無料会員募集中
.国際  投稿日:2019/4/9

愛娘イヴァンカの婿その評判 トランプ政権「行く人来る人」列伝5


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・クシュナー氏祖父の代から不動産業やメディアに手を広げるが成功せず。

・大統領を後ろ盾に父親を起訴した人物を失墜させた。

・外国資本との癒着の訴追もトランプ大統領の恩赦で免れるだろう。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45131でお読みください。】

 

ジャレッド・クシュナー(ホワイトハウス上級顧問)

 ロシア政府との癒着度:★★★

 ドナルド・トランプとの親密度:★★★★

 任務に対して有能か:

 任期を全うできそうか:★★★

 

ドナルド・トランプの愛娘イヴァンカが伴侶に選んだのは、自分の父親そっくりの男だ。義理の父親が大統領に当選し、その上級顧問としてホワイトハウス入りしたジャレッド・クシュナーはあまり表舞台に出てこないが、外交官や政策顧問としての経験や知見がゼロで全く頼りにならない

▲写真 アメリカ合衆国イバンカ・トランプ大統領補佐官 安倍晋三首相主催の夕食会にて。2017年11月3日 出典:首相官邸

ジャレッドの父親はトランプの父親と同じように、祖父から継いだニューヨーク郊外(ジャレッドの場合ニュージャージー州)の中産階級向け住宅地を中心とした不動産で巨万の富を築いたチャールズ・クシュナーという人物。

だが彼は2005年に違法な選挙献金と脱税で起訴された。罪状にもうひとつ「証人買収(witness tampering)」とあるのは、警察当局の捜査に協力していた親戚をゆするために売春婦を雇い、義理の弟の元に送り込み、不倫の様子を撮影してそのテープを妹に送りつけたことを指している。チャールズは有罪判決を受けて14ヶ月服役した後に出所、今も不動産業に勤しんでいる。

そして息子のジャレッドとともにニュージャージーからマンハッタンに進出しようとして買収したのが666 Fifth Avenueという物件だ。目抜き通りである五番街の中心地に建つビルで、1階にはユニクロの旗艦店が入っている。2007年当時に18億ドルという、単一の商業ビルとしての最高額をポンと支払ったかのように思われていたが、クシュナー親子の事業はすぐに火の車となった。

▲写真 666 Fifth Avenue 2007年 出典:Wikimedia Commons; Kurpfalzbilder.de

このビルのローン返済期限が迫ってあわや破産という事態にに追い込まれた際、カタールのハマド・ジャーシム・アル・サーニー前首相や、中国の安邦保険会社に出資を依頼するも断られている。その後、世界中に不動産ネットワークを持つブルックフィールド・グループが借金のほとんどを肩代わりする形で経営に参加したが、ここもカタール資本が多く入っている。

ジャレッドとイヴァンカは2007年に共通の知り合いを通して出会った。何かいっしょにビジネスでもやったらという提案に、恋人として付き合う関係になったわけだが、ジャレッドはユダヤ人であり、結婚を考えるにはイヴァンカの改宗が必須だったためいったん別れている。2009年によりを戻し、5.22カラットのダイヤの指輪を贈られ結婚、3人の子供を授かっている。子供たちに中国語を習わせており、流暢に喋れるのが祖父ドナルドの自慢の種だ。

不動産だけでは飽き足らず、クシュナーが次に目指したのはメディアだったのだろうか、2006年に「ニューヨーク・オブザーバー」という週刊紙を買収している。この新聞は1987年創刊、発行部数こそ多くはなかったが、ニューヨークの主要産業である金融、メディア、政治、エンタメ産業の情報に強く、影響力もあった。だが、当時まだ25歳だったクシュナーは、自分がおもねりたい人物の提灯記事を書かせたり、都合の悪い報道記事を差し押さえては編集スタッフに煙たがられていた。

ベテランのピーター・キャプラン編集長が2009年に辞めてからは後続が続かず、2016年にはとうとうオンライン版だけになってしまった。2012年にはメジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースを買収しようとしたところも、岳父がアメフトのバッファロー・ビルズを買おうとして失敗したエピソードとそっくりだ。

クシュナーは岳父のドナルド・トランプが大統領になれば、それを利用してさらに儲けられると考えたのか、表向きには事業から手を引くと見せかけてホワイトハウスに居座り、自分の立場に反対意見を唱えるスタッフを次々と失墜させてきた

例えば、トランプに政治関係の人脈が乏しいのを見抜き、内閣の人材を確保するために奔走したのは、共和党の大統領候補予選ではライバルでもあったニュージャージーのクリス・クリスティー前知事だが、実は彼こそが父チャールズを起訴した検察長官だったことを忘れていなかったジャレッドは、トランプに進言してクリスティーを解雇させている。

▲写真 クリス・クリスティー前知事 出典:Wikimedia Commons; MICHAEL VADON

さらにトランプ大統領はこの義理の息子がお気に入りと見えて過分な任務を与えている。中東平和条約締結、オピオイド系覚せい剤の取り締まり、メキシコや中国との外交、帰還兵手当制度改革、刑事司法制度改革などと「なんでも大臣」としてトランプの信用厚いのはけっこうだが、ベテランの政治家でも成し遂げ難いこれらの任務の中で、かろうじて実現できたのは刑事司法制度改革だけだ。なぜなら、これだけは民主党も望んでいた法改革なので、野党に丸投げして実現したというわけだ。

▲写真 トランプ大統領とクシュナー氏 出典:Flickr; The White House

マラー特別捜査官チームの調査結果の発表をめぐり2大政党が争う中、クシュナーは自らの不動産の借金返済のために、トランプ大統領を動かせる力を持っているということで、カタールだけでなく、ロシアや中国、そしてアラブ首長国連邦からもcompromised(利用できそうだ)と判断され、アメリカ政府の秘密取扱者適格性検査に不合格となったが、これもトランプ側の一方的な撤回により、ホワイトハウスへの出入りを許されている状態だ

いずれ、外国資本との癒着や、自身の金銭関係のために外交を動かしたことが表沙汰になった時はたとえ訴追されてもイヴァンカにすがり、彼女の父に恩赦してもらえるだろう。結婚相手選びの才能ぐらいはあったということか。

トップ写真:クシュナー氏 2017年 出典:Flickr; Chairman of the Joint Chiefs of Staff


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."