日間、弁護士がついた状態で聴取されなかった。」と嘆きながら、「フランスは表現の自由の国だと思っていたが、まったくそうではない。」とも非難した。

フランスでは「表現の自由」が守られているとはいえ、シャルリー・エブド襲撃事件の時にも、実際どこまでを表現の自由として許されるかについて、世論は大きく割れた。今回の事件に関しては、私的なひわいな動画をインターネット上に流布させることは、フランスでは2016年以来フランスで犯罪とされ、2年の懲役および60,000ユーロの罰金により処罰が決められており刑事的に罪であることは間違いないが、他の細かい事象に対しては、詳細に決められているわけでもない。「モラル」と「必要とされる抗議活動」との境界線をどこで判断していくかが、常に問われ続けているのだ。

 

■ インターネットの脅威

複数の討論でも、「このような攻撃は民主主義に対する脅威」だとコメントが出された。政治に関する情報を伝えるメディアLCPではもっと具体的に、「これは、私たちの民主主義システムが変更されたことを示しています。ソーシャルネットワークの力は、古典的な政治的議論よりも強いことを表しています。」と述べているコメンテーターもいた。

現在まで、選挙と言えば、政治家はテレビなどのメディアで討論しているのを聞いたり、適切なマナーを知っている記者が書いた記事を読んで、選挙が行われてきた。しかし、インターネットの出現で、そうった古典的な民主主義システムは崩壊しつつあるのだ。

実は、パブレンスキー容疑者は、自分でインターネット上に動画を上げる前にあるメディアに話を持ち込んでいたとされる。しかし、メディア側は、私生活に関することは載せることはできないとその掲載を断った。昔ならば、この時点でこの動画が世の中に出ることはなかったかもしれない。しかし、現在は、社会的一般のモラルから反してしても、個人が誰でも手軽に自分が伝えたいことをインターネット上に上げて拡散できるのだ。現に、黄色いベスト運動でも大きく活用されてきているように、ソーシャルメディアを中心に、インターネットメディアはかなり強力な力を持つ情報源となっている。以前のように、統制された情報を流すことにより、理念やモラルを統一していくことは難しくなっているのだ。

日本においても、近年、個人の判断により、インターネットに非難や中傷を含んだ動画などがあげられることが多発し、イベントなどが中止に追い込まれたり、活動が阻害されたりするケースが増えている。フランスで起こったパブレンスキー容疑者が起こした事件は、まったく他人事ではないだろう。今後、フランスがどのような判断を下し、解決していくかは気になるところだ。

ちなみに、現在、フランスでは、このフランスの価値観を揺るがしたパブレンスキー容疑者の亡命受け入れの撤回を望む声もあり、議論に上がっている。保護が撤回される可能性は、法律に明確に記されている。

一つ目は、「国家の安全に対して重要な脅威の構成に関係していると考えられる理由がある場合」、二つ目は、「犯罪行為またはテロ行為を構成、または10年の懲役により処罰される犯罪のいずれかを犯した場合、およびその存在がフランス社会に対して深刻な脅威をもたらす場合」だ。

果たして、何を大きく問題視し、どういった判断が下されることになるだろうか。3月から始まる審議に注目していきたい。

 

-参照ページ-

https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?idArticle=LEGIARTI000037398405&cidTexte=LEGITEXT000006070158&dateTexte=20190101

https://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006070719&idArticle=LEGIARTI000033207318

https://www.bfmtv.com/police-justice/affaire-griveaux-piotr-pavlenski-dit-ne-pas-regretter-son-geste-et-s-etonne-de-sa-remise-en-liberte-1860407.html

https://www.liberation.fr/politiques/2020/02/14/benjamin-griveaux-se-retire_1778370

https://www.20minutes.fr/justice/2721095-20200218-retrait-benjamin-griveaux-alexandra-taddeo-compagne-piotr-pavlenski-mise-examen

 

トップ写真:ピョートル・パブレンスキー容疑者 出典:wikimedia commons : Dmitry Rozhkov

タグUlala, インターネット, グリボー, パブレンスキー, パリ市長選, フランス, 動画, 表現の自由

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