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.国際  投稿日:2020/4/22

米で対中コロナ損賠訴訟勃発


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・米ミズーリ州当局、コロナウイルスの損害賠償を中国に起こした。

・米では官民ともに中国の責任を法的に追及する動きが高まっている。

・米議会ではすでに中国への賠償を請求する決議案が提出済み。

 

アメリカの中西部のミズーリ州当局が中国の政府や共産党に対して新型コロナウイルス大感染の責任を追及し、損害賠償を求める訴訟を正式に起こした。4月21日、アメリカの単独の州としては初めての訴えだった。

だがこの背景にはすでにアメリカの連邦議会や一般の民間団体で、同様の中国への賠償請求の動きがすでに広がっている。ミズーリ州の訴訟はアメリカ全体のコロナウイルス感染に関する今後の険しい対中態度の象徴ともいえるようだ。

ミズーリ州では4月21日の時点でコロナウイルスの感染者は5963人、死者215人、経済的損害は少なくとも440億ドルとされていた。

ミズーリ州当局は21日、中国に対する訴訟を同州セントルイス連邦地裁に起こした。同訴訟の直接の責任者となったミズーリ州当局のエリック・シュミット司法長官は今回の訴訟の理由を次のように説明した。

「ミズーリ州では中国発のコロナウイルスの感染による被害は莫大であり、数千人が感染し、多数が死に、多くの州民が家族から悲痛な別れを余儀なくされた。莫大な経済的損失をも受けた。中国政府はこのウイルスの危険や感染について全世界に向けて虚偽を述べ、内部からの報告者を沈黙させ、感染拡大の措置を取らなかった。その責任は追及されねばならない」

そのうえでシュミット州司法長官は訴状の内容を公表した。

▲写真 ミズーリ州当局のエリック・シュミット司法長官 出典:Wikimedia Commons; Cocap31

訴状の要旨は以下のようだった。

・中国当局によるコロナウイルスに関しての繰り返しの違法で不当な行動やその隠蔽はミズーリ州民多数の生活、健康、安全に対して有害と危険をもたらした。

・中国当局による欺瞞、隠蔽、過失、そして無行動という唖然とさせられる対応がこのパンデミックを世界に広げた。とくに武漢でのウイルス発生の当初の数週間の中国当局の態度が国際的な大感染の原因となった。

・防疫には最重要だったその数週間、中国当局は国民をだまし、致命的に重要な情報を隠し、警告を発した医師たちを罰し、人間から人間に感染する事実を抹殺し、超重要な医学情報を削除し、全世界の人々への感染を生じさせた。しかも医療上の防護服類を買い占めてして不当な巨利を得た。

・ミズーリ州当局は中国政府のこうした態度はまったくの不当、不必要であり、その意図さえあれば、簡単に変えられたと判断する。そして財政的な賠償金を求めるだけでなく、中国当局が冒した罪をそのウイルスの真の発生源についての調査を含めて、今後、継続して解明していく。

アメリカやその他の諸国には他の主権国家自体に対する訴訟を禁じる法律がある。アメリカの場合、「外国主権免除法」という法律である。

ところが同法も外国政府による商業活動やアメリカ国内での違法行為をその訴訟の禁止対象から除外している。ミズーリ州の今回の訴訟もその点を踏まえて、中国に対しては単に主権国家の政府だけではなく、共産党や武漢市当局なども損害賠償請求の相手に加えて、中国側の責任回避を阻むように考慮されているようだ。

アメリカでは現在、官民ともにコロナウイルス拡散に対する中国の責任を法的に追及する動きが高まってきた。これまでに民間ではフロリダ州やテキサス州などで合計7つの民間団体が中国当局に対する損害賠償請求の集団訴訟を起こした。

またアメリカ議会では4月20日、上下両院の共和党議員合計22人がトランプ政権に書簡を送り、中国のコロナウイルス感染に対する責任を国際司法裁判所に訴えることを要請した。

アメリカ議会ではすでに中国への賠償を請求する決議案が3月下旬に提出された。

上院のジョッシュ・ホーリー議員(共和党)、下院のエリス・ステファニク議員(共和党)ら約10人の与党議員グループは3月23日、コロナウイルス感染症に関して中国政府の責任を法的に追及し、感染の国際的な拡散によって被害を受けた諸国への賠償支払いを求める、という趣旨の決議案を上下両院に同時に提出したのだ。

▲写真 ジョッシュ・ホーリー上院議員 出典:Office of Senator Josh Hawley

その決議案の要旨は以下のようだった。

中国政府がコロナウイルスの感染の拡大や殺傷性を意図的かつ組織的にカバーアップ(隠蔽)する工作を実行するという非道徳的な決定をしたことはアメリカ国民を含む数十万の人間の死をもたらした。

・アメリカ議会は中国政府に対してその傲慢な決定が全世界にわたって生んだ有害、損失、破壊に対して、法的な責任をとって、損害賠償金を支払うことを求める。

・アメリカ議会は国際社会に対してそれぞれの国家が中国の行動によって受けた損害を数量的、金額的に測定し、中国政府からの賠償金を受け取るための法的なメカニズムを創設することを提案する。

アメリカの官民ではこのような動きがすでに激しくなっているのだ。だから今回のミズーリ州の訴訟もそうしたアメリカ全体での潮流の反映ともいえる。それにくらべて日本では表面でみる限り、コロナウイルス感染での歴史的な被害に関して中国の非を責める動きはまず目立たないようである。

トップ画像:コロナウイルス蔓延下のスーパーマーケット 出典:Commander, Navy Region Hawaii


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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